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理研・松本新体制で「科学者の自由な楽園」は再生するか
[写真]就任会見を行った理研の松本紘理事長
4月1日、理化学研究所は都内で記者会見を開き、野依良治氏に代わって新しい理事長に就任した松本紘氏が抱負を語りました。
松本新理事長は、京都大学超高層電波研究センター教授などを経て、2008年から2014年まで京都大学の総長。その間、NASAエームズ研究所など海外の研究機関でも要職に就いています。京大では、大きな学内改革を実行したことでも知られています。
同時に4人の理事が任期満了で退任しました。STAP細胞問題では、研究不正の発生だけでなく、事後処理についても、理研は批判されました。不正再発防止のために外部委員で構成された改革委員会は昨年6月、「研究担当の理事とコンプライアンス担当の理事は管理責任を取って交代すべきである」と提言したのですが、研究担当の川合真紀理事は任期を満了しての退任となりました。なお、昨年10月にコンプライアンス担当に就任した有信睦弘理事は再任されています。
また法律の改定に伴って、理研は「独立行政法人理化学研究所」から「国立研究開発法人」へと名称を変更しました。日本ではこれまで、民間にゆだねると実施されないおそれがある研究開発事業を行う法人として「独立行政法人」が位置づけられてした。今年4月からは、研究開発の特性からほかの独立行政法人とは異なる取り扱いが必要とされる法人を「国立研究開発法人」と位置づけることになったのです。「研究開発業務の最大化」がその目的とされ、会見でも松本新理事長はそのことを強調していました。
印象は「一般市民と変わらない」
「私の役割は、理化学研究所を新しいタイプの法人として、一流の研究機関として仕上げることです。同時に、社会的な課題を解決する科学も実践していきます」
松本理事長はこう抱負を語りました。
「(STAP細胞問題については「)アクションプランを実効性・継続性をもって行いたい。高い倫理性を育成し、科学全体の信頼を取り戻しつつ、日本社会への寄与をしていきたい。今後さらに具体的な運営方針をつくる必要がある」
小保方晴子氏をどうについては、「本人を見たわけではありませんが、研究者として基本的なリテラシー(科学者としての能力)が欠けていたと理解しています」と評し、続けて次のように述べました。
「研究不正を防ぐのは当然ですが、同時に研究者としての自律性がなければいけないということが第一次的な前提です。研究不正は、起こってほしくないとは思いますが、万が一起こったときには、迅速な対応を取りたいと思います」
印象的だったのは、研究不正に対しては防止も迅速な対応も必要だと述べる一方で、研究者の「自律性」や「自由」を繰り返し擁護したことです。研究不正の背景には「行き過ぎた成果主義」があったのではないかという指摘に対しても、研究者の自由や好奇心を大切にすることが重要だと考えており、それらは「成果主義云々とは違う」と強調しました。
「自由な楽園」で起きたSTAP問題
STAP細胞問題の事後処理のまずさについて、非当事者だったころ、どう見ていたか、と聞いたところ、「岸委員長の改革委員会の報告書が出たときには、科学コミュニティとして真剣に取り組んでいくべき問題だと思いました」と答えました。
前述の通り、理研は改革委員会が提言したことには従っていません。問題全般について「一般市民の受けた印象とそんなに変わらない」と述べていたことも合わせると、好意的に解釈すれば、理研の事後対応について大きな問題があったと認識していると思われます。
総じていえば、松本理事長の姿勢はたいへん真摯だという印象はありましたが、科学者の「自律性」や「自由」を繰り返し強調したことは、それらが批判からの防護になるようにも思えました。そもそも理研は「科学者の自由な楽園」としばしば語られてきたように、科学者の「自律性」や「自由」を重視し、そのことを外部にもアピールしてきた組織です。その組織において、STAP細胞問題は起こったのです。自由な楽園を築くための責任や義務についての議論がもっとあることが望まれます。
とはいえ、現時点で松本新体制の理研を批判することはできません。理研の改革の成果については、今後再び研究不正が起こったときの対応で、初めて評価できます。ジャーナリズムやアカデミア、市民社会は理研を萎縮させることなく、厳しく見つめ続ける必要があるでしょう。
(粥川準二/サイエンスライター)
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■粥川準二(かゆかわじゅんじ) フリーランスのサイエンスライター・翻訳者。著書『バイオ化する社会』(青土社)など。明治学院大学ほか非常勤講師。博士(社会学)
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