仕事で役立つ人気ビジネスアプリおすすめ!
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
大塚実の月刊宇宙開発 (4) 燃え尽きるHTVの撮影に挑む再突入データ収集装置「i-Ball」とは?
前編はコチラ
将来は回収や有人も
今のように警戒区域が広いと、日本近海で設定するのは難しい。だが、これをもっと狭くして、日本に近い領域に落とせるようになれば、飛行機による再突入観測や、船による洋上回収もやりやすくなる(南太平洋は日本から遠すぎ、大きな費用がかかるために、これまでのHTVでは飛行機や船を派遣できなかった)。
日本は現在、HTVの後継機として「回収機能付加型HTV(HTV-R)」の検討を進めているところ。HTVで蓄積した再突入のデータは、この設計に活かすことができる。またHTV-Rの技術を発展させていけば、有人輸送機の開発も視野に入る。i-Ballによる再突入データの取得は、この第一歩となるのだ。
再突入データの取得が、HTV-Rの開発に繋がっていく。HTV-Rは回収カプセルを備え、軌道上から物資を持ち帰ることが可能になる
HTVの3号機には、i-Ballのほかに米国製のREBRという観測装置も搭載される。取得するデータは似ているが、画像の撮影はi-Ballだけの機能
実はHTVの2号機には、米国製の「REBR」という観測装置が搭載されていた。REBRも、i-Ballと同じように加速度/角速度/温度/GPSの各データが観測可能だったが、撮影はi-Ballだけの機能であり、またREBRでは重要な温度データが日本側に開示されないという問題もあった。国産の観測装置を開発した背景には、こういった事情もある。
ちなみに、今回のi-Ballは「HTV搭載型i-Ball」と呼ばれているが、これはHTV以外にも転用できることを意味しており、現在、H-IIBロケットの第2段に搭載することも検討されているという。ロケットの第2段も、周回軌道上から再突入するので、この機会も利用してデータを収集しようというわけだ。
i-Ballの構造と仕組み
i-Ballは球形で、大きさは直径40cm。重量は22kgほどだ。外装はアブレータで覆われ、その外側には保護用のポリイミドフィルムが貼られている。
i-Ballは宇宙飛行士が起動する。電源ボタン(左)を押してから、ショートプラグ(右)を抜く
アブレータの外装は上下の半球に分離するが、よく見ると下半球の方が少し大きい
アブレータの外装は、上下に2つの半球に分かれており、パラシュートを展開するときに本体から分離する。分離した上半球がドローグシュートとなり、メインパラシュートを引っ張り出すという仕組みだ。IAは小惑星探査機「はやぶさ」で帰還カプセルを開発した経験があるが、i-Ballにもその技術が活かされている。
内部には、様々なセンサを搭載。慣性計測装置により、機体の加速度・角速度を計測し、GPS受信機により、飛行中の軌道や着水位置を計測する。また熱電対と温度ロガーにより、8カ所の温度を計測する。
i-BallとREBRによるデータ取得。観測高度が違うので、お互いのデータを補完できる
再突入時のHTV与圧部の内部。i-BallとREBRは、ともにハッチの近くに設置される予定
撮影するためのカメラは2つあり、1つはi-Ballの天頂部に内蔵、もう1つはケーブルで外部から接続される。HTVの与圧部はハッチのあたりから壊れると見られているが、i-Ballは横向きに寝かせた状態で設置されるため、内蔵カメラではその方向を見ることができない。外部カメラはそのために用意されたもので、ハッチ付近の撮影を行う。
一方、内蔵カメラは、HTVが崩壊して、バラバラになる様子の撮影を狙う。放出後は、弾道係数の違いにより、i-Ballは先行して飛行。後方には、燃えながら落下するHTVの大きな破片が見えるはずだ。i-Ballには姿勢制御機能はないが、下部に重心があるため、起き上がり小法師のように、内蔵カメラが自然に後方を向く仕組みになっている。
解像度はどちらもVGA。まず外部カメラが8秒間隔で10枚撮影し、それから内蔵カメラが3秒間隔で40枚撮影する。撮影を開始するタイミングは、加速度センサとタイマーで決定されるが、このパラメータを適切に設定し、ちょうどよいタイミングで撮影できるかどうかがカギだ。
天頂部に内蔵カメラが埋められている。ケーブルは外部カメラのもので、USBで繋がっている
白いっぽい部分は、GPSの電波を通すためのセラミックの”窓”。その隣にはベント用の穴もある
この抽選箱のようなケースにi-Ballを格納する。この箱はウレタンなのですぐに溶ける
これが外部カメラ。ハッチ方向が見えるように、ケースに固定される
もうすぐ再突入!
HTV3号機は、当初、9月8日に再突入させる計画であったが、8月30日に実施された星出宇宙飛行士による船外活動において、予定していた作業が完了せず、2回目の船外活動が必要となったことから、ISSへの係留期間の延長が決定。2回目の作業が成功したことを受け、新たな再突入日時は9月14日の午後2時24分頃(日本標準時)に設定された。
JAXAはi-Ballで撮影された画像については、基本的に公開する方針。合計50枚の画像に何が写っているのか、非常に楽しみであるが、再突入の結果が出たら、また本連載でお伝えしたい。
「月刊宇宙開発」とは……筆者・大塚実が勝手に考えた架空の月刊誌。日本や海外の宇宙開発に関する話題を、月刊誌のような専門性の高い記事として伝えていきたいと考えているが、筆者の気分によっては週刊誌的な内容も混じるかもしれない。なお発行ペースについては、筆者もどうなるか知らないので気にしないでいただきたい。