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こんな人は40歳で失速する 20代で蓄えた知識や経験を陳腐化させる30代の過ごし方

こんな人は40歳で失速する 20代で蓄えた知識や経験を陳腐化させる30代の過ごし方

 

 2014年11月22日付当サイト記事『人生を豊かにし、富裕層入りするためのキャリアモデル 日常生活に組み込むべきプロセス』および15年2月5日付記事『深夜残業でがむしゃらに働く美学、無意味な自己陶酔?小さな仕事でやりがい感じる、の罠』において、知を創造する(イノベーションを起こす)基本的なプロセスである知識創造理論のSECI(セキ)モデルを紹介し、ビジネスパーソンのキャリア形成に当てはめた「SECIキャリア」モデルを解説した。大切なのは、知識創造型人生を歩み、知識創造企業づくりに貢献するキャリアを形成することである。

 その第一段階として「Socialization」(暗黙知を吸収するフェーズ)、主として20代の暗黙知の蓄え方を述べた。今回は第二段階の「Externalization」(暗黙知を形式知に転換するフェーズ)、つまりSECIモデルのEのキャリア形成について考えてみたい。

 暗黙知の形式知への転換が特に重要になってくるのが30代だ。現場で下積みを重ねる20代はすべてが新鮮で、そのエッセンスを吸収して暗黙知をたっぷりと蓄える。そして、その後に訪れる30代は、気力・体力・知力の三拍子が揃った怖いもの知らずの時期だ。

 古い秩序を壊し、新しいことに挑戦し、新しい伝統を築く。そんな気概に燃える時期でもある。いわば、ビジネスパーソンの黄金期といえるだろう。一般的には課長などの役職に就く前なので数字的な責任を負うこともなく、オフも充実させやすい。

 そんな、キャリアの絶頂期である30代は、なんのためにあるのだろうか。20代の時の暗黙知の蓄積があれば自信を持って動けるのは確かだが、本当にそれだけでいいのだろうか。

 そこで、知のスパイラルアップという視点を持つ必要がある。漫然と暗黙知を溜めこみ、それを土台に新しいことに挑戦するだけでは、「自分の知」が定着しているかどうかはわからない。一度、暗黙知を形式知化して自分の血肉とするためには、自分の中の暗黙知について「いったいなんだったのか」と振り返ることが必要である。そうすることによって初めて自分を客観的に見直し、仕事を再定義するチャンスに恵まれ、知の質を高めることでステップアップできるのだ。

●暗黙知を形式知化するEのキャリア

 例えば、人事の仕事を考えてみよう。20代でがむしゃらにがんばり、さまざまなコツ(暗黙知)を身につけて現場から頼られるようになる。本人としてもうれしく、やりがいもある。しかし、現状の仕事にどれだけ精通しても新たな人事のコンセプトは生まれないし、経営陣に新しい戦略を提言することもできない。ただ単に現場通の人事労務担当者になっていくだろう。 そこで、暗黙知を形式知にするネタとして位置づけることが必要なわけだ。最終的に目指すのは知の創造である。「新しい人事のあり方とは」「次の時代の人事とは」という新たな知の創造のために現場での経験を生かすのであって、現場での暗黙知の吸収にいそしみ、現場作業のプロになることが目的ではないはずだ。

「いったい自分は何をやりたいのか」「どういう組織や風土を作っていきたいのか」「どういうイノベーションに向けて組織を構築したいのか」、ひいては「自社はどのように未来の社会創造に貢献すべきなのか」――。こういったことを考えながら、自分の仕事の理論、流儀、哲学を抽出=形式知化する。これが、Eのキャリアの真骨頂である。

 暗黙知に安住することなく、未来の視点でこれまでの自分の価値を再構築することができなければ、マネジメントに提言して新たな時代づくりに参画するプロとして羽ばたくことはできない。暗黙知に安住する人は課長になる時期、つまり40歳前後で必ず失速してしまう。20代の時に溜めこんだ暗黙知が陳腐化し、自分の実力と考えていたものがシロアリに食われた土台のようにボロボロになってしまっているからだ。

 こうした事態を避け、自分の知を形式知化し、プロとしてのコンセプトを作るためにはどうしたらいいのだろうか。やはり、自分の知をあぶり出して客観視する場を作る必要がある。そのために、部門間異動や海外出向、他社とのプロジェクトなどの体験は大いに役に立つ。今までの暗黙知がそのままでは使えない状況になるからだ。好むと好まざるとにかかわらず、それまでの知識を一度整理せざるを得ない環境に身を置くことになる。

 また、MBA(経営学修士)で経営理論を学んだり、他社の友人と議論したり、論文を書いたりすることも、自分を見つめ直して自分の価値を表出化させるためには有効だ。筆者自身も、英国に留学して修士論文をまとめたことが自分の中で大きな転機になっている。

 企業内であっても、教育部門での教育企画の経験、マーケティングのように社会や顧客との接点が多く分析する業務など、コンセプトを大事にする部署での経験は役に立つ。

 このように、企業の中に「Externalization」を行いやすい環境はある。あとは、いかにしてそこに身を置くかが重要だ。人事異動を上司に訴えるのもいいし、社内公募に応募するのもいいだろう。転職でのキャリアアップの際も、そういった意識が重要になる。自分のキャリアは自分で築くわけだが、それをこのSECIに従った知の文脈づくりの観点に立って行うことで、将来必ず花開くものになる。

 次回連載では、40代で重要なSECIのC、つまり「Combination」(コンビネーション)について考えたい。
(文=徳岡晃一郎/経営コンサルタント、多摩大学大学院教授)

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