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「科学への知識や興味」の結果は?

「科学への知識や興味」の結果は?   

 慶應義塾大学(慶応大)は9月5日、同大学理工学部の加藤万里子教授(天文学)と、同法学部 日吉物理教室の小林宏充教授(物理学)により、同大学の1、2年生を対象として、科学用語の知識と興味度、物理コンプレックスの有無などを調査し、2002年および1992年の調査と比較し、その結果を公開したことを発表した。

 この調査は同大日吉キャンパスで10年ごとに行われているもので、新入生の傾向を見るだけではなく、それを通じて社会全体の科学への関心が長期的にどのように変わってきたかも探ることができるものとなっている。

 今回の調査では学生が科学の最新知識を得る情報源は、テレビが最も多く、インターネット、新聞と続き、10年前と比べると、新聞とインターネットの順番が逆転した。「ダークマター」、「ニュートリノ」、「カーボンナノチューブ」の認知度が大きく増え、10年前には認知率が半分以下だった「メルトダウン」は、今やほとんどの学生が知っている言葉となった。また20年前に社会的な話題となった「高温超電導」や「常温核融合」は10年前には関心も知識率も下がり、今回もそのままという状況だった。

 今回の調査で特筆すべきことは、文系理系学部ともに、10年前と比べて自然科学、特に天文学と物理学を中心とする用語の知識度が大幅に上がり、また広く強く興味を持つようになったことがうかがえたことだ。これはこの10年の間に同分野で日本人のノーベル賞受賞が相次いだほか、宇宙飛行士の活躍や「はやぶさ」など、科学の話題がマスコミに次々と大きく取り上げられ、科学が大衆化してきたことの現れだと考えられるという。

 アンケート調査の概要は以下の通りだ。対象は同大文学部、経済学部、法学部、商学部の1、2年生および理工学部の1年生。実施時期は2012年4月。回収数は文系学部409(女性138)、理工学部415(女性81)の総計824。調査内容は科学用語36個について「聞いたことがあるか」「興味があるか」「物理・科学コンプレックスの有無と発生時期」「科学の最新知識をどの媒体から得るか」「新聞の科学欄を読むか」。解析内容は、それぞれの項目について学部別、男女別などの統計、および10年前、20年前との比較となっている。

 主な解析結果は、まず「最新の科学知識を何から得るか」で、前述のように最も多いのがテレビ(文系67%、理工66%)。次にインターネット(文系57%、理工60%)、新聞(文系39%、理工40%)、「Newton(ニュートン)」(月刊のビジュアル科学誌)と続いている。

 10年前(2002年春調査)と比較すると、新聞(文系理工どちらも61%)が減り、インターネット(文系25%、理工40%)が増え、順位も逆転した。インターネットは10年前には文系が理工より15ポイント低かったが、今回の調査ではほぼ同じになったのも特徴だろう。これはインターネットが文系理系にかかわらず広く高校生に普及し、パソコンのほかにスマートフォンなどでも情報が手に入るようになったからだという分析となっている。

 また、文系・理工ともに一般向け啓蒙書の割合が10年前と比較して減っている。一般向け啓蒙書は講談社ブルーバックスなどの書物が想定されるが、10年前に比べてそのような少し専門的な知識もインターネットで手軽に得られるようになったことが大きいのではないかと推測されるという。

 画像1。何から科学知識を得るか(文系・理工、10年前との比較)

 続いて、「新聞の科学欄を読む割合」。これは、文系も理工も新聞の科学欄を読まない学生が過半数で、「まったく読まない」と「ほとんど読まない」を合わせると、文系で59.9%、理工で53.5%になる。この割合は20年前(文系57.0%、理工49.2%)から多少増えており、この結果から、新聞の科学記事を読むという習慣はまったくないものとの解釈ができるだろうという。

 一方、積極的によく読む学生も、20年前に比べて文系も理工もその割合が大きく減っている。画像1からもわかるように、科学知識を新聞から積極的に得るのではなく、インターネットを介して得る方が手軽で、ピンポイントで自分の興味ある事柄について調べることができることが大きいのではないかという予想だ。

 画像2。新聞の科学欄を読む割合(文系・理工、10年前との比較)

 3つ目は、「知っている科学用語と興味のある科学用語」。ある科学用語を知っている割合は、文系も理工も概ね同じような傾向を示しているが、「刷り込み」を除けば、理工の方が認知率が高い。

 ただし、非常によく知られた科学用語であっても、知識があるとは限らない。テレビや新聞でよく取り上げられる用語は聞いたことがあっても、本を読まないので詳しくは知らないことが原因だと思われる。

 例えば「準惑星」の認知度は、文系・理工どちらも54%だった。2006年には冥王星の「降格事件」で社会的にも盛り上がったが、「準惑星」という用語はその後に制定され、認知度が今ひとつ低い。

 男女の比較では、天文や物理関係の用語では女性より男性の方が認知率が高く、生命や環境関係の用語では、女性の方がわずか上回るものが目立つ。特に「ホスピス」は男女とも認知度が上昇したにもかかわらず、まだ差が文系理工ともに10ポイントほどある。この傾向は2002年の調査結果と変わらない。

 4つ目は、10年前、20年前との比較。2002年からの大きな変化は、「ダークマター」、「ニュートリノ」、「カーボンナノチューブ」の認知度が大きく増えたことである。文系理工にかかわらず、20ポイント以上増加した。特に「カーボンナノチューブ」の増加は大きい。

 「体内時計」は1992年から2002年にかけて認知度が急増し、そのまま認知度90%以上を保っている。「ホスピス」は日本社会の高齢化がすすみ、報道でよく耳にするようになったため、20年前に比べ、文系理工ともに認知度が2割から5割に上昇したと考えられる。

 また「メルトダウン」は20年前には認知度が半分以下だったのが、今やほとんどの学生が知っている言葉となった。いうまでもなく2011年3月の福島原発事故の影響と考えるのが妥当だという。

 数学用語は、認知率そのものは全体的に低いが、理工ではこの20年間で「トポロジー」や「フラクタル」がじわじわと上昇している。そのほか「高温超電導」と「常温核融合」は20年前には大きな話題であり、社会問題として新聞紙上を賑わせたが、なかなかそれを実現できていないことあり話題になりづらいせいか、10年後の2002年調査では認知度が大きく減退し、現在でも文系・理工どちらも半減したままである。

 また、今回の調査を10年前、20年前と比べての際だった特徴としては、興味を持つ用語の数が大幅に増えたことがあげられるという。これは科学に興味を持つ学生の割合が圧倒的に増えたといってよく、「理科離れ」が叫ばれて久しい状況で、良い傾向のように見える。画像3~6の通り、どの用語も興味率が大きく増加しているが、特にこの10年で興味が大きく増えた用語は、宇宙関係では「ビッグバン」、「宇宙膨張」、「ダークマター」、「ブラックホール」、「超新星」、「一般相対性理論」、「ニュートリノ」があり、そのほかの分野では「カーボンナノチューブ」、「遺伝子組み換え」、「人工知能」があり、文系ではそれに加えて「国際宇宙ステーション」と「地球温暖化」、「メルトダウン」が目立つ。特に文系では過去の興味率が低かったせいもあり、増加量が大きい。

 認知と興味の10年ごとの変化(文系学部)。画像3(左)は、「用語を知っているか」で、画像4(右)は「興味があるか」。ただし、文系1992年は経済学部のみの値

 認知と興味の10年ごとの変化(理工学部)。画像5(左)は「用語を知っているか」で、画像6(右)は「興味があるか」

 これらの結果から、この10年で科学はぐっと身近な存在になったということが見て取れる。この10年を振り返ると、2002年には田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞し、サラリーマン研究者として科学研究者の存在がぐっと身近になった。また、宇宙関係でいえば、2002年には小柴昌俊さんが超新星からのニュートリノでノーベル物理学賞を受賞し、超新星やニュートリノやダークマターなどがテレビや科学雑誌で盛んに取り上げられるようになった。2008年には南部陽一郎さん、小林誠さん、益川敏英さんもノーベル物理学賞を受賞し、素粒子理論の詳細よりは、「変人」科学者という存在が好意を持って大きく取り上げられ、素粒子が身近な存在になったと研究グループでは見解を示す。

 また日本人宇宙飛行士が何人も宇宙に滞在するようになり、宇宙へ行くことはもはや夢物語ではなく、子どもにとって実現可能な選択肢の1つとなっている(漫画でも宇宙へ行く兄弟の活躍や葛藤などを描いた「宇宙兄弟」がヒットし、映画化やアニメ化もされている)。

 さらに宇宙関連では小惑星探査衛星「はやぶさ」の帰還物語が多くの人の関心を呼び、宇宙科学がいつの間にか、日本人好みのお涙ちょうだい物語とドッキングして大きな話題として取り上げられた。天体を観測するのが好きな女性を表す言葉「宙(そら)ガール」も、まだ一般的ではないかも知れないが、メディアで見かけるようになり、今や新聞や一般の週刊誌でも、天文学や科学の記事が以前より頻繁に載るようになってきている。

 こうした状況を受け、科学が大衆化するということは、純粋に科学的な興味ばかりではなく、その周辺まで含めて興味が広がることをも意味しており、10年前と比べて、科学に対する興味が格段に広がり、興味を持たれる時代になったことを考えれば、この調査は大学1、2年生を対象とした調査ではあるが、そういう一般社会の動向を反映しているといえるだろうと、加藤教授らはコメントしている。

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