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エジプト労働記 (38) 伝わらない理由
異国エジプトで、ダブルワークならぬトリプルワークをこなす”おろぐちともこ”が、仕事や現地生活をマンガとコラムでご紹介。ピラミッドだけじゃないエジプトをお楽しみください。(毎週火曜更新予定)
【「USP」って何だ!?】
ある日の職場でのこと。同僚の女性が困った顔をしています。
「日本のオフィスに英語でメールしたんだけど、向こうに言いたいことが伝わっていないみたい…」
エジプト人の同僚たちは普段アラビア語で会話をし、メールのやり取りなどの仕事は英語で行います。英語のネイティブじゃないから間違えたのでは? とも思ったのですが、彼女はアラビア語・英語・ドイツ語を操るトリリンガル。仕事もバリバリこなすキャリアウーマンな彼女の英文メールが伝わらない…?
不思議に思い、返信メールを見たら「『USP』って何ですか?」という質問が。「USP」、何かの略語かな…? 私の頭の中に浮かぶ「??????」の文字。心当たりがありません。「USP」って何だろう…?
考えこんでいた最中、「!」と突然のひらめきが。
「もしかしてUSPじゃなくて、USB??」と同僚に聞くと、「そうよ。USBメモリー。だからUS…あ!」と言って、顔を赤らめる彼女。そう、彼女は「USB」と書くところを「USP」とスペルミスしていたのです。
実はこの勘違い、エジプト人であれば仕方がないといえる間違いかもしれません。
なぜならエジプト人が使うアラビア語には、「P」の音を表すアルファベットがないから。英語などの外来語をアラビア語で表記する時は、「P」のかわりに「B」の文字で代用しますし、話すときにも「P」の音を「B」と発音する人が多いのです。
例えば「プリーズ」は「ブリーズ」、「クレオパトラ」は「クレオバトラ」に。クレオバトラ…何か強そう…。日本人が「L」と「R」の発音の違いが苦手なように、エジプト人にも苦手な発音があるんですね。
英語が得意な彼女は「P」と「B」の違いを意識しすぎるあまり、うっかり「B」のままでいいものを「P」だと勘違いしていたよう。「USPメモリー」、新しい響きです。
「だから伝わらなかったのね! 恥ずかしいわ~」と照れる同僚。「完璧なキャリアウーマン」と思っていた彼女のちょっとした勘違いが何ともかわいらしくて、心がほっこりしました。
「チプシー」という名のポテトチップスですが、「チブシー」と言っているように聞こえます
おろぐちともこ
大学で古代エジプト史を専攻し、2011年よりカイロ在住。日々、エジプト人観察に励む。
現在はWebやエジプト人による日本語雑誌の漫画を執筆したり、デジタルアシスタントをしたりと、国境を越えて活動中。至上の喜びは、素敵なカフェで水タバコの煙をゆらしながらぼけっとお茶をすること。生活記Blogつぶえじでは、現地の生活の様子を不定期に発信している。