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こうして僕は結婚式をした
結婚がしたくなかった訳じゃなく、いつかはと考えていたが、結婚はまだ先の話でいいじゃないのと思っていた。8年もの付き合いになる彼女(今の妻)は何年か前から結婚願望を抱き続けたが、具体的に結婚を考えなかった僕に諦めかけていた。
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「子どもが欲しくなれば結婚したらいいじゃないか」。これが当時の僕の言い分。今となればなぜあんなにも結婚を後回しにしていたのかわからない。27歳にもなれば同世代から次々と結婚、出産の報告を受ける。その都度、彼女がうらやましそうな顔をしていた。彼女はいち早く子どもが欲しかった。
いつか子どもを。と意識するようになり、それならば母体のことを考え、早く結婚しなければと思うようになったものの、次は”結婚式”を考えるとなんだか億劫(おっくう)になった。そもそも結婚式になんの憧れもなく、彼女がドレスを着たいという気持ちはわかるがなかなか踏み出せなかった。
ただ、なんとなく。結婚、結婚式でライトに照らされる自分を想像できなかったから。特に拒む理由もない。ある日、しびれを切らした彼女が僕に言った。
結婚式フェアに行った。理由はひとつ。無料でおいしいステーキが食べられるからだ。僕はなんのためらいもなく。彼女に誘われ式場の試食会(と聞いていたが、本当は結婚式フェア)に行くことに。
これが最後、いや、これが新たな人生のはじまりだった。
結婚式フェアのステーキなんてほんとまき餌にすぎない。ステーキを食べた後、過去の式の映像。場内のスペシャルサプライズ演出の紹介。モデルによるドレスショー。
食べたら帰る。男はそんなもんだろう。僕の用事はそれだけであって、式にも式場にもドレスにも興味はない。一目散に出口に向かって走りたかった。いわば罠だ。これは罠だ。
そうして、しょうがなくショーを見ている最中、彼女が見たこともないぐらいに目を輝かせていた。満腹で今にも夢の世界へと旅立とうとしている僕の心が揺れた。 女の子というのはこんなにも花嫁というものに憧れるのかと。
ここまで数年、理由もなく結婚反対している僕に黙ってついてきてくれた彼女に「ドレスを着させてあげたい」。そう思った。来年には。来年には結婚式をあげよう。今から少しずつ結婚資金を貯めて2年後にドレスを着られるように。いろいろと準備も必要だろう。両家の挨拶も必要だろう。時間をかけて良い結婚式に向けて頑張ろうな。と僕の心の中で彼女と約束をした。
そして、口には出さなかったがあと2年必死に仕事をして、立派な旦那になれるよう。自分自身との約束もした。
ショーは終わり。帰ろうとすると、彼女が僕に「こっちこっち」と手招きして、言われるがままにソファに腰かけると、支配人がやってきて。
その場で7カ月後を予約されました。 こうして彼女は僕に有無を言わさず結婚式を挙げることに成功。
結婚を渋っている彼氏をお持ちの女性たちへ。結婚式場に彼氏を誘いましょう。ステーキを食べに行こうと。
全ての男というわけではありませんが、男は結婚式に憧れがないのです。照れ臭かったりもあるでしょうが、結婚式というものを想像させてあげることが大事だと思います。 あとは、ウルウルの目でキラキラ輝くドレスを見る顔を練習しておくのです。なんだかんだ彼女がきれいに輝く姿を見てみたいなと思うはずです。結婚式への小さなきっかけは式場のステーキという穴丸見えの落とし穴にハマってみるのもいいでしょう。
結婚式も万全と言えるほど貯まってなかったし、心構えもクラウチングどころか、まだ更衣室から飛び出して100m走スタートぐらいでしたが、今となってはもっと早く結婚してもよかったなと思うことがあります。
こうして僕は結婚式をした。
吉本ユータヌキ
唐揚げと長澤まさみをこよなく愛す1986年製のたぬき型人間。ブログ『さっきもUたやん』を中心に文章を書いたり、イラストを描いたり、背中を掻いたり。フリーカイターです。重度の虚言癖と盛り癖をわずらっていますので優しく見守ってあげてください。Twitterでは日常が垣間見え過ぎています→@gonnakill_uta
(吉本ユータヌキ)