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ツルハ、なぜ屈辱のローソンFC契約?コンビニとドラッグS、潰し合いor共存共栄の岐路
コンビニエンスストアチェーン大手のローソンとドラッグストア大手のツルハホールディングス(以下、ツルハ)が提携して出店する新業態、「ローソンツルハドラッグ仙台五橋店」が2月5日に開業した。地元メディアが大々的に報道するなど、前人気が高かったこともあってか、2~3月は盛況だったようだ。
ローソンは従来からコンビニの利便性に健康を加味した「マチの健康ステーション」の業態開発に率先して取り組んできたことは、よく知られている。2014年11月末現在、健康志向の商品を中心に品揃えする女性向けの「ナチュラルローソン」112店をはじめ、病院内などに出店している「ホスピタルローソン」、調剤薬局併設型の「ファーマシーローソン」、大衆医薬品を販売する「ヘルスケアローソン」などを展開している。
そして今回、ローソンはツルハとの提携1号店を皮切りに、今後3年間でコンビニ・ドラッグストア融合店を100店出店するとしている。
一見華やかな話題だったが、関係者への取材を進めてゆくと、その背後でコンビニ業界とドラッグストア業界のつば競り合いが起こっていることがわかった。
●大手の矜持を捨て、ローソン加盟店になったツルハの焦りとは
ローソンがドラッグストア大手と提携するのは、実は2度目だ。最初はドラッグストア業界首位のマツモトキヨシ(以下、マツキヨ)だった。マツキヨとの提携でコンビニ・ドラッグストア融合1号店を出店したのは09年のことだ。当初は共同で運営会社を設立し、この時も融合店を3年で100店出店すると記者会見で説明していた。しかし、共同運営会社は設立されず、昨年末時点での店舗はたった2店。事実上の提携失敗だった。
提携が頓挫したのは、両者の思惑違いが原因と指摘されている。その舞台裏を、流通業界関係者は次のように明かす。
「取り扱い商品の類似性が高いため、組みやすいと提携したのだが、安さが勝負のドラッグストアと、定価販売が基本のコンビニとでは品揃えの基準が違う。それで、いざ実行段階になると品揃えの選定や配分で両社の調整がつかなかった。例えば、清涼飲料はドラッグストアでもコンビニでも取り扱っているが、価格をどちらに合わせるかといった点でもめた」
しかし、今回の提携は「前回の轍を踏まない」とローソン関係者は自信を示す。それは、ツルハとはフランチャイズ(FC)契約をしているからだ。 つまり、ツルハはローソンのFC加盟店になっているというのだ。したがって「仕入れや店舗オペレーションはローソンが管理し、ツルハはドラッグ販売のノウハウを提供するかたちになる。マツキヨの時のような、どんな商品を仕入れるか、品揃えの配分をどうするかなどの調整は不要」(ローソン関係者)という。
ある意味で屈辱的ともいえるFC契約をのんでまで、ツルハがローソンとの提携を決断したのは、成長が曲がり角に来たドラッグストア業界の厳しい市場環境の表れといわれている。「ツルハは、ローソンから小型店の運営ノウハウと弁当、総菜などファストフードの仕入れ・販売のノウハウを獲得するのが狙いだった」と流通業界関係者は語る。
ツルハはドラッグストア大手の名を捨て、コンビニ経営の実を取ったわけだが、同社がそこまで焦った裏には、ドラッグストア業界内のコンビニ市場進出加速の動きがあるようだ。
●コンビニ市場に殴り込んだドラッグストア
ドラッグストア業界2位のサンドラッグが、同業界初のコンビニ型ドラッグストア「サンドラッグCVS」を開発してコンビニ市場へ進出したのは13年7月のことだ。東京・小岩のJR総武線小岩駅北口に「小岩北口店」を開業したのを皮切りに、今年2月末までに都内で4店のサンドラッグCVSを出店している。
同社はコンビニ型ドラッグストアに関する情報公開をしていないので詳しいことはわからないが、営業時間は午前7時半から午後10時半(店によって違いあり)と、コンビニの24時間営業には及ばないが、通常のドラッグストアよりは長めだ。大衆薬のほか、生鮮食品、新聞・雑誌類、日用品、弁当・惣菜と、コンビニ並みの品揃えをしている。
近隣には他社チェーンのドラッグストアに加え、セブン-イレブン、ローソンストア100、ファミリーマートなどのコンビニチェーン、さらに総合スーパーのイトーヨーカドーや24時間営業の食品スーパーなどがひしめいている。近年、人口が急増している地区とはいえ、競争は激しい。
流通業界関係者は「業界内の出店競争が激しい都内で、これ以上ドラッグストアを新規出店するのは無理と考えたことが、サンドラッグのコンビニ市場進出の動機だ。ドラッグストアよりも狭い商圏で利益を確保するためには、コンビニ業態は欠かせない。その点、扱い慣れたドラッグストアはキラーコンテンツとしてコンビニ市場で『本家』との差別化ポイントになる」と指摘する。 サンドラッグがコンビニ市場に進出した理由は、ほかにもあるようだ。前出の流通業界関係者は、このように語る。
「ディスカウントストア並みの価格の加工食品や日用品で客を集め、平均4割前後の粗利がある大衆医薬品で稼ぐのがドラッグストアのビジネスモデル。ドラッグストア業界の出店余地が狭まった昨今、出店を拡大しようとすれば、より狭い商圏で営業ができるコンビニ市場を侵食するしかない。そのためには、コンビニ業態にドラッグストアのビジネスモデルを落とし込む必要がある。だからコンビニ型ドラッグストア出店は必然といえる。大手ドラッグストアは、いずれもコンビニ市場進出の機会をうかがっている」
あとは、新規出店する際の業態が、ツルハのようにどこかと提携するか、サンドラッグのように独自かの違いだけとなりそうだ。
●他業界に侵食されるドラッグストア市場
ところで、ドラッグストアとは、そもそもどういう小売り業態なのだろうか。日本チェーンドラッグストア協会は、「医薬品と化粧品、そして日用家庭用品、文房具、フィルム、食品等の日用雑貨を取り扱う小売店」と定義している。多様な日常生活用品を品揃えする業態は米国で生まれたといわれている。広い国土ではワンストップで日常生活用品を買い求めるニーズが高かったからだ。
日本ではコンビニが小売りの主流業態になっているが、米国ではドラッグストアが主流。70年代に米国のドラッグチェーンストア理論が導入され、日本でもドラッグストア市場が形成された。
その市場は01年に3兆円を突破、14年に6兆円を超えた。店舗数も14年に約1万8000店に達した。米国ドラッグストア業界首位のウォルグリーンは、1社だけで全米に約8500店を展開、売上高は7兆円を超える。人口、交通など国勢が違うとはいえ、やはり米国のそれとは似て非なるものがあるようだ。
日本のドラッグストア業界は大きく成長を続けてきた半面、他業界との厳しい競争にもさらされている。09年の薬事法改正で医薬品販売の規制が緩和され、風邪薬、胃腸薬など大衆薬の販売が「登録販売者配置」の条件付きでコンビニやスーパーにも許可された。さらに昨年6月からは大衆薬のインターネット通信販売も解禁された。大衆薬市場は、もはやドラッグストアと薬局の独占市場ではなく、コンビニ、スーパー、ネット通販などの他業界から侵食される市場になっている。 流通に詳しい証券アナリストは「ドラッグストア業界は成長に陰りが差している」と指摘、次のように説明する。
「市場規模は14年に6兆円台に乗ったが、伸び率は前年比約1%増で過去最低。01年の前年比13.3%増と比べると、明らかに息切れしている。成長が息切れしてきた要因は、ドラッグストア市場の縮小にある。その背景は、言うまでもなく少子高齢化と人口減少だ。そんな中で大手の出店拡大が続き、都市部ではすでに飽和状態になっている。新しい商材を取り入れて既存店の売り上げを伸ばそうとしても伸び代がない。それに加えて大衆薬の販売解禁で競争は激化している。後は取り扱い商品の類似性が高いコンビニと共存共栄の道を探るか、安さを武器にコンビニ市場を侵食するしか成長の可能性はない」
●大衆薬販売に成長の活路を求めるコンビニ業界
成長息切れは、コンビニ業界にも同じことがいえる。コンビニ大手の15年度の新規出店計画数が5年ぶりに前年割れとなることが明らかになっている。既存店が5万店を超え、地域によっては飽和現象が表面化しているためだ。
過去最多出店を今年も続けるセブン以外は、出店数を抑える。中でも抑制が目立つのがファミリーマートだ。出店は、当初計画より500店少ない1000店程度とみられている。売り上げが低迷している既存店のてこ入れに資金を投入しなければならない事情もある。ローソンも、今年度は前年度横ばいの1000店の見通しだ。
巧みなドミナント出店と、抜群の商品開発力ならびに店舗運営力を誇るセブン以外は、出店拡大による成長戦略はあきらめたとも取れる。
前出アナリストは「コンビニはもともと、規制緩和を追い風に成長してきた面がある。例えば、酒類の販売が解禁された時には、酒屋を加盟店に取り込んだりした。出店余地が狭まってきた今は、既存店の売り上げを伸ばすために大衆薬販売が課題になっている。それには、店に登録販売者を配置しなければならないが、コンビニにはその育成ノウハウがないため、ドラッグストアの協力が不可欠となっている。その認識が、ローソンとファミマでは共通している」と分析する。
したがって、コンビニとドラッグストアとの提携は、当面の間、ローソンとファミマが主導するかたちで活発化するとみられている。だが、コンビニ側の思惑とドラッグストア側の思惑は違う。流通業界関係者は「双方とも思惑が一致している間は蜜月関係になるだろうが、期待が外れた途端、競争関係に変ずるのは避けられない」と危惧する。
共存共栄のブルーオーシャンに漕ぎ出せるのか、食い潰し合いのレッドオーシャンに乗り入れてしまうのか、両業界の行方が注目される。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)