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血税3億3700万円払いながら…災害用燃料の備蓄なかった東京都の“無責任”

血税3億3700万円払いながら…災害用燃料の備蓄なかった東京都の“無責任”

東京都が首都直下地震などに備え、3億3700万円で購入した災害時燃料が、実際には備蓄されていない可能性が浮上した。ガソリンなどが不足した東日本大震災の教訓から「万が一」に備え、都石油業協同組合と契約し、あらかじめ燃料約2750キロリットルを購入しておく計画だったが、保管義務があるガソリンスタンド(GS)などに意図が伝わっていなかった。組合の説明不足が原因とされるが、制度が未完成のまま、組合側に運用を“丸投げ”した都の対応が不備を招いたともいえ、「無責任だ」との指摘もある。

■GSや油槽所に趣旨伝わらず「備蓄量も聞いていない」

 燃料の備蓄は東日本大震災で都内もガソリン不足に陥った経験から平成25年2月に都が導入した。都内のGSや重油タンクを持つ油槽所が扱う燃料をあらかじめ購入し、災害時に備え、タンク内の在庫が一定量以上減らないように管理してもらう「ランニングストック(流通在庫備蓄)」と呼ばれる制度で、全国に先駆けて導入した。

 ところが、こうした制度に不備が発覚する。協力企業の一つにあたる油槽所の幹部は、産経新聞の取材に「(都石油業協同)組合から『何かあったらよろしく』と言われたが、お金ももらっていないし、備蓄量も聞いていない」と回答。「いま災害が起きても供給できる燃料がない」と備蓄量が十分でないことを明らかにした。

 また、ガソリンと軽油各3・6キロリットルの備蓄が必要とされる八王子市のGSも、「ガソリンと軽油1キロリットルずつの保管しか聞いていないし、それ以上のことは知らない」と述べた。

 都の計画では、ガソリンと軽油をGS122カ所で計約900キロリットル、重油などは油槽所5カ所で計1850キロリットルを確保する予定だったが、災害の発生するタイミングによっては在庫が足りず、災害時の病院や緊急車両の活動に支障が出る恐れがある。

■書面での契約結ばず、口約束だけ

 なぜ、3億3700万円もの巨費を支出して、購入したはずの燃料がきちんと備蓄されていないのか。

 都によると、協定を結ぶ都石油業協同組合が、GSなどに制度を説明する際、口頭で伝達したことで混乱が生じたことが一因とみられ、組合の幹部も、都の調査に対し「(GS側と)書面での契約を結ばず、口約束になっていた。適切ではなかった」と落ち度を認めたという。

 確かに都の設計した制度は、口頭で説明するには難解だ。都によると、備蓄燃料の確保に向け、都はまず、年度初めに同組合に対してガソリンなど約2750キロリットル分の購入費(26年度は4月1日相場に合わせ3億3700万円)を支払う。これを受けた組合は、協力するGSと油槽所計127カ所に割り当てた燃料の所有権を都に移転する手続きを行う。こうして他者に売却できないようにした上で、年度内に災害が起きなかったときには所有権をGSなどに戻し、購入費全額を都に返金する仕組みという。

 いったん返金をするのは年度ごとに会計を行う役所ならではの“風習”で、3月31日に返金を受けた後には、4月1日から新たに契約を更新し、再び4月の相場に合わせて購入費を決定して、組合側に支払うのだという。

 だが、複数のGS、油槽所の関係者によると、こうした購入費はGSや油槽所には渡されておらず、所有権が移転された事実も理解していなかった。

■細かいところは組合任せ…制度設計未完成のまま

 理由について、組合は「担当者が不在」として産経新聞の取材に応じておらず詳細は不明だが、都の調査には「購入費は『災害時用の前払い金』と思い込み、組合内で保管して年度末に都に返していた。私的流用などはない」などと説明したという。

 だが、組合からは毎年、各GSなどの燃料を都に売却したことを示す「所有権移転確認書」が都に提出されていたといい、組合の「GS側と書類の契約をしていない」という証言とあわせると、GSや油槽所から書面による同意を得ないまま売却するという、ずさんな対応が行われていたことになる。

 また、購入費とは別に、GSなどが備蓄燃料を保管する費用として、都が24年度以降に支出した計2300万円についても、組合は各GSに年1万円を支出するのみで、大部分を組合内にプールしていた。

 これについても組合は「手元に残った保管費は、伝票の管理などに使ったほか、何かあったときに使おうとプールしていた」などと都に説明しているという。

 組合は都に「今後はスタンドなどと書面で契約を結ぶ」と改善策を示したというが、とくに備蓄目標の高い油槽所にとって負担は大きく、制度自体にほころびもみられる。

 そもそも購入費をスタンド側に渡すのか、保管費をいくら分配するのかなどは「決まっていない」(都の担当者)と制度は未完成のまま。「都の契約先はあくまで組合であり、その後の管理や金銭のやりとりについては、組合に任せている」(同)と“丸投げ”状態となっている。

 また、スタンドなどの備蓄状況についても、都は実態を調査せず、組合が毎月提出することになっている「報告書」の内容を“鵜呑み”にし、「備蓄はされていると認識している。組合の報告を待ってから、対応を検討したい」と問題発覚後の対応も後手に回っていた。

■自治体と民間の災害時“ザル協定”は他にも? 行政の再点検が必要

 リスクマネジメントに詳しい名古屋工業大学大学院の渡辺研司教授は「実効性を伴わない協定や備えの典型的な事例」と今回の問題を批判する。

 購入費や保管費の分配方法について明確なルールを作らないまま、都が組合に運用を任せていたことについても、「無責任だ。災害時の燃料確保を目的とするのであれば、都には監査などを行う義務もある」と指摘。「実際の災害時にこの仕組みが機能不全となった場合、東京都は申し開きができるのか」と疑問を投げかけた。

 また、舛添要一知事も3月3日の定例会見で「今の状況では話にならない。抜本的に改革をしろという指示を出した」と明言。

 現在の制度について「スタンドや油槽所にとってコストはかかるのに、組合が金をプールしていて、やる気が起こるのか」と指摘し、「全部文書で契約して、判子を押させるようにする。ゼロから(システムを)構築し直すというぐらいの強い気持ちで当たるように指示した」と述べている。

 渡辺教授は「いまは自治体と民間企業の間で、覚書程度の災害時協定がはびこる、言うなれば『協定バブル時代』。今回と同様、実効性を伴わないケースが多く存在するだろう」とし、行政による再点検が必要との認識を示した。

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