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最終回・あなたは私のスペシャル【自由が丘恋物語 ~winter version~ 第33話】
慎吾の背中はあたたかい。
右の頬をぴたっと背中にくっつけたまま桃香は唄う。
「メリークリスマス。世界中が今日を祝うスペシャルデイ。私はあなたに伝えたい。愛してる。あなただけ。あなたは私のスペシャル。」
慎吾はじっと動かずに桃香の歌を聴いた。
「あの、桃香さん……桃香って呼んでいいかな」
「うん、もちろん」
「僕のこと、外に連れ出してくれてありがと。桃香がいたから、ボールをまた蹴る気持ちになった。桃香がいたから、専門学校に行って社会人になる覚悟ができた」
桃香は抱きついたままコクっと頷く。
「僕の……僕だけのスペシャルになってください」紙袋から真っ白の手袋を取り出し、桃香と向き合った。ハアと桃香の冷たくなった手に息を吹きかけ、新しい手袋をつける。そして手袋越しに桃香の手にキスをした。
「まだ指輪ははめてあげられないけど、これが僕の今の気持ち。ずっとそばにいてください」
桃香は、今までのこんがらがっていた思いをやっとひとつにまとめることができた。昨日の揺らいだ自分をちゃんと罰する。もう迷わない。慎吾のために愛の歌を作る。慎吾のために愛の歌を唄うと揺るぎない気持ちが芽生えた。真正面から慎吾の首に抱きつき、
「ありがとう、慎ちゃん」
とつぶやいた。桃香の目から流れる涙が慎吾のうなじに届いた。ふたりを包む冬の空気はキンキンに冷えているけれど、ふたりの心は暖炉が燃えるように暖かい。白いフカフカの手袋の上にはらりと雪の粉が舞い散った。
「桃香はいろんなシーンを歌にするだろ。雪が降って来たクリスマス。僕たちのスペシャルな冬の日の歌を一緒に作ろうよ。僕、唄うから」
「ええ? 慎ちゃん、歌なんか唄えるの? 嘘だあ。ぜったい音痴だよ」
桃香が涙目で笑いながら笑う。慎吾は聞き取れないような小さな声でワンフレーズを唄った。
「白い手袋のように、僕は桃香をいつもあっためてあげる」
粉雪が舞う自由が丘で、桃香は世界一幸せな冬を感じていた。
(完)
【恋愛小説『自由が丘恋物語 ~winter version~』】
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作者:二松まゆみ