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名大、アジサイの酸性土壌耐性遺伝子を同定してほかの植物の強化に成功
名古屋大学(名大)は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科、基礎生物学研究所の協力を得て、青色のアジサイガク片から、2種類のアルミニウム輸送体遺伝子を取得し、それらの輸送体は液胞膜及び細胞質膜に局在し、いずれも水チャネルとして知られるアクアポリンとよく似たタンパク質であることを確認したと発表した。
成果は、名大大学院情報科学研究科の吉田久美教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間8月29日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE(Public Library of Science One)」に掲載された。
アジサイ(学名:Hydrangea macrophylla)は日本原産で原種の花は青色である。この花(一般的に花と思われているのは「装飾花」で実際はガク片)は、酸性土壌で育てると青色となり(画像1)、アルカリ性土壌では赤色になる(画像2)ことが20世紀初頭より知られている。一部のアジサイの色が異なるため、下に遺体が埋まっているのが判明する、というような推理小説をご存じの人もいるだろう。
酸性土壌では、土壌中に3番目に多く含まれる元素のアルミニウムが水溶性になる。そして、根から吸収されたアルミニウムイオンがガク片の着色細胞の液胞内で、近年では健康食品の成分として知られる「アントシアニン」と錯体を形成し、美しい青色を発色するというわけだ。
画像1(左)は、酸性土壌により、青色となったアジサイ。酸性土壌により水溶性となったアルミニウムが根から吸収され、ガク片に溜まって色素と錯体を形成して青色となる。画像2は、アルカリ性土壌により、赤色となったアジサイ。アルカリ性土壌ではアルミニウムが不溶性となるので、植物内には吸収されない
ちなみに、アルミニウムイオンは一般的な植物にとっては毒である。そのため、酸性土壌では根に障害が起きて生育が悪くなってしまい、枯死に至るというわけだ。
しかしアジサイは酸性土壌に耐性を持つ植物のため、体内に多量のアルミニウムを溜めることで問題なく生育する。ただし、アルミニウムが液胞内へ運ばれる仕組みはこれまでまったくわかっておらず、探索の手がかりもなかった。
そこで研究グループは今回、青色アジサイのガク片から「cDNAライブラリ」を作成して塩基配列を解読し、「マイクロアレイ実験」とコンピュータ解析により、輸送体タンパク質の特徴を持つ遺伝子を候補として絞り込むことに成功。これらの遺伝子を酵母に導入し、アルミニウムの輸送活性が測定された。
その結果取得されたのが、「水チャネルタンパク質」とよく似た配列の「液胞型アルミニウム輸送体遺伝子(HmVALT)」である。同遺伝子を導入した酵母は、液胞内へアルミニウムを溜めることが確認された。次に、これと配列が似た細胞膜に存在する輸送体の遺伝子を同様の方法で探索し、「アジサイ細胞膜型アルミニウム輸送体1(HmPALT1)」が見出されたのである(画像3)。
HmVALTはガク片のほか茎、葉、根にも存在し、ガク片では青色が濃くなるにつれて増えた。一方、HmPALT1はガク片だけに存在することが確認されている。この2種類の遺伝子をアルミニウム非耐性植物の「シロイヌナズナ」に導入してアルミニウムを含む培地で育てたところ、HmVALTを導入した植物は根が十分に伸び、アルミニウムに対し耐性を持つことが証明された(画像4)。
画像3。ガク片の着色細胞
画像4。遺伝子を入れたシロイヌナズナでアルミニウムに対する耐性を調べた
今回の研究の成果は、まず新たな遺伝子探索法および、アルミニウム輸送活性測定法を考案して、非モデル植物のアジサイからアルミニウム輸送体遺伝子を取得したことが挙げられる。
2つ目は、細胞外から細胞内へ、および細胞内から液胞内へアルミニウムを運ぶ2種類の輸送体を発見したこと。この仕組みの利用により、青い花の育種に可能性が広がるという。
3つ目は、今回取得したアルミニウム輸送体は、水チャネルタンパク質とよく似ていることを明らかにしたこと。ただし、なぜ水ではなくアルミニウムを運ぶのかはわかっておらず、その解明は今後の課題だ。
また研究グループは、地球上の全耕地の約40%が耕作に不適な酸性土壌であり、主にアルミニウムの害により生育障害が起きていることから、今回の成果は酸性土壌耐性作物を育種するためにも重要と考えているとコメントしている。