仕事で役立つ人気ビジネスアプリおすすめ!
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
叱られ続けて40年、日本一になりました -経営トップを育てた叱咤激励の言葉【ワタベウェディング相談役 渡部隆夫氏】
稲盛和夫氏が塾長の「盛和塾」を立ち上げたワタベウェディング相談役・渡部隆夫氏。稲盛氏から「経営者としてのフィロソフィー」と「アメーバ経営」を学び、海外挙式の導入、ウエディング業界初の上場を成し遂げた。今ではシェア、売上高、婚礼年間取扱数で日本一となったワタベウェディング。その成功の要因は、ハウツーだけにとどまらない、稲盛氏直伝の経営者哲学にあった。
■メチャクチャ初対面で叱られた
経営者になれていない私が、ワタベウェディングをここまで大きくすることができたのは稲盛さんのおかげです。稲盛さんから経営者としてのすべてを学びました。
37歳で私が社長に就任した当時の稲盛さんは、アメーバ経営で大成功したというイメージが全国的にも定着しはじめたころでした。
そんな地元企業の成功者から経営の手法を学ぼうと、周りにいた若手経営者と相談して京都青年会議所(JC)の勉強会に講師として稲盛さんを招いたのです。登壇した稲盛さんは、私たちを睨むと、「平日の18時に若い君たちが、会社を抜け出して何をやっているんだ。どうせ飲むために集まっているんだろう。勉強会などとくだらないことをやってないで会社に戻って仕事しろー!」
と開口一番雷を落とされ、講演はストップしました。あわてた私はせっかく来ていただいたのだから経営に役立つ話をしてほしいと、なんとかお願いして帰ろうとする稲盛さんを説得し、1時間ほど講演を続けてもらいました。
そして、質疑応答の時間になり、私は一番に手をあげ「アメーバ経営とはどういうものかを教えてほしい」と発言しました。すると稲盛さんは私を睨み、「経営のことは自分で考えろ!」と、さらにきつい調子でお叱りを受けたのです。それが私の稲盛さんとの初対面でした。
でも考えてみれば、飲み会に行くのが目的ではないとはいえ、勉強会と称して本業が疎かになるのは間違ったことです。稲盛さんのおっしゃる通りだと気づかされたので、JCをスリープして経営に専念することを決意しました。
しかし、JCをスリープすると情報が入らず経営者としての不安が強くなったのです。私が変わるきっかけを与えてくれた稲盛さんに、経営について教えを請いたいという思いが日増しに強くなりました。
「叱られたが、今は心を入れ替えて経営を頑張っているので、もう少し噛み砕いて、『経営者の正しいあり方、考え方』について教えてほしい」と再びお願いしようと、稲盛さんの行きつけの飲み屋で客のフリをして、何度も待ち伏せました。…■叱って伸ばすか、褒めて伸ばすか
最初は断られましたが、何度もしつこくお願いをするうちに「講演をするには、準備に時間を費やさないとならないから、私にはできない。夜8時か9時ごろから、飲みながら質問に答えるというやり方ならいい」と了承していただけました。そこで20人ほど経営を学びたいという若手経営者が集い、稲盛さんを囲んでの勉強会をすることになりました。これが今では8000人を超える経営者が稲盛塾長から直接「人生哲学」と「経営哲学」を学んでいる「盛和塾」のはじまりです。
私は自分が気になっていることのすべてを稲盛さんにぶつけました。「コンサルタントやビジネス書には『部下は叱って伸ばせ』とあったり、『部下は褒めて伸ばせ』とあったりするが、どちらが正しいのか」と問いました。今でこそ、こんなくだらない質問をよく稲盛さんにぶつけたなと思いますが、私たち経営者は孤独です。相談できる人などいません。稲盛さんは私の問いにこう返されました。「叱ればいいというものではないし、褒めればいいというものでもない。経営者の目的は、組織を正常に機能させること。そのためには優しさと厳しさの両面が必要である」と。
当時の私には「売上高100億円まで業績を伸ばして上場したい」という夢がありました。しかし、家業の貸衣裳店を結婚式場まで手がけるブライダル会社へと発展させ海外進出したものの、売上高20億円程度で足踏み状態になっていました。もし稲盛さんから「アメーバ経営」のノウハウを学び、社内体制を整備・構築していければ、業績は一挙に伸ばせるはず、と思ったのです。
月に1回程度、膝を突き合わせるようになってから、「具体的な経営手法を教えてほしい」と再びお願いしても「自分で考えろ」と断られてしまいました。しかし、何度もお願いをしているうちに「経営塾をしてもいいが、全国的な組織として活動する」という条件で引き受けていただけることになったのです。このときは本当に嬉しかった。アメーバ経営を導入した会社の第1号になれるわけですから、絶対に業績は急激に上昇し、上場できると確信したのです。
事実、現実はそうなったのです。
ただ、アメーバ経営を導入しようとした際は、社員の大半から「京セラはメーカーだから、アメーバ経営で成功したけれど、ワタベウェディングのブライダルサービス業とは勝手が違うから失敗する」と非難されました。それに、これまでも数値目標を掲げてやってきましたが、「社長自ら目標を立ててやっているだけで、私らには関係ない。…目標達成のために努力はするが、達成したら社長にいい格好をされるだけでしょ?」と社員に言われてしまったのです。
■グングン業績が伸びた
稲盛さんが言う「社員の物心両面の幸福を追求する」ことがどれほど大切なのかを思い知らされました。小手先のハウツーを導入し、社員に厳しい要求をするだけではうまくいかないのです。
会社組織を5、6人程度の小集団(アメーバ)に分け、各部門に管理会計を導入し、部門別の採算がわかるようにしました。するとガラス張りのようにお互いの部署の数値が目に見えるので、小集団の競争意識が高まりました。同僚や後輩がいい成績を出したら悔しいと思って、みんなが仕事に励んでくれる。「なにやっとるんだ」と、私が叱責するよりも100倍の効果がありました。全員参加経営でモチベーションが上がり、業績もどんどんよくなりました。アメーバ経営を導入したおかげで、全国、海外100を超す事業所の経営が手に取るように見えました。そんな私に対して、稲盛さんはどこでお会いしても「業績はどうや?」と絶えず気にかけてくれ、厳しい言葉で指導してくださいました。
さすがに最近は叱られることは少なくなったのですが、私自身が経営の第一線から引退することを報告したときは、またきつい大目玉を喰らいました。
37歳から30年社長を続けたので退こうかと思い、盛和塾の定例会でビールを注ぎながら、「経営から退こうかと思うのですが」と相談しました。すると、「こんな飲んでいる席で簡単に言うな!」と、叱られました。その後、「ゴールデンウイーク中なら時間がなんとかとれるから、京セラの本社にきなさい」と言われて出向いたのです。
41歳の息子に譲るのは不安だと言うと、「辞めるなら経営からすべて手を引け! 経営の心配があるのなら、おまえがゴチャゴチャ指導するより、ワシが息子に指導してやるから、ワシのところに来るように言え!」と説得されました。
中途半端に口出しをして、社内が息子派と親父派に分裂してしまったら大変だから、新しい体制をつくらせたほうがいいというのが、稲盛さんの意図だったと思います。
さらに稲盛さんは、私が一線を退いても経営に口を出すと考えたのでしょう。ワタベウェディングの社員の前で稲盛さんは「30年間務めた社長を辞めることになった。ワシが辞めろと言った。名前だけの会長になって、一切仕事をさせへんから、後は皆でしっかりやってくれ」と念を押したのです。…役員やその妻の前で言われて、すべて退くしかないなと完全にあきらめがついたのです。
バブル期を含め長い間に大きな誘惑も多々ありましたが、夫婦で学びご指導いただいたおかげで塾長の教えの「人間として何が正しいのか」という一点を判断基準として生き、経営にあたったことで大きな怪我や苦難にあうこともなく、無事にやってこられたことは、私の人生の最大の宝物です。
牧野めぐみ=構成 熊谷武二=撮影