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「ほめる」も意欲に 尼崎市のITシステム「ススムくん」

「ほめる」も意欲に 尼崎市のITシステム「ススムくん」 兵庫県・尼崎市で「ススムくん」と呼ぶITシステムが稼働している。
 
  尼崎市(稲村和美市長)は兵庫県の南東部に位置し、人口約45万人を擁する中核市指定の自治体。2013年3月には、経済の活性化とCO2削減を両立する産業都市の実現に向けた提案が評価され、国から「環境モデル都市」にも選定された。
 
  2016年に市制100周年を迎える尼崎市では、職員人材の育成に重点を置いた人事評価の取り組みに力を入れている。2013年度より、3100人余りの市職員に対して年1度行っていた人事評価方法を大きく刷新。年度初めの4~5月に上司と1度目の面談を行い、目標を設定。年度途中に2度目の面談で目標の進ちょくを確認し、必要があれば修正。そして年度末の3度目の面談で最終評価するという流れに改めた。狙いの1つは、上司と部下の間でコミュニケーションをより積極的にとれるようにすること。名称も、評価面談から「人材育成面談」に改めた。
 
  ただ、新たな制度もこれまでの体制や意識のままでは困難だ。端的にも、単に職員の業務量が増えるだけならモチベーションの維持は難しい。面談を効率的に進める工夫も必要。そして、人事評価の処遇において仮に低い評価となった部下職員にも納得できるよう説明を尽くす必要もある。総じて、その公正さをどう取り持つかが課題になった。
 
 ●経緯と課題:年1度の手書きでの評価面談から、「人材育成面談」へ変革
 
  これまでの人事評価は、評価者が年1度手書きで評価用紙に記入し、提出する流れで行っていた。人事担当は記入された評価用紙を集め、定量的な評価点となる5段階評価の項目をデータ化し、管理、保管する。データの入力の実作業は外注していた。一方、具体的な評価内容やコメントといった定性的な評価は、漏えいが許されないパーソナルな重要情報になることもあり、データ化の対象からは除外。異動時など、人事担当が情報を参照する際に該当する紙資料そのものを取り出して確認する方法としていた。
 
  「評価は毎年10月頃に行っていました。ただ、記入した内容はそのときの評価のために使われ、評価内容は翌年以降に引き継がれていませんでした。また、そもそも評価用紙の提出状況をチェックするだけでもかなりの手間がかかっていました」(尼崎市総務局人事管理部人事課係長の山下秀樹氏/出典:IBMのWebサイト)
 
  「人材育成面談」の体をなし、さらにその先を見据えた結果を出すには。…これまでの紙ベースのアナログな手段だけではもう難しい。尼崎市は2012年5月、新たな人事評価システムの導入を決めた。
 
 ●対策と方法:“面談”により多くの時間を割ける、新たな評価システムに
 
  新人事評価システムでは、評価者の負担を軽減できること、正確で迅速な処理を実現できること、評価に関するデータを蓄積し、より効果的かつ迅速に人材育成したり、適材適所へ配置する方法や手段を導入できること、そして職員そのもののモチベーション向上につなげること。これらをポイントに据えた。
 
  「導入において特に意識したこと、それは“システムの画面”の構成です。紙ベースで評価していたころと大きく変わってしまうと、評価者が混乱する恐れがありました。そこで、これまでの評価方法を使っていた(例えば、ITに明るくない層の)評価者でも、迷わず、自然に使えるシステムの画面構成を目指しました。このほかにも、導入理由の根幹となる“面談”により多くの時間を割けるよう、さまざまな工夫をしました」(尼崎市 総務局人事管理部人事課主事の濱森健吾氏/同上)
 
  2013年3月、市議会に新人事システムの導入を提案し、予算が承認。同年5月に全6社でコンペ。同年6月に多くの自治体で使用されているケー・デー・シー「ススムくん」を選定した。ススムくんは、2007年のリリース以来、中央官庁4団体、独立行政法人7団体、地方自治体8団体(2014年4月現在)での導入実績を誇るWeb型人事評価システムだ。
 
  尼崎市の場合は、新システムの稼働まで約3カ月という短期での導入計画だった。市役所には、教育、産業、都市整備、福祉などさまざまな業務分野があり、それぞれの分野を担当する職員を一律には評価できない。システム開発を担当したケー・デー・シーによると、特に尼崎市が望んだ評価の公正、公平を担保する仕組みをシステムに反映させることに苦心したという。
 
  尼崎市では、前述の通り職員の評価を5段階の絶対評価を行う。一般職員の場合は、直属の上司である係長、課長が評価した上で、部長、局長がそれぞればらつきを調整。最後に市長以下三役が各局長の評価を調整し、最終的な評価を決める。「尼崎市のように、相対化や順位付けをきめ細かく、しっかり整備する自治体は多くありません。限られた時間の中でどこまで実現できるかを探りながら、職員の皆さんと一緒になって開発を進めました」(ケー・デー・シー ITソリューション部技術課課長の増山悟之氏/同上)。…新システムの基盤には、システムの安定性や信頼性、そしてススムくんとの親和性から、IBMのアプリケーションサーバ「WebSphere Application Server」とリレーショナルデータベース管理システム「DB2」を選択した。
 
  WebSphere Application Serverは、高度なモニタリング機能や問題判別ツールなど、運用管理者へのサポートが充実していることに評価がある。DB2は堅牢に大量のワークロードを処理でき、不測のトラブル時にもダウンタイムを削減し、データを失うことなくデータベースの稼働を継続できる機能を持つ。さまざまなデータ圧縮テクノロジを適用し、ストレージに関連する運用コストも削減できる特徴などがシステム開発側として選定の決め手となった。
 
 ●導入システム
 
 ・ケー・デー・シー「ススムくん」(Web型人事評価システム)
 
 ・IBM「WebSphere Application Server」(アプリケーションサーバ)
 
 ・IBM「DB2」(データベース)
 
 ●効果と成果:組織の風通しをよくし、適切に評価できる仕組みが稼働 その先は……
 
  尼崎市の新人事評価システムは、2013年10月に無事稼働。それから1年あまり経つが「システムダウンにつながる障害は1度もなく、データベースの検索遅延などもない」(ケー・デー・シーの増山氏/同上)と、順調に稼働している。評価する職員からも「評価作業が楽になった」という声が多く寄せられた。記入が楽なので、手書き運用時より定性的な部分の記入量が多くなり、詳細に評価できる。評価内容がとても充実するようになったという。
 
  このシステムは、これらと、課長級以上向けの目標と実績、能力の評価のほかに、課長以下向けの勤務評定と自己目標の入力機能、上司に対して部下が行う多面アンケート、そして職員同士の「ほめ合い機能」を搭載する。
 
  上からの評価だけでなく、“下から(上へ)”の評価と“横から”の認め合いも。組織の風通しをよくし、適切に評価し、職員の能力とモチベーションも高める。結果として、市民サービスをさらによくしたい──。誰のために実施することなのか、この根幹を意識した改革と言える。
 
  「長期的には、データを蓄積して職員全員の適性をつかめるようにするなど、データのさらなる積極的な活用を図りたい。それを通して職員1人ひとりの強みや弱みをふまえた研修を行い、きめ細かな人材育成策の展開につなげたい」(中嶋氏)と、さらなる育成への活用を想定しているという。

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