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ついに米軍が地上部隊をイスラム国に投入、増え続ける義勇兵との泥沼ゲリラ戦の行方
シリア、イラクの領内に勢力圏を広げる「イスラム国」に対し、ついにアメリカが地上戦に踏み切る覚悟を固めた。2月11日、アメリカのオバマ大統領が、イスラム国へ地上部隊の投入を承認する決議案を議会に提出したのだ。
米軍関係者によると、すでに4千人規模の地上部隊が米コロラド州のフォート・カーソン基地からクウェートに向けて出発したという。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。
「現在、イラクに駐留する米軍は約3千人で、イラク軍とクルド人部隊の訓練を行なっている。今後は主にデルタフォースやネイビーシールズ、グリーンベレー、レンジャー連隊などの特殊部隊が増強されるでしょう。イラク北部のアルビルには早くもコンバットレスキュー部隊や無人機を配備しつつあります」
4月にも始まる最初の戦いは、人口約200万人のイラク第2の都市モスルを奪還する作戦。米軍の発表によれば、イラク政府軍が主力となり、クルド人部隊も合わせた地上部隊約2万5000人が投入される。
「地上作戦の第1段階は、昨年6月以降にイスラム国が勢力を拡大したイラクの地域を奪還するのが目的です。モスルでの戦闘が始まれば、程なくしてサマラやティクリート、ファルージャなどの都市でも攻防戦が起きるでしょう」(黒井氏)
中東情勢に詳しい東京財団・佐々木良昭上席研究員はこう語る。
「イラクの夏は猛烈に暑く、南東部のバスラで最高気温53.8度という記録もあるほどなので、その時期は戦闘が困難になるかもしれません。米軍とすれば、ラマダン(断食月)の始まる6月までにモスルを落としたい」
ただし、各国軍による約半年間の空爆を経ても、イスラム国の兵力は約3万人以上を維持しているとされる。
欧米諸国は自国からイスラム国への合流希望者を阻止しようと躍起だが、実際のところ非イスラム圏からの戦闘員はごく一部にすぎない。大半を占めるリビア、チュニジアなど中東諸国やタジキスタン、ウズベキスタンなど中央アジアからの流入は、むしろ増え続けているという。
「トルコ経由でシリアへ流入する義勇兵のルートは今も実質フリーの状態です。装備としても、イラク軍から奪った戦車や装甲車を多数保有し弾薬の備蓄もまだまだある。現在もイラク軍の陣地に攻勢をかけているので装備面が底を突くことはありません」(前出・黒井氏)
しかも、イラク領内での地上戦は作戦の第1段階にすぎない。第2段階は本拠地ラッカのあるシリアでの作戦。ここではイラク以上の困難が待ち受けている。
「おそらく米軍率いる有志連合軍は、イラク領から国境を越えてシリアへ行くのではなく、北部のコバニからクルド人部隊を前面に出して南下しつつ、同時にトルコ領内で訓練したアラブ人部隊を西部のアレッポから少しずつ出していくことになる。
イスラム国はラッカだけでなく、東部のハサカから西部のホムスまで最前線に兵力を分散させている。シリアでの作戦は相当長期のゲリラ戦になることが予想されます」(黒井氏)
オバマ大統領が米議会に提出した決議案は「地上部隊派遣は3年限定で、人質捜索・救出や空爆の誘導が任務」と、かなり控えめな表現。しかし、かつてイラクやアフガンで戦況がドロ沼化したことを考えても、そう簡単にカタがつくとは思えない。
これが“地獄の戦い”の幕開けにならなければいいのだが。
(取材/世良光弘 小峯隆生)
■週刊プレイボーイ11号「対イスラム国『ルールなき地獄の地上戦に』に米軍(&もしかしたら自衛隊)は耐えられるのか?」より