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北大、悪玉マクロファージを寝返らせて逆にがんを攻撃する技術を開発

北大、悪玉マクロファージを寝返らせて逆にがんを攻撃する技術を開発 

 北海道大学(北大)は1月17日、がん内にいてがんを助ける悪玉マクロファージを、逆にがんを攻撃する「がん傷害性」の善玉に変える方法を開発し、マウスの実験で効果があったことを発表した。開発したのは北海道大学医学研究科免疫学分野の志馬寛明助教らで、成果は米国科学アカデミー紀要「Proc Natl Acad Sci USA」に日本時間1月17日に公開された。

 がんが浸潤・転移など悪性の形質を維持する仕組みの1つに、腫瘍内のマクロファージの「悪性化補助作用」が挙げられる。悪性化補助作用とは、腫瘍に浸潤したマクロファージが腫瘍の増殖・維持・浸潤を強くサポートして腫瘍に都合の良い微小環境の形成を促進することだ。

 がんが転移を起こしたり術後療法が効き難かったりする原因の1つに、この好がんマクロファージ「M2」が関与していることが知られている。マクロファージは自然免疫の細胞なので、免疫を改変することによってM2マクロファージの腫瘍補助作用を抑えて、がんを抑制することができるかも知れないと研究グループでは考えたが、このような方法論の抗がん免疫療法は今まで成功していなかった。

 そこで志馬助教らが今回行ったのは、がんを移植されたマウスに合成2重鎖RNAを射つ(自然免疫を活性化させる)ことによって、がんのM2マクロファージを善玉のM1タイプに変えるというもの。その際起きた事象は、腫瘍壊死因子「TNF-α」というサイトカインの放出によるがんの出血性壊死と強い退縮で、結果的にマウスはがんによる死を免れたという

 C57BL/6(黒い純系)マウスに腫瘍を植える(担がんマウス)モデルを使って、2重鎖RNA「polyI:C」投与が腫瘍(この例では「3LL」という同種の腫瘍)を退縮させることを見出した。polyI:Cはウイルス2重鎖RNAの合成物で、「Toll-like receptor (TLR)3」、「MDA5」など複数の宿主自然免疫レセプタによって認識され、インターフェロン(IFN-α/β)やサイトカインを誘導する。この腫瘍退縮はTNF-α遺伝子欠損(KO)マウスで起きなくなるので、polyI:CがTNF-αを宿主細胞に誘導して抗がん効果が現れることが判明した。

 polyI:C認識によって、同時に腫瘍のM2マクロファージもM1タイプに変換。polyI:C認識によりTNF-αを誘導する経路は複数あることが知られているので、これらの経路を個別に査定できる種々の遺伝子欠損(KO)マウスで調べると、腫瘍内マクロファージの「TLR3/TICAM-1」経路がTNF-α産生のカギになることが確認された。

 この経路は、IFN-α/βなど基本的にはマクロファージのM1シフトを起動する経路であり、以上の結果はウイルスのある種のRNA誘導体は腫瘍関連マクロファージを腫瘍攻撃型に変えてがん退縮を引き起こすことを示唆しているというわけだ。

 手術後のがんを免疫で治療することができれば、副作用の少ない術後免疫療法が確立されるが、大方の期待に反して免疫療法は効かない例が多いことが難点として報告されてきた。

 免疫は本来、外来微生物に対する生態防御系であり、ウイルスなどに強い効果を発揮することが知られている。例えば、多くのウイルス性の風邪は免疫によって数日以内に終息するわけで、この基盤に自然免疫の病原体認識とシグナルの機構があることが最近判明し、免疫のどの細胞が自然免疫活性化に関与するかがわかってきた次第だ。これらの細胞を標的にすると、がんに有効な免疫療法も組めることが理論的に導かれることになるのである。

 志馬助教らは腫瘍浸潤マクロファージもその標的になることを証明し、この細胞をウイルス由来のRNAで刺激すると、がんが退縮することを発見した。マウスの実験腫瘍の系では腫瘍が消失する例も観察されており、これがヒトのがんでも成立すれば、がんを免疫で治すことが可能になるというわけだ。現在、術後治療の決め手が無い難治性腫瘍に対して、この免疫療法は福音をもたらす可能性があると志馬助教らは考えているとしている。

 polyI:C投与によるTLR/TICAM-1経路の活性化と腫瘍内マクロファージの抗がん活性誘導機構

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