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鉄道トリビア (117) 戦後の鉄道車両で大流行「金太郎塗り」のルーツは?
鉄道車両の塗装といえば、いまではすっかり「ステンレス無地」に「色帯」が定番となってしまった。しかし、かつては全塗装の車両や、全塗装に色帯を加えた車両、ツートンカラーの車両など、さまざまなバリエーションがあった。中でも戦後に大流行した塗装スタイルが「金太郎塗り」だ。
鹿島鉄道(現在は廃止)のキハ432
東京都電で走っていた6000系
「金太郎塗り」とは、車体正面に施される、カーブの付いた「V」のような塗装をさす。車体正面の窓の下だけ塗り分ける場合もあるし、窓の上にも「V」の逆向きのような塗装を施す場合もある。いや、むしろ上下に施してトランプのダイヤのように見せる姿がルーツといえるだろう。
「金太郎塗り」が最初に採用された車両は国鉄の80系電車だ。1949(昭和24)年に導入された長距離運行用の電車で、東海道本線の普通列車用に造られた。80系は新時代の電車をアピールするため、ダークグリーンとオレンジの鮮やかな塗装で誕生した。この塗り分けは、米国グレート・ノーザン鉄道の大陸横断列車「エンパイア・ビルダー」を参考にしているといわれており、80系ではダイヤモンド型の塗り分けがかなり大きくなっている。
その塗装を見て付けられた愛称が「金太郎塗り」だった。80系に施された塗装が、絵本に登場する金太郎の前掛けに似ているからだ。
ダイヤモンドと金太郎とはかけ離れた存在だが、ひょっとしたら、終戦から立ち直る過程の日本の人々にとって、金太郎のような「誰もが知っている強いヒーロー」への憧憬があったのかもしれない。あるいは、子供に絵本を与えられるような、平和な世の中が到来したことを喜ぶ機運があったかもしれない。
80系は「湘南電車」と呼ばれるようになり、緑色とオレンジの塗装はその後、「湘南色」として今日まで続いていく。一方、「金太郎塗り」も大流行し、国鉄や私鉄の車両に多く採用された。
しかし国鉄の赤字が問題になると、塗装は簡略化され、直線で塗り分けたツートンカラーや、全塗装にカッティングシートの帯を貼り付けるスタイルなどへと変化した。現在、首都圏ではステンレス車体の普及により、ステンレス無地(シルバー)にカッティングシートの色帯というのが主流となっている。
ちなみに、「金太郎塗り」とはまったく別の、鉄道ファンにはなじみ深い「金太郎」もいる。JR貨物の電気機関車EH500形で、車体側面に金太郎のイラストが描かれた車両も。これは塗装に由来するものではなく、先に岡山機関区に配属された電気機関車EF210形が「ECO-POWER桃太郎」という愛称になったことから、これと対をなして「ECO-POWER金太郎」になったとのこと。
いずれにしても、「金太郎塗り」もEH500形も、金太郎が日本のヒーローとして愛されているからこそ、名づけられた愛称といえるだろう。