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発電より熱利用! バイオマス「地域熱供給」が民間ベースで本格稼動
いま、日本全国で大規模なバイオマス発電設備の建設が相次いでいる。しかし、木材を燃やして発電だけを行う方法ではエネルギー効率が悪く、木のエネルギーの20~30%程度しか利用できない。
一方、暖房や給湯など熱利用をした場合は70%以上を有効活用できる。実際、バイオマスの活用が進むヨーロッパでは、発電よりも熱利用が主流となっている。そんなバイオマスによる熱供給を、日本で初めて民間ベースで事業化する動きが、岩手県紫波町で始まっている。
◆木質チップを燃やした熱を直接利用
盛岡市から車で30分程度の距離にある紫波町では、官民が連携して新たな街区「オガール地区」を開発するプロジェクトが進む。ここは町役場の新庁舎や民間テナントの入った商業施設、ホテルやスポーツ施設、そして住宅などで構成されるエリアとなっている。
この新たな町の顔となる区画に冷暖房・給湯のエネルギーを供給しているのが、地域のエネルギー会社である「紫波グリーンエネルギー株式会社」だ。
町の農林公社で集めた材木の中から、建築や製紙には使えない端材をチップに砕いて供給してもらい、出力500キロワットのボイラーで燃焼させる。その熱で水を温め、エリアの地下にめぐらせたパイプを通して暖房や給湯に活用する。
住居エリアは暖房・給湯利用だけだが、町役場や商業施設などには、冷水を送り込むことで夏の冷房もまかなうことができる。
こうした仕組みは「地域熱供給事業」と呼ばれ、北欧やオーストリアなどを中心に欧州各地に広まっている。地下にパイプをめぐらせることで、各家庭で暖房するよりもエネルギーを効率良く活用でき、光熱費も安くなる。紫波グリーンエネルギーのチップボイラーは、2014年7月からエネルギー供給を開始した。
◆「民間でのバイオマス熱利用の成功事例に」
その準備と同時並行で、省エネ性能の高い住宅建設を前提とした土地の販売も始めるなど、オガール地区の開発が進んでいる。住宅や保育所など、地区のすべての施設が完成するのは3年後を予定している。建設に携わる事業者はほとんどが地元企業なので、地域の雇用にも結びつく。今年の5月からは、新庁舎での業務が本格的に稼動する予定だ。
数年かけてこのプロジェクトを準備してきた、紫波グリーンエネルギーの中尾敏夫氏はこう語る。
「事業はまだ始まったばかりですが、これまで日本では民間でのバイオマス熱利用の成功事例がほとんどなかったので、この取り組みをきっかけに各地に熱利用が広がっていくようになればと思っています」
発電よりも熱を重視した日本初の意欲的なプロジェクトに、注目は日々高まっている。
<取材・文・写真/高橋真樹 著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など>