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小糸製作所など、ありふれた元素で構成される酸化物を用いた白色LEDを開発

小糸製作所など、ありふれた元素で構成される酸化物を用いた白色LEDを開発 

 小糸製作所は、東京工業大学(東工大)の細野秀雄 教授の研究グループおよび名古屋大学(名大)の澤博 教授の研究グループとの共同研究により、新しいLED用蛍光体「Cl_MS(クルムス)蛍光体」を開発したことを発表した。同成果の詳細は英国時間10月16日発行の英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

 白色LEDは、1996年に青色チップと青色光を黄色光に変換する黄色蛍光体(YAG蛍光体、(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ce3+)との組み合わせにより実現されたが、青色チップとYAG蛍光体を使用した白色LEDでは、点光源状に発光するため、照明器の輝度(輝き)が過剰に高くなる傾向があり、その結果、照明器からの直接光、窓やディスプレイなどへの映り込みが視界に入り、不快な眩しさが生じている。また、点光源状の発光は照射範囲が狭く、部屋全体を照らすことができないという課題もあるため、眩しさの低減や照射範囲を広げるため、拡散板などの部材を使って光を拡散する工夫がなされているが、このような部材の使用は、光量の低下を招き、白色LED本来の発光効率が損なわれてしまっていた。

 さらに白色LEDは、チップの青色光と蛍光体の黄色光で白色光を形成するため、チップ上に実装された蛍光体層を通過してくる青色のチップ光が必要になるが、現状、チップ光の出射量は十分な制御ができておらず、色のバラつきが発生しているため、白色LEDは発光色を選別し、色ランクをつけて製造されることとなっているほか、近年の白色LED用蛍光体研究は、演色性向上、色温度の調整のために、窒化物を中心に行なわれているため、高価なものとなってしまうという課題もあった。

 現在主流の白色LED。右が構造、左が発光方式

 今回開発されたCl_MS蛍光体は、主成分が貝や骨、岩石や塩などに含まれるありふれた元素で構成される酸化物ながら、新しい結晶構造を持った新物質。小糸製作所が、東工大 細野教授の指導を受け、紫色チップ用の蛍光体を、高圧焼成処理が不要な酸化物ベースで探索してきた過程で、蛍光体の合成法にセルフフラックス法を適用したで発見された。当初は、ありふれた元素からなる結晶性物質だが、無機結晶材料データベースに該当するものが無く、物質が特定できなかったことから、精密な物質の特定を行うために、約4カ月をかけてCl_MS単結晶を成長させ、SPring-8の高輝度放射光を利用した結晶構造解析を行った結果、Cl_MSが新しい層状の結晶構造を持つ物質であることが明らかにされたという。

 Cl_MS 蛍光体の結晶構造

 Cl_M に希土類元素ユーロピウム(Eu)を添加すると、Cl_MSは発光機能をもつ蛍光体になる。結晶構造解析では、結晶内のユーロピウム位置の正確な把握により、蛍光体の発光に温度依存性が生じるメカニズムを解明することに成功。発光スペクトルはブロードで幅が広いため、色の再現性に優れ、演色性を求められる照明用途に適していることが確認されたほか、内部量子効率も90%以上と高い値を示すことが確認された。

 Cl_MS 蛍光体の発光励起スペクトル

 そして最大の特長は励起スペクトルにあるという。Cl_MS蛍光体は紫色光を黄色光に変換するが、青色光に対しては吸収・変換を示さない。従来の蛍光体では青色光を吸収・変換してしまうために、複数の蛍光体を混合すると色ズレを起こし、均一な発光色を確保することは困難であったが、Cl_MS蛍光体は青色蛍光体と混合したとき、青色蛍光の再変換による色ズレが起こらず、安定した発光色を確保することが可能になる。

 この特性について研究グループは、Cl_MS蛍光体の大きなストークスシフトによるものだとしており、メカニズムについて、細野教授の研究グループが密度汎関数を用い蛍光体の発光サイトの解析を行った結果、大きなストークスシフトの起源は、層状結晶による歪みに起因していることが明らかになったとしている。

 Cl_MS蛍光体は青色蛍光体と混合し、紫色光を照射することで白色光を得ることができる。試作された代表的な白色LEDでは、混合した蛍光体を透明シリコーン樹脂中に低濃度で分散し、紫色チップより十分大きなサイズの半球ドーム状に実装することで作製された。

  今回開発された白色LEDの構造と発光状態

 このような低濃度での蛍光体実装は、蛍光体粒子間が開き、蛍光体粒子による光の遮蔽が少なくなるため、白色LEDの光束(明るさ)を向上させることができる。また、試作LEDは発光部の面積が広いため、明るさが向上したにも関わらず、現在主流の白色LEDに比べ輝度が10分の1以下になり、眩しさを軽減することができるようになるという。さらに指向性の無い蛍光体の発光のみで白色光を形成できるため、照射角が広く、部屋全体を照射する屋内主照明にも適用しやすくなるという。

 加えて、同白色LEDは、発光部を大きくしても、ムラ無く同一色の発光を得ることができるため、蛍光体の実装形態は、半球ドームだけでなく、ライン状、キャンドルライトのように発光する円すい状など、さまざまな形態での実装も可能になるというほか、バラつきについても、蛍光体同士での再吸収・変換がなく、蛍光体一粒一粒がチップの紫色光を青色、黄色に独立して変換するため、白色LEDの発光色は蛍光体の配合比の調整だけで決まるため、白色LED製造時の色選別、ランク分けなどの手間を省くことが可能になるという。

 形状の例。上がライン状のもの、下が円錐状のもの

 なお、研究グループはCl_MS蛍光体について、これまでの常識を覆し、白色LEDに新しい可能性を拓くもので、屋内主照明における白色LEDの普及に寄与するものになるとの期待を示している。

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