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CVTにDCT、AMT……ミッションは何種類ある?
[写真]マツダの横置きFF用5段マニュアルトランスミッション、SKYAVCTIV-MT。クラッチペダルで動力を切断し、シフトノブからリンクで繋がったシフトフォークで歯車を動かす
マニュアルトランスミッションのクルマで、1速にギヤを入れ、クラッチを踏んだままアクセルを踏み込んでエンジンを吹かし、レッドゾーンの手前で回転計の針を静止させている状態を想像してほしい。アクセルはかなり踏み込んだ状態だと思う。その状態で回転計が上がりも下がりもしていないということは、アクセルを踏んで燃料を燃やしてエンジンが出している力と、エンジンの摩擦損失が釣り合っているということになる。この状態はたとえエンジン回転数が何千回転であってもアイドリングでありエンジンの効率はゼロになる。
次にアクセルを維持してそのまま上手に半クラッチで発進をしてみて欲しい。可能ならアクセルを維持したままシフトアップをして行くと更に良い。路面にもよるだろうが、速度が安定する頃には多分、時速60キロかそこいらに到達するのではないか。筆者がそんな実験をしたのは30年近くも前のことだから現在とは速度が違うかもしれない。
「効率ゼロだといったじゃないか!」と怒るのは間違いで、現在のタコメーターが指している回転数とレッドゾーンとの回転数差の分だけエンジン内部の摩擦が減った。その差分が今の速度を出すエネルギーと釣り合っている。しかも厳密に言えばトランスミッションやホイール周りの損失も加わっているのに、だ。
エンジンを高回転で回すということはそれだけ摩擦損失で無駄を出すということだ。現代のトランスミッションはこの無駄を防ぎ、どれだけエンジン回転を低いところに維持しながら、ドライバビリティを犠牲にしないかを追求しているのだ。
しかしそんな大きな役目を持つトランスミッションはなかなか技術的側面を語られることのないシステムである。今回は普段なかなか日の当たらない地味なトランスミッションについて考えてみたい。
■新しく登場したトランスミッション
[図表]発進デバイスにはそれぞれ長所と短所がある。先進国なら「良いものは高い」が成立する。しかし世界戦略成長余力の高い新興国マーケットを狙うなら制約ポイントになるのは価格と整備性だ
昔はクルマのトランスミッションは「マニュアル」か「オートマ」かの二つだけだった。しかし現在では、「CVT」や「DCT」、「AMT」など様々なシステムが現れ、それぞれに長所を持っている。人間で言えば「頭が良い」とか「足が速い」とか「歌が上手い」とか「人柄が良い」とか、得意なことが違うわけだ。それら全てに満点の人がいないように、トランスミッションも一概にどれがベストとは言えない。何がいいのかを考えるためには、その仕組みを知らないとどうにもならない。それぞれのトランスミッションの原理と利得はどうなっているのだろうか?
特に近年、トランスミッションに求められる性能が変わってきたのは前に述べたが、ポイントは低燃費環境志向のエンジンとの相性にある。エンジンとはつまるところ空気と燃料をシリンダーで燃やす仕組みだ。アイドリングからレッドゾーンまでどこでも同じ性能が出ればそれに越したことはないが、燃料を燃やすのに絶対的に必要な時間や、それ以前に空気そのものの重量による慣性もあるので、それらの要素が「ちょうどよい」回転数が存在するのだ。その結果、エンジンはその回転数によって効率が変動する特徴を持っている。
そのため、自動車と同様のレシプロエンジンを使う船舶や飛行機では、原則的にエンジンは最も総合効率の良い一定速度で回し、速度調整はプロペラの捻れ角(ピッチ)を変えて行う技術が発達した。この可変ピッチプロペラは飛行機なら戦前から、船舶でも50年以上前に登場している。特に燃料消費を重視する用途の船舶では、エンジンの回転は常時一定が当たり前になっているのだ。
しかしクルマとバイクは、加減速時にアクセル操作によってエンジン回転を変えるというレシプロエンジンとしては異例なインターフェイスになっている。そんな無理は全ての走行条件では通用しない。そんな方式を実用化するためには、エンジン回転の調整幅でまかない切れない分を変速機で補ってやる必要がある。実用化だけの問題ならそれで済んだが、さらに燃料消費率を抑えたいという欲を言えば、船舶同様、エンジン回転数を固定して効率の良いところだけで使ってやりたくなるわけだ。
■トランスミッションの種類
[写真]マツダの横置きFF用6段トルコンステップAT、SKYACTIV-AT。JC-08モードの80%をロックアップした状態でカバーする。厳密にはわずかに滑らせながらロックアップする領域もある。原則的には発進以外はほとんど直結状態にある
現在、乗用車に使われているトランスミッションはざっくり5種類ある。細かく分けるとキリが無いのでその大まかな5種類についてまずは概要と簡単な原理を説明してみたい。
(1)マニュアルトランスミッション
古くからある手動式のトランスミッションで、エンジンの回転を多数の平歯車で減速する。ギヤの選択はドライバーがシフトレバーで行い、発進と変速時にはクラッチペダルを操作する。発進デバイスはクラッチによる摩擦板方式だ。
(2)トルコンステップAT
遊星歯車のセットを使ってエンジンからの回転を減速する。ギヤは電子制御によって自動的に選択され、切り替え操作はプログラムが出した指示に従って、遊星歯車に組み込まれたクラッチを油圧でつなぎ変える。発進デバイスはトルクコンバーターが用いられる。
(3)CVT
二つのプーリーの有効径を変えてエンジンからの回転を減速する。二つのプーリーはベルトがかかる谷間がV字構造になっており、油圧でV字の谷間を狭めたり広げたりすることで、ベルトの掛る位置が変わり有効径が変わる。発進デバイスは、こちらも現在はトルクコンバーターが主流だ。
(4)AMT
マニュアルトランスミッションを油圧または空気圧アクチュエーターで動かす変速機だ。当然、平歯車を使ってエンジンからの回転を減速する。変速機の仕組みそのものはマニュアルのままで、人間がクラッチを踏んだり、ギヤレバーを操作していた部分をアクチュエーターに代行させる。マニュアル同様、摩擦式の発進デバイスが使われる。
(5)DCT
構造的にはAMTの仲間。これも当然、平歯車を使ってエンジンからの回転を減速する。奇数段のトランスミッションと偶数段の二つのトランスミッションを持ち、二つのクラッチで接続先を切り替える。主に摩擦式発進デバイスが使われるが、最近ではトルコンを使うものが出てきた。
■発進デバイスの種類
これまで述べてきたように、トランスミッションは速度調整のために、エンジンと駆動輪の減速比を常に最適に切り替えることが一番重要な仕事だが、実はそれだけではない。前述の概要のところでも少し触れたが、トランスミッションとは発進デバイス+変速機のことだ。つまり理屈で言えば「発進デバイスの種類×変速機」の数だけトランスミッションの種類があることになる。現実的には遊星ギヤを使うステップATの様に、事実上トルコンとの組み合わせしかないものもあるし、そのほかでも組み合わせはほぼ主流となるものが決まっている。
発進デバイスを使って、クルマを静止状態から発進させることがトランスミッションの重要な仕事の一つだと考えると、その性能もきちんとチェックしなくてはならない。
現在普通の乗用車に使われている発進デバイスは3種類ある。マニュアルトランスミッションやAMT、DCTに使われているのは「摩擦板式」、ステップATやCVTに使われている「トルコン」、そしてDCTやCVTの一部に使われている「モーター式」だ。
[写真]ホンダのモーターをスターティングデバイスにしたフィット・ハイブリッド用DCT。モーターの特性を上手に使うことでエンジンの不得意な運転状況を減らして効率を向上させる仕組み
(a)摩擦板方式
二つの円盤を圧着させることで断続を行う方式。マニュアルの場合、通常、平ばねの力で圧着されており、クラッチを切るときにはワイヤーや油圧の力で摩擦板を離して動力を切断する。普通の乗用車に使われているのは、この摩擦板がエンジンのフライホイールと擦れる単式乾板式だ。レース用などに使われるものの中には、大トルクに対応するために摩擦板を増やしたものもある。
DCTでは、システム的な故障によって切り替え式のクラッチ両方に同時にトルクが流れると重大なトラブルになるので、それを防ぐため、平常時はクラッチが切れた状態になっており、動力を伝える時だけ油圧でクラッチを圧着する。DCTの場合、クラッチは「乾式(かんしき)」、「湿式(しつしき)」の両方がある。オイルに浸される湿式は切断時にも引きずり抵抗が発生するのがロスに繋がるが、半クラッチの温度変化に比較的強く、またオイルの粘性が変速時のショックを和らげる場合もあり一長一短だ。
摩擦板方式は、トルクの伝達がON/OFFの切り替えになりやすく、洗練されたものになり難い。そこを半クラッチで滑らせて、できる限り穏やかに繋ぐのだが、マニュアルならドライバーの技量に、DCTならプログラムの制御によってその洗練度が決まる。
[写真]スズキのアルト・ターボRS用の5段AMT。スズキでは軽トラックのキャリィに続き、新型のアルトで国内販売の乗用車に初めてAMTを搭載した。続くスポーツモデルのターボRSでは、アルトの通常版より変速マナーが向上した。現在のレベルが低いせいもあるが、進歩の度合いは速く、今後の熟成が期待される
(b)トルクコンバーター(トルコン)
発進デバイスの役割だけで言うなら流体継手(りゅうたいつぎて)と言うべきなのかもしれない。これは一対の扇風機のようなもので、片方が風を送ると、他方はその風で回される。送風側はエンジンにつながっていて、風を受ける側はギヤを介して車輪につながっている。
風が弱い低速時は止まっていることができて、自動クラッチとして機能する。停止状態から徐々に風を強めてスムーズな発進ができるので、洗練された発進ができる。実際のトルコンは空気の風ではなく油の流れで力を伝えている。
流れが緩やかだと止まっていられるということは、別の見方をすれば、力の一部は油を掻きまわすだけで動力として活かされていない。トルコンにはスリップロスがあってこれが燃費を悪くする原因になっている。
かつてはステップATの専用品に近く、そのためステップATは今でも「トルコンAT」と呼ばれることが多いが、近年ではCVTも、そのほとんどが発進デバイスとしてこのトルコンを使っている他、DCTにも採用例がある。そのため呼称が過渡期にあって分かりにくくなっている。正確を期すなら「トルコンステップAT」「トルコンCVT」「トルコンDCT」と呼ぶべきだが、慣習的に呼び名が変わりつつあるのはトルコンステップATだけである。
(c)モーター式
アイドリング回転数をどこまでもは下げられないエンジンと違って、モーターは静止状態から起動することができ、かつその時に一番力がでる。発進用デバイスとして、モーターは単独で優秀な特性を持っているのだ。ハイブリッドなどではこの特性を用いて、発進をモーターで行い、クラッチのような断続式の発進デバイスを持たないものもある。厳密に言えばモーターとエンジンの間では断続機構があるのだが、それは発進用というより2種類のパワーソースを使い分けるための機構だ。
全体的な傾向は明らかで、乗用車用発進システムとして最も優秀なのはモーターである。しかし、モーターはハイブリッドでないと実装できないため、どのクルマにでもというわけにはいかない。そこで現実的な選択肢となるのは、トルコンである。摩擦板方式はまだ発展途上にあり、今後の成長は期待されるが、現状ではまだまだ実力差が大きい。
だいぶ長くなったので、変速機構そのものの話は後編として次回に回したい。
(池田直渡・モータージャーナル)
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