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中東が混迷を深める理由とは? 黒木英充、鈴木恵美、高橋和夫、萱野稔人、春香クリスティーンが議論(1)

 中東が混迷を深める理由とは? 黒木英充、鈴木恵美、高橋和夫、萱野稔人、春香クリスティーンが議論(1)

 

  THE PAGEが放送したTHE PAGE 生トーク「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」(http://thepage.jp/detail/20150302-00000006-wordleaf?)。出演は、黒木英充・東京外国語大学教授、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員、高橋和夫・放送大学教授。司会・進行は、萱野稔人・津田塾大学教授、春香クリスティーンさん。
 
  以下、「中東が混迷を深める理由」について議論した部分の書き起こしをお届けします。
 
 ※討論の動画は本ページ内の動画プレイヤーでご覧頂けます。

人質事件の印象

 [画像]萱野稔人・津田塾大学教授(左)と春香クリスティーン(右)

 (以下、書き起こし)
 
 春香クリスティーン:皆さんこんばんは。春香クリスティーンです。今日は、THE PAGE 生トーク、「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」をお送ります。ゲストの皆さんをご紹介したいと思います。黒木英充、東京外国語大学教授。
 
 黒木英充:こんばんは。
 
 春香クリスティーン:鈴木恵美、早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員。
 
 鈴木恵美:こんばんは。
 
 春香クリスティーン:高橋和夫、放送大学教授。
 
 高橋和夫:どうぞよろしく。
 
 春香クリスティーン:そして、司会は萱野稔人、津田塾大学教授です。
 
 萱野稔人:こんばんは。
 
 春香クリスティーン:お願いします。さて、番組ではご覧の皆さまから、番組をご覧の皆さまからTwitter、そしてメール、Facebookのコメントなどで質問と意見を募集しています。詳しくはご覧のページの説明をご覧ください。そしれでは、萱野さん、お願いします。
 
 萱野:よろしくお願いします。春香さんは「THE PAGE 生トーク」初めてですね。
 
 春香クリスティーン:はい、初めてです。
 
 萱野:ちょっと頑張っていきましょう。
 
 春香クリスティーン:はい。
 
 萱野:はい。今日は中東問題がテーマなんですよ。ちょっと重いテーマなんですけれども、中東問題、最近ものすごく日本でも話題になってますけど、春香さんはどんな印象を持ってます?
 
 春香クリスティーン:そうですね。本当に日本でも話されるようになったのって、本当に今年に入ってからとか去年辺りからっていう本当に最近だなっていう感じはするんですけど、物心ついたことから、もう非常にやっかいな状態になっていて、で、それがどんどんどんどん複雑になってきていて、いったいどのようなことが今現在起きているのかっていうのは今非常に気になりますね。
 
 萱野:そうですね。距離も遠いですから、なかなか何が起こってるのか分かりにくい。そんな中で人質事件が起きた。これ国民的な関心を中東に向けたわけですけれど、まずこの点からですね。人質事件に関してどんな印象を持ったかということを今日のゲストのお3方に聞いていきたいと思うんですけど、まず鈴木さん。
 
 鈴木:はい。
 
 萱野:人質事件に関して、どんな印象を持たれました?
 
 鈴木:そうですね。やはり、一言で申し上げれば、イスラム国の問題っていうのはしばらく続くであろうと思われますから、日本政府および日本国民は大変な、現実的な国際問題に直面、もうせざるを得ない時代になったなと。新しい時代って言うとちょっと大げさかもしれませんけども、大変な時代に日本は直面するようになったなというふうに思いました。
 
 萱野:あの事件によって、中東と日本の関係ががらっと変わった可能性もあるということですね。
 
 鈴木:そうですね。はい。より現実的な問題として、対峙しなくてはいけなくなったというふうに思いました。
 
 萱野:黒木さんいかがですか。
 
 黒木:はい。あの2人の映像が最初に流れたときですね。やはり非常に深刻な、と言いましょうか。それまでにもイラク人とかシリア人が同じような形でずっとたくさん、もう本当にたくさんの人々がああいう形で命を失ってきた、殺されてきたのを見ていたわけで、そういう意味ではついに日本人がっていう感じですよね。それと、今、鈴木さんおっしゃったように、これによって日本社会自体が変質していくんじゃないかっていうような。
 
 萱野:ああ、日本社会自体がですね。
 
 黒木:ええ。そういう予感と言いましょうか、それを感じました。
 
 萱野:なるほど。どんなふうに変わっていくのかっていうのは、またのちほど深く聞いていきたいと思いますけれども、日本社会自身も変わっていくかもしれないっていうことですよね。高橋さん、いかがでした。あの人質事件、今から総括すると。
 
 高橋:なんか一番最初に思ったのは、あのオレンジの服を着て出てきて、無事に帰ってきた人はほとんどいないんですよね。だから、非常に暗い予感を受けたんですけど、テレビではそんなに暗いお話もできないっていうのが少しつらかったですね。それから、もう1つは自己責任か政府の責任か、いろんな議論があったんですけど、1つはやっぱり日本の大手メディアが自分のところの社員は出さなくて、フリーの人たちが危険なところに行って映像を撮ってきて、それを流すというシステムで動いてるんですよね。ですから、なんかメディアの人たちもその自分たちの在り方をちょっと考えてほしいなっていうのが、大手メディアでは言えない自分の本音でしたね。
 
 萱野:なかなか、かなりこの問題、人質問題ではテレビ出られてましたけど、言えない問題もかなりあったということですよね。
 
 高橋:そうですね。
 
 萱野:今日はその言えない問題、言えないことをたくさん言ってほしいですけどね。
 
 高橋:はい。
 
 萱野:ネットならではというか、ネットだからこそ言えるっていうこともあると思いますので、よろしくお願いします。
 
 高橋:はい。
 
 春香クリスティーン:さあ、それではまず、最初のテーマに進みたいと思います。

宗派対立の激化

 萱野:はい。最初のテーマなんですけれども、今イスラム国がシリア、イラクの領土の中で勢力を今時点では拡大してると言えないかもしれませんけど、大きな勢力を今、まだ保っているということで、先日はリビアでも人質を大量に殺したという映像がアップされてるということで、中東がまた新しい混迷に陥っているんではないかなと思うんですけれども、今の中東の混迷の原因ってそもそもなんなんですか。ここからお伺いしたいんですけれども、まず黒木さん。ちょうど今日、今朝ですよね。中東から戻られてきたの。
 
 黒木:はい。
 
 萱野:どちらに行かれてたんですか。
 
 黒木:はい。レバノンのベイルートに行ってました。
 
 萱野:レバノンですか。レバノンと言えば、イスラエルの北側にあって。
 
 黒木:そうですね。
 
 萱野:ヒズボラを抱えているというとこですよね。
 
 黒木:そうです。
 
 萱野:いかがでした。
 
 黒木:1週間ぐらいの滞在だったんですが、地中海に面してまして、もうこの季節になると春爛漫でして、気候はいいし、という感じなんですが。
 
 萱野:本来なら。
 
 黒木:しかし、実際良かったんですが、社会の亀裂と言いましょうか、すぐ隣シリアで、山を1つ、2つ超えるともう戦闘があるわけなんですね。車ですと順調にいけば小1時間ぐらいで行ってしまうような距離なわけです。そういう地域で、しかもレバノンの国軍の兵士自体もまだ人質にそれこそ取られている。で、その家族が私の、うちの大学の研究所がベイルートに現地拠点を持っているんですが、そのすぐ近くに国連関係の建物がありまして、そこで国連に訴えるっていうんで、その家族たちがテントを張って座り込みをしてるんですね。
 
 萱野:人質に取られた人たちの家族。
 
 黒木:兵士の家族たちがですね。それで、それはヌスラ戦線っていうアルカイダ系の民兵組織に、シリアの反政府組織に拘束されてるわけですが、それで、そういう家族たちがいるっていうこともあって、周りが鉄条網で封鎖されたりしまして、うちの事務所の周りもですね。それでそういう、町のそれ、中心部なんですけれどもそういう状況と、それからレバノンは今9カ月にわたってまだ大統領が決められないんですね。空位なわけです。で、そういう要するにこれは中でいろんな駆け引きが続いてるんですけれども、その中でだんだんと社会の基盤が溶けていくんじゃないかっていうような恐れですね。そういうものが人々の間にたまって、充満しているっていう感じがありましたね。
 
 萱野:なるほど。今、例えばイスラム国が支配を広げてる地域っていうのはイラク、それからシリア、あとリビアもこの前ありましたけれども、どこも例えばイラクであれば、政府がなかなか統治を貫徹できない、非常に不安定になっている、で、シリアは内戦、リビアはそこも事実上の内戦になってる。政情不安定なところでイスラム国が勢力を伸ばしているとこがあると思うんですけれども、レバノンもそういった雰囲気というか、政情不安定がまたいろんな反政府組織だとか、テロ組織を生むような雰囲気っていうのがあるんですか。
 
 黒木:地方、地方によって小さい国なんですけれども、実際に一部、旗を、黒い旗を掲げて写真を撮ったりするような、そういうところもあるわけなんですね。ですので、いろいろ火種はあちこちにあるという感じですね。でも、レバノンの人たちは総じてそういったものには非常に強い拒否反応を持ってまして、そういう点では今すぐどうなるっていう、そういう心配はないと思うんですが、しかし、やっぱり人々に不安はあるっていうことですね。
 
 萱野:なるほど。もうちょっと聞きたいんですけれども、その政情不安になっている中東全体。比較的安定しているところもあれば、不安定なところもあると思いますけれども、要因って一言で言えばなんだと思います?
 
 黒木:これは話すと長くなりますが、いろんな形で、今で言うとスンニ派対シーア派っていうこの宗派対立ですね。これが中東全域を覆い尽くしつつあるんですね。その一環としてさまざまな現象が起こっているわけです。
 
 萱野:宗派対立が一番やっぱり根深いっていうことですね。
 
 黒木:そうですね。最初は宗派対立じゃなかったかもしれない。例えばシリアの内戦はそうなんですけれども、だんだんそっちに流れが傾いていって、社会が2つに分極化していくっていう、そういう現象ですね。

アラブの春の影響

 萱野:なるほど。鈴木さんはどのように見られてますか。今の中東の混迷の原因というのは。
 
 鈴木:原因は本当に1つではなくて、いくつもあると思うんですけれども、1つには2011年に始まった、いわゆるアラブの春、アラブ動乱後のそのときに崩壊してしまった秩序ですね。主に共和制を取る国においてアラブ動乱があったわけですけども、その後の秩序が崩壊して、新しい新秩序っていうのを作っていければいいんですけれども、そこに至らないと。新しい体制を模索する以前の、まだ崩壊しているような今、状況にたぶんあるんだと思うんですね。ですので、しばらくはこのような状態でいる、続くと。で、そういう過程でシーア派対スンナ派であるとか、若者のフラストレーションが爆発するだとか、いろんな次元で、さまざまなレベルで複合的に問題が今、噴出しているんだと思いますね。
 
 萱野:今のこの混乱の一番近いところでの出来事っていうのを考えるなら、2011年のアラブの春だろうというふうに考えていいわけですか。
 
 鈴木:そうですね。はい。
 
 萱野:なるほど。そこでどこの国も長期政権、独裁政権でもあったわけですけども、崩壊しましたよね。それが結局、秩序のふたを取っちゃうというような、そういうようなことがあって、今のような混乱に陥っていったっていうふうに考えればいいですか。
 
 鈴木:そうですね。はい。独裁者、決していいというわけではないですけれども、ああいう独裁者、あるいは権威主義体制っていうのは国のいろんな不満を押し込める、いいとは言えないですけども、少なくとも多くの人が今のように亡くなることはなかったわけですよね。みんな我慢していたと。そのたがが外れてしまった状態なんだと思いますね、今。
 
 萱野:なるほど。リビアなんてもうそうですよね。
 
 鈴木:そうですね。まさに。
 
 萱野:カダフィ政権倒そう、そこではNATOも空爆しましたからね。カダフィ政権倒すために。で、倒れたはいいけれども、結局、もっと最悪の事態になってしまったのかもしれないということですよね。
 
 鈴木:そうですね。いっぱい武器をためこんでいた国家ですから、その武器を管理する人、ない状態でつぶしてしまったというところに、私の専門はエジプトですけども、エジプト、今非常に大混乱ですけれども、その一因はお隣の国、リビアから大量の武器弾薬が入り込んでしまっているっていうところですね。

イラク戦争とは

 萱野:なるほど。高橋さん、どのようにご覧になってますか、今の中東の混乱。
 
 高橋:私もお2人の意見に賛成なんですけど、新たなポイントを1つ指し示すとすると、やはりイスラム国、今、イラクとシリアを支配してますよね、一部をね。で、イラクでサダム・フセイン体制をアメリカが無理やり倒したと、そのつけが回ってきているというのは指摘できると思いますよね。ですから、リビアもそうですし、エジプトもそうでしたけど、独裁体制が強い間は混乱はなかったわけですよね。その平和がいいのかっていうのはまた別問題ですけど、安定してたわけですよね。それを無理やりに倒してしまって。
 
  私はよく言うのはやっぱり、イラクっていうのはまとまりの悪い国で、スンニ派とか、シーア派とかクルドとかアラブとか。だから、われわれが持ってるこの台本みたいなもんで、サダム・フセイン体制っていうのはこのホチキスみたいな人だったわけですよ。それをアメリカが無理やり引っぱがして、中東は風が強いから今、ばらばらばらとなろうとしているという、そういう要因があると思いますね。ですから、1つの秩序が壊れて、まだ新しい秩序が出来上がっていない。そういう時代だと思いますね。
 
 萱野:なるほど。今の秩序の混乱の原因をもっとさかのぼると、やはりイラク戦争まで行き着くんだということですよね。
 
 高橋:そうですね。
 
 萱野:で、アメリカ自身がその秩序のふたというか、このホチキスを取ってしまったというところが原因だということですよね。
 
 高橋:そうですね。だから、イラクは難しいから、そのあとが難しいからって専門家はみんな思ったんですけどね。いや、簡単だよ、と思った人たちが戦争を始めて。
 
 萱野:そうですね。
 
 高橋:ほら、見たことかと言ってみても、イラクの混乱はもう止まらないですからね。
 
 萱野:なるほど。あれが最初の秩序崩壊の序章というか、きっかけになったということですね。お伺いしたいんですけれども、イラク戦争からアラブの春のまで、だいたい8年ぐらい期間がありますよね。2003年にイラク戦争が始まって、アラブの春が2011年。何か関係があるんですか。イラク戦争があったからアラブの春が起きたとか、イラク戦争によってアメリカがイラクの秩序をがっと転覆というか、倒してしまったが故に、ほかの地域まで秩序の揺らぎが波及したっていうことは言えるんでしょうか。
 
 高橋:イラクに関して、ですから、おそらくそのイラクが混乱したということと、ほかの国々でアラブの春が起こったということはたぶん直接な関係はないと思うんですね。やはり、エジプトはエジプトでやっぱり長年の矛盾というのが、イエメンもそうですし、いつ爆発するだろうかという感覚でずっとわれわれ見守って、で、それがたまたま2011年だったということですね。ですから、人口問題、失業問題、格差の問題、いろんな問題があって、そこで、たまたま2011年だったというふうに見てますね。

 萱野:なるほど。これ、中東をどう見たらいいのかっていうことにもつながると思うんですけれども、2011年のアラブの春って何が原因で起こったんですか、鈴木さん。いろんな要因があると思いますけど、当時は日本ではインターネットだとかソーシャルネットワークとかいろいろ言われたと思うんですけれども、もっと別のところに原因があるような気もするんですよ。アラブの春の原因、なんなんですかね。
 
 鈴木:私の個人的な意見ですけれども、独裁体制を倒せっていうことを言いましたけれども、あの一連の革命というか動乱というのは、やはり反汚職運動、反汚職革命だったと思うんですね。で、その汚職っていうのは本当に私たちが思うような悪いビジネスマンとか、政治家と癒着したビジネスマンが不当に利益を得るだとか、そういう金銭的な汚職もそうですけれども、縁故主義ですよね。コネのあるいいとこのお坊ちゃん、お嬢ちゃんばかりが就職できたりとか、そういう広い意味での腐敗、汚職っていうのがもう社会の末端にまで浸透していたので、それに対してこれからの将来、生きなきゃいけない若い世代が立ち上がったということだと思いますね。で、その腐敗、汚職の象徴が大統領だったっていうことだと思いますね。非常に反汚職色が強いのがアラブの春だったと思います。
 
 萱野:なるほど。今の話、よく分かりやすかったんですけども、ということは、縁故主義が蔓延してるということは、そういう社会なんだというふうにアラブ社会をわれわれ、見ていいということですか。根強い。
 
 鈴木:ええ。少なくとも2011年まではかなりそういう傾向はあったと思うんですね。で、今も残念なことに、今もあまり本質的には変わってはいないと思います。ただ、それに対して「ノー」を言う若い世代が今ちょっとがつっとやられてしまってますけども、今少しおとなしいですけどれども、若い世代が確実に育ってきているので、10年後、20年後はまた別な形で、いい作用っていうか、汚職は駄目だっていうような、そういう空気っていうのがまた出てくるかもしれないですね。

シリアの汚職問題

 萱野:次、例えば、シリアで政府軍の戦いと反政府軍。イスラム国もあればイスラム戦線もあるんですけど、彼らも反汚職として戦ってるんですか、もともとは。
 
 黒木:汚職の問題はシリアも汚職でしたし、今の要するに縁故主義ですね。それはもうありましたよね。で、ただ、始まりは治安機関の暴力ですね。それに対する講義ですよね。ですから、エジプトなりチュニジアなりで人が町に出て、デモができるっていう、その感じを、感覚を持った人たちが、要するにそれまでのシリアでは考えられなかったことだったんですが、この暴力はないだろうと、子供を拷問したっていうですね。で、それに対する、だから、そもそもの最初はその拷問をした治安機関の人間をちゃんと処罰しろということが始まりだったわけですね。
 
  ですから、その背後にはその都市の問題とか、人口、若者の問題とか、そこが結局、縁故主義につながっていくとか、腐敗の問題も含めてずっとそこに収斂していって、だんだんあとは外から、先ほど鈴木さんがリビアの武器がエジプトに入ってるっていう話がありましたけども、リビアの武器はシリアにもたくさん入って、人もたくさん来ましたしね。そういう形でいろんな、お金が流れ、武器が流れていったっていうことですよね。
 
 萱野:春香さん、なんか質問ありますか。今の話で聞きたいことっていうのは。
 
 春香クリスティーン:そうですね。なかなか広く、いろいろな議論がありましたけど。

中東の国境意識

 萱野:そうですよね。いや、僕聞いててもうちょっと聞きたいなと思ったのは、リビアの武器が例えば、中東中に広がるじゃないですか。そんな簡単に国境を越えられるのかな。超えられるのかな、あの地域っていうのは、そんなに簡単に国境を越えることって簡単なのかっていう疑問なんですけど、実際どうなんですか。
 
 高橋:やっぱり国の力が弱いですよね。だから、政府はある意味、税金を集める力もないし、一応、国境は管理してるんですけどね、長い国境線で、管理してないことは砂漠で渡っちゃえば簡単ですし、地中海なんて船で自由には行き来できないんですけど、自由に行き来してますよね、勝手にね。ですから、日本人は割と国境っていうのがびしっとあって、それをなんか守ってるという雰囲気があるんですけど、たぶん中東の人は、世界のグローバルスタンダードは、自分たちのほうが昔から勝手に動いてて、国境のほうからあとから来て失礼なやつらだなと。なんでパスポートなんて持たないといけないんだっていう感情のほうがたぶん、素直だと思いますね。
 
 萱野:中東の人にはかなりその意識、強いですか。
 
 高橋:そうですね。かつては1つの国でしたし、言葉も通じますし、そういう意味ではそれは非常に中東的だって思うかもしれないですけど、アメリカに行けば非合法で住んでるヒスパニックの人が何百万人といて、それは当たり前のことですよね。ですから、ある意味、日本が異常なのかもしれないと私は思うんですけどね。
 
 —————————
 ※書き起こしは、次回「第2部(http://thepage.jp/detail/20150315-00000002-wordleafv?)」に続きます。

 ■プロフィール
 
 黒木英充(くろき ひでみつ)
 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門は中東地域研究、東アラブ近代史。1990年代に調査のためシリアに長期滞在、2006年以降はベイルートに設置した同研究所海外研究拠点長として頻繁にレバノンに渡航。主な著書に『シリア・レバノンを知るための64章』(編著、明石書店)など。
 
 鈴木恵美(すずき えみ)
 早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員。専門は中東地域研究、近現代エジプト政治史。著書に『エジプト革命』中公新書、編著に『現代エジプトを知るための60章』、他、共著多数。
 
 高橋和夫(たかはし かずお)
 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。
 
 萱野稔人(かやの としひと)
 1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。博士(哲学)。哲学に軸足を置きながら現代社会の問題を幅広く論じる。現在、朝日新聞社「未来への発想委員会」委員、朝日新聞書評委員、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。『国家とはなにか』(以文社)、『ナショナリズムは悪なのか』(NHK出版新書)他著書多数。
 
 春香クリスティーン
 1992年スイス連邦チューリッヒ市生まれ。父は日本人、母はスイス人のハーフ。日本語、英語、ドイツ語、フランス語を操る。2008年に単身来日し、タレント活動を開始。日本政治に強い関心をもち、週に数回、永田町で国会論戦を見学することも。趣味は国会議員の追っかけ、国会議員カルタ制作。テレビ番組のコメンテーターなどを務めるほか、新聞、雑誌への寄稿も多数。著書に、『永田町大好き! 春香クリスティーンのおもしろい政治ジャパン』(マガジンハウス)がある。

 本記事は「THE PAGE」から提供を受けております。
 著作権は提供各社に帰属します。

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