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喫煙欲求に関わる脳部位発見

 

 「たばこを吸いたい」という欲求には、大脳の2カ所の部位が連携していることが、理化学研究所・分子プローブ機能評価研究チームの林拓也・副チームリーダーとカナダ・マギル大学モントリオール神経研究所のアラン・ダガー(Alain Dagher)教授らの研究で分かった。一方の部位に磁場をかけて活動を抑えると、吸いたい欲求も抑えられた。2カ所の部位の連携の乱れが薬物依存症の原因の1つとも考えられ、発症メカニズムの解明や有効な治療法の開発が期待される。

 喫煙の欲求は、たばこを連想させる視覚刺激(他人の喫煙シーンなど)によって誘発され、欲求の強さは、すぐに吸える場所か、入手可能かといった、状況によって変化することが知られている。しかし、このような状況依存性の喫煙欲求が、脳のどこでどのように形成されるのかは詳しく分からなかった。

 研究グループは、10人の喫煙者(女性3人、男性7人、平均年齢23歳)に喫煙シーンの動画を見せ(視覚刺激)、「実験後すぐに喫煙できる」「実験後4時間は喫煙できない」の2つの場合での、大脳の前頭葉にある前頭前野の活動を「機能的MRI法」(fMRI)によって観察した。前頭前野は複雑な認知や行動、意欲などに関わる部位で、近年の研究で喫煙欲求にも関係する可能性が示唆されていた。さらに実験では、外部から局所的な磁場をかけて神経活動を一時的に抑制する「経頭蓋(けいずがい)磁気刺激法」(TMS)を用いて、喫煙欲求の変化を調べた。

 その結果、喫煙欲求の強さに関わる部位は前頭前野の腹内側部「眼窩(がんか)前頭皮質」、喫煙の可否状況に応じて喫煙欲求を促進する部位は前頭前野の背外側面「背外側前頭前野」にあることが分かった。たばこをすぐ吸える状況では、喫煙欲求度は強かったが、TMSを用いて人為的に「背外側前頭前野」の神経活動を抑制すると喫煙欲求が下がり、すぐには吸えない状況と同じくらいの低い喫煙欲求度になった。「眼窩前頭皮質」の活動も減衰した。

 これらのことから、状況に応じた喫煙欲求の促進は「背外側前頭前野」と「眼窩前頭皮質」を結ぶ神経ネットワークの連携によるものと分かった。このネットワークに注目することで、新しい薬物依存症の治療ターゲットや依存症の評価法の開発につながる可能性が示唆されるという。

 研究論文“Dorsolateral prefrontal and orbitofrontal cortex interactions during self control of cigarette craving”は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(28日、オンライン版)に掲載された。

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