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二度と生まれ変わらない死=「涅槃」
『涅槃経(ねはんぎょう)』はブッダの最後の旅の様子が語られた経典である。「涅槃」という単語の意味について、花園大学教授の佐々木 閑(ささき・しずか)氏に伺った。
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涅槃には大きく分けて「悟りを開くこと」と、「その悟りを開いた人が死ぬこと」という二つの意味がありますが、『涅槃経』の涅槃は「死ぬ」方です。それは、悟りを開いた者だけが到達できる特別な「死」であり、二度とこの世に生まれ変わることのない完全なる消滅を意味します。この涅槃という言葉を理解するには、当時のインド人が共有していた「輪廻(りんね)」の考え方を知っておく必要があります。輪廻とは、「あらゆる生き物は、死んでも死んでも、別のかたちに生まれ変わり続ける」という思想です。「亡くなったお父さんが天国へ行って、私たちを永遠に見守ってくれている」といったキリスト教のような生まれ変わりではありません。生まれ変わった先にもやはり寿命があり、その寿命がくればまた別のところへ生まれ変わっていく、このサイクルが無限に続くというのが輪廻です。生まれ変わりの場所も決まっていて「天の神々」「人」「畜生(動物)」「餓鬼(がき)」「地獄」という五つの世界で、私たちは生まれ変わり死に変わりを延々と繰り返す、そういう世界観です(後の時代、「阿修羅(あしゅら)」が入って六つになりました)。
「永遠に再生を繰り返します」と聞けば、うれしいようにも思いますが、「生きることは苦しみである」と考える仏教の立場から見れば、それは永遠に苦しみが続くということを意味します。「生まれ変わっても苦しみしかない」のなら、二度と生まれ変わらないことが最上の安楽ということになります。「もうこの先二度と生まれ変わらない」という確信を得た時、人は真の安楽に身をゆだねることができるのです。そしてそのような状態に入ることを涅槃と言います。輪廻を止めて涅槃に入ることこそが、仏道修行者にとっての究極の終着点であると考えられていたのです。
では輪廻を止めるには具体的になにをしたらよいのか。ブッダは次のように考えました。我々を輪廻させるのは業(ごう)のエネルギーである。それを取り除かない限り輪廻は止まらない。では業のエネルギーを作り出す原因はなにか。それは我々の心の中にある「悪い要素」、すなわち煩悩である。煩悩が作用すると業エネルギーが生み出され、我々は自動的に輪廻してしまう。したがって我々が為すべきことは、自力で煩悩を断ち切って、業エネルギーが作用しないようにすることだ。…