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東京から一時間の田舎暮らし! 「湘南番外地スローライフ」 (30) 関東一早い小田原のだるま市で師走を感じる

東京から一時間の田舎暮らし! 「湘南番外地スローライフ」 (30) 関東一早い小田原のだるま市で師走を感じる 地元では”飯泉観音”として親しまれる古刹

 冬場は富士山や箱根連山がクッキリと見える酒匂川(さかわがわ)の飯泉橋にほど近い、小田原市飯泉にある勝福寺(しょうふくじ)。真言宗東寺派の寺院で、奈良時代中期の天平勝宝5年(753年)創建という長い歴史を誇り、坂東三十三観音(神奈川、埼玉、東京、群馬、栃木、茨城、千葉に点在する全33カ所の観音霊場)の第5番礼所にあたる。

 樹齢700年以上の大イチョウと仁王門が目印の勝福寺

 あの「日本三大仇討ち」のひとつとされる「曽我兄弟の仇討ち」の曽我十郎祐成、五郎時致兄弟は、富士の裾野で父親の敵である工藤祐経を討つ前に、この勝福寺へ日参。朱塗りの仁王門内にそびえる仁王像から、仇討ちに成功するための力を授かったと伝えられている。

 ちなみにこの曽我兄弟が育ったのは、勝福寺の東方に広がる梅園で有名な曽我の里。現在でも曽我一族の遺骨は、JR御殿場線下曽我駅からほど近い城前寺に祀られているそうだ。

 さて勝福寺に話を戻すと、本尊である十一面観音像は、高さ二尺八寸(約85cm)の素木(しらき)造り。仏像は漆箔仕上げや彩色仕上げが多く、こうしたシンプルな素木造りのものは、極めて珍しいという。

 この十一面観音像、どこにも写真が出ていないと思ったら、ふだんはまったく公開されておらず、ご開帳は何と33年ごと。一度も本尊を目にしないまま亡くなってしまった住職も過去にいたというから、まさに秘仏だ。

 最後のご開帳が行われたのは昭和56年(1981年)だったので、次は2014年か。すぐではないが、そう遠くもない。今から楽しみにしておこう。

400年以上つづいている師走の市

 そんな勝福寺を舞台に毎年12月17・18日に開催されているのが、飯泉観音だるま市。そのはじまりは室町時代末期から安土桃山時代初期にかけての永禄年間(1558~1570年)と考えられている。

 勝福寺の観音堂は神奈川県の重要文化財にも指定されている

 このだるま市は、関東地方で最も早いだるま市として有名だ。ちなみに関東最後のだるま市は、川崎市麻生区にある麻生不動(またの名を木賊不動)にて、毎年1月28日に開催。旧暦ではちょうど1年の最後にあたることから、”納めだるま市”とも呼ばれているそうだ。

 勝福寺では12月17日の午後になると、少しずつ境内にだるまや正月用品を扱う店が並びはじめる。だるま市は18日の午前中も開催されているが、一番盛り上がるのは17日の夜。境内ばかりか、まわりの道路にまで食べ物やおもちゃの露店があふれ、21時を過ぎてもだるまを買い求める人々が後を絶たない。

 七転八起、不撓不屈のシンボルとされる張り子だるまのモデルは、6世紀ごろに中国の嵩山(すうざん)にある少林寺で「面壁九年(壁に向かって9年間座禅をして悟りを開いた行為)」を成し遂げた達磨大師。南インドの王国で第3王子として生まれた後、中国へ渡って禅宗の開祖として活躍した人物だ。なるほど、達磨大師を描いた絵はどれも顔が濃いと思っていたが、あれはインド出身だったからなのか、と納得する人も多いのではないだろうか。

 日本における張り子だるま発祥の地は、群馬県高崎市と言われている。少林山達磨寺の和尚が、天候不良で農作物が収穫できなくなり、天明の大飢饉(1782~1788年)で苦しんでいる農民たちを救済するために、副業として張り子だるまの製法を伝授したのがはじまりだとか。

 後に東京の多摩地域を経由して神奈川県の平塚へ伝わり”相州だるま”が生まれたのは明治時代のこと。一時は平塚のほかに小田原や厚木などでも作られていたそうだが、現在では平塚に4軒のだるま屋が残っているのみだという。

ヨヨヨイヨイという声があちこちから

 だるま市を訪れたのは今回がはじめてだったので、境内に一郭にずらりと並んだだるま店をゆっくりとのぞきながら歩いてみた。だるまには大小さまざまなサイズがあり、一応、共通の値段表が存在するが、そこからどのくらい割引するかはそれぞれの店次第のようだ。ざっと見る限り、2,000円~4,000円くらいのだるまが、よく売れているように思えた。

 夜遅くまで家族連れで賑わう境内は12月とは思えない熱気

 家で1年間飾っただるまは、だるま市の時に寺の”納め所”で供養してもらう

 はじめてだるまを買うときは小さいものを選び、もし願いごとが叶ったら、翌年は大きなだるまにする、というのが正しいだるま道(?)。勝福寺のだるま市では、購入しただるまを観音堂へ持っていけば、お坊さんが開眼をしてくれる(ただし寸志が必要)。この時、だるまの左目に描く文字は、「ま」と読む梵字で、縁起の良い「のぼる太陽」を意味する。1年後に「沈む月」を表す梵字「た」を右目に描き入れることで、願いが完結するという考え方もあるそうだ。

 あたりが暗くなるに従って境内には参拝者があふれ出し、あちこちから威勢の良い声が聞こえてきた。だるまの売買が成立した時に行う「家内安全、商売繁盛、ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨヨヨイヨイ!」という昔ながらの手締めの声だ。火打ち石のはかない火花が、真冬の線香花火のように見える。

 毎年だるま市へ足を運んでいる知り合いは、この「ヨヨヨイヨイ!」の声を聞くと、いつもしみじみと思うそうだ。「ああもうすぐ正月なんだなあ」と。

 平塚の荒井だるま屋は創業約140年、当主の荒井星冠さんは4代目

 荒井だるま屋のオリジナル干支だるま、2008年はかわいい「ねずみだるま」

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