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今村勇輔の知りたい! みんなの宇宙開発 (8) JAXA、惑星分光観測衛星「SPRINT-A」を公開
SPRINT-Aは極端紫外線の宇宙望遠鏡
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月8日、極端紫外線を用いる惑星分光観測衛星「SPRINT-A」(スプリントA)のミッション概要の説明会と報道関係者への実機公開を行いました。
SPRINT-Aのプロジェクトマネージャ、宇宙科学研究所の澤井秀次郎准教授
宇宙科学研究所の太陽系科学研究系、山﨑敦助教
SPRINT-Aは重さ約350kg。高さ約4m、太陽電池を広げた幅は約7mという小型の衛星です。高さ方向に上2/3ほどの部分が各種の実験を行うミッション部、折りたたまれた太陽電池パネルにはさまれている各辺1mほどの立方体が、人工衛星としての基本的な機能を提供するバス部です。
公開された「SPRINT-A」。下半分の各辺1mほどの立方体が「SPRINTバス」の部分で、その上側がミッション部
ミッション部の大部分を占めるのが、SPRINT-Aの主ミッションのための宇宙望遠鏡「EXCEED」(エクシード)です。EXCEEDの正式名は「極端紫外線望遠鏡」といい、極端紫外線という波長で惑星を観測するものです。極端紫外線は地球の大気で吸収されてしまうため、宇宙望遠鏡での観測に適しています。これまでにない波長を用いた観測で、惑星の磁気圏の様子や大気の変化を明らかにします。
EXCEEDのミッションを具体的に理解するために、まず太陽風と磁気圏について説明しましょう。
太陽から吹き出ているコロナのガスを太陽風と呼び、その速度は秒速300kmから800kmです。また地球はそれ自体が巨大な磁石です。惑星の磁場には太陽風が惑星に直接当たらないよう受け流す役割があり、太陽風が流れ込まない領域を磁気圏と呼んでいます。太陽活動が活発になると、極地にオーロラが多く観測されることがわかっています。
惑星の磁気の強さはさまざまで、金星には磁場がありません。一方で木星は磁気圏が非常に大きく、木星の衛星のイオはその中を回っています。イオは火山活動が活発で、その噴出物は太陽風などでイオン化され、イオの軌道をドーナツ状に囲んでいます。これをイオトーラスといい、極端紫外線で発光していることが知られています。EXCEEDはこのイオトーラスを観測します。またイオトーラスと同時に木星のオーロラも観測し、それぞれの関係を調べます。
惑星の大気の変化を調べるために観測するのは金星です。磁場を持たない金星に太陽風が当たることで、金星の大気にどのような影響があるかを調べます。これは惑星の大気が長い時間でどのように変化するかという、惑星の大気進化の理解にもつながります。
次世代型の衛星電源も実験
SPRINT-Aはオプションとして、新開発の電源系「NESSIE」(ネッシー)の実験も行います。
NESSIEの太陽電池はこれまで一般的に使われているものと比べて非常に軽く、重量あたりの発電効率が高いのが特徴です。薄いシート状なので変形させやすく、さまざまな形の衛星に搭載できるようになることも期待されています。あわせてバッテリーにはリチウムイオンキャパシタを採用しています。従来のリチウムイオン電池に比べて安全性が高く、熱暴走の心配がありません。利用できる温度範囲が広く長寿命であることも特徴です。
NESSIEの試験の結果をもとに、近い将来の人工衛星でメインの太陽電池パネルに採用したいとのことでした。
本体に組み付けられた「NESSIE」。ここから発電する電気は各種のデータを取るのみで、衛星本体では使われない
小型衛星を開発しやすくする「SPRINTバス」
SPRINT-Aにはほかに、新開発の「SPRINTバス」という共通バスを採用した最初の人工衛星であるという特徴もあります。
前述のとおり、人工衛星の機能はミッション部とバス部に分けられます。EXCEEDやNESSIEなど、人工衛星としての仕事を行うミッション部に対して、データの通信や電力のやりくり、姿勢制御や熱制御など人工衛星の基本機能を担うのがバス部です。
バス部はどんな人工衛星にも必要なものなので、共通の機能は共通バスとして開発しておけば、開発リソースをミッション部に集中できます。そのような目的で開発されたのが「SPRINTバス」です。2015年に打ち上げられ、地球のバン・アレン帯を観測する予定の「ERG」もSPRINTバスをもとにしたバスを採用しています。SPRINTバスを利用する衛星の計画はほかにも複数あるとのことでした。
イプシロンロケットで宇宙へ
SPRINT-Aは8月22日、イプシロンロケット試験機によって内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から打ち上げられます。
SPRINT-Aのミッション期間は1年間を予定しています。これはなにかの燃料がなくなるまでといった制限で決められた期間ではありません。太陽電池や熱防護シートの劣化を考慮して決められたとのことで、この間に各種の観測を行います。ハッブル宇宙望遠鏡やX線天文衛星「すざく」、ハワイのすばる望遠鏡などとの共同観測も予定されています。
これまでの人工衛星と同様、SPRINT-Aも打ち上げ後に愛称がつけられるとのことです。たとえば「はやぶさ」は打ち上げ前は「MUSES-C」という名前でした。SPRINT-Aは現在、開発者たちの中では非公式の愛称として「きょくたん」(「しょこたん」「ノンタン」と同じイントネーション)と呼ばれているそうです。EXCEEDが「《極端》紫外線望遠鏡」だからですが、澤井プロマネは「正式な愛称にはしません」と断言しています。愛称の公募は行われず内部で決めるといいます。「正式な愛称をどうするか、まだまったく考えていない」とのことでした。