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彗星に着陸せよ! 探査機フィラエが挑んだ57時間の軌跡 (2) ロゼッタと彗星、10年越しの出会い
ロゼッタとフィラエ
ロゼッタは欧州宇宙機関(ESA)と、エアバス・ディフェンス&スペース社によって開発された。2.8m×2.1m×2mの直方体に、丸い大きなアンテナを持ち、さらに両脇には翼のような長い太陽電池パドルを持っている。一見すると、普通の通信・放送衛星のようだが、それもそのはずで、本体は通信衛星などに使われているユーロスター2000という衛星バス(衛星にとって基本的な機能を持つ筐体のようなもの)が使われている。
その内部には、欧州を中心に、世界中の研究機関が開発した計11基もの観測機器が搭載されている。
「ALICE」:紫外光撮像器(Ultraviolet Imaging Spectrometer)。彗星の核や、コマ(核を取り巻くガスやチリ)、尾のガスの調査、また水や一酸化炭素、二酸化物の生成率を測定する。「CONSERT」:彗星核観測実験装置(Comet Nucleus Sounding Experiment)。電波を発信し、彗星越しに着陸機フィラエで受信し、彗星核の内部構造を知る。「COSIMA」:彗星二次イオン質量分析装置(Cometary Secondary Ion Mass Analyser)。彗星から放出されるダストの微粒子を観測し、その構成と、有機物・非有機物かどうかを分析する。「GIADA」:微粒子衝撃力分析装置・ダスト蓄積器(Grain Impact Analyser and Dust Accumulator)。彗星核、及び他の方向から来るダストの微粒子の数、質量、運動量、速度を測定する。「MIDAS」:マイクロイメージング・ダスト分析システム(Micro-Imaging Dust Analysis System)。彗星を取り巻くダストの粒子密度、大きさ、量、形状を測定する。「MIRO」:ロゼッタ周回機マイクロ波装置(Microwave Instrument for the Rosetta Orbiter)。主要ガスの存在量の確定、彗星表面からのガス流出量、地表下の温度を測定する。「OSIRIS」:光学・分光・赤外線遠隔撮像システム(Optical, Spectroscopic and Infrared Remote Imaging System)。高解像度の広角・狭角カメラで彗星核を撮影する。「ROSINA」:イオン-中性分析用ロゼッタ周回機分光計(Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis)。彗星大気や電離層の構成、帯電ガスの速度、反応を観測する。「RPC」:ロゼッタ・プラズマ・コンソーシアム(Rosetta Plasma Consortium)。核の物理的性質やコマの内部構造の観測や、また彗星の活動の様子と太陽風との相互作用を観測する。「RSI」:無線科学調査装置(Radio Science Investigation)。無線シグナルの変移を使用し、核の質量、密度、重力を測定する。また彗星の軌道の確定、内部コマの研究にも使われる。「VIRTIS」:可視・赤外作図分光計(Visible and Infrared Mapping Spectrometer)。彗星表面の固体成分、温度を観測する。またガスやコマの物理的状態を観測し、フィラエの着陸地点の決定にも使用される。
ロゼッタの打ち上げ時の質量は2,900kgで、宇宙探査機としては大型の部類に入る。
ロゼッタの想像図 (C)ESA/ATG medialab
フィラエの想像図 (C)ESA/ATG medialab
一方、ロゼッタに抱かれて飛行するフィラエは、100kgほどの小さな探査機だ。縦・横・高さが1mほどの六角柱の形をしており、家庭用の洗濯機に近い大きさだ。下部には3本の脚があり、この脚で彗星の表面を踏みしめる。開発はドイツ航空宇宙センター(DLR)を中心に行われた。
フィラエに搭載されている観測機器は計10基だ。
「APXS」:アルファプロトンX線分光計(Alpha Proton X-ray Spectrometer)。アルファ粒子とエックス線を検出し、彗星表面の元素組成を調べる。「CIVA」:彗星核赤外・可視分光計(Comet Nucleus Infrared and Visible Analyser)。CIVA-PとCIVA-Mがあり、CIVA-Pは6基の小型カメラによりパノラマ写真を撮影する。CIVA-Mは分光計によって、サンプルの構成や反射率などを測定する。「ROLIS」:ロゼッタ着陸機撮像システム(Rosetta Lander Imaging System)。彗星への降下時、着陸後に高解像度の画像を撮影する。「CONSERT」:彗星核観測実験装置(Comet Nucleus Sounding Experiment)。前述したロゼッタから発信された電波を受信し、彗星核の内部構造を探る。「COSAC」:彗星サンプリング・構造実験装置(Cometary Sampling and Composition experiment)。有機化合物を探すガス分析器。「MODULUS PTOLEMY」:進化型ガス分析器(Evolved Gas Analyser)。軽い元素の同位体比を測定する。「MUPUS」:地表・表面下科学多目的センサー(Multi-Purpose Sensor for Surface and Subsurface Science)。地表の熱的・力学的特性を測る。「Romap」:ロゼッタ着陸機磁力計・プラズマモニター(Rosetta Lander Magnetometer and Plasma Monitor)。彗星の磁場、彗星と太陽風との相互作用を観測する。「SD2」:サンプル・分類装置(Sample and Distribution Device)。地下20cmまでドリルで掘り、サンプルの採取、観察、分析を行う。「SESAME」:地表電気・振動・音響観測装置(Surface Electrical, Seismic and Acoustic Monitoring Experimens)。彗星表面の音の伝わり方、電気特性、地表に落ちるダストの衝撃などを観測する。
ロゼッタとフィラエの開発と運用には、オーストリア、ベルギー、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、アイルランド、オランダ、ポーランド、スペイン、スイス、英国、そして米国が参加している。
チュリョモフ・ゲラシメンコ彗星への旅路
2004年に打ち上げられたロゼッタは、約1年後の2005年3月4日、最初の地球スイングバイを実施した。スイングバイとは、天体の引力を利用して軌道の方向を変え、さらにその天体の公転速度を利用し、探査機の速度を上げたり、落としたりすることができる技術だ。地球との最接近は協定世界時22時10分で、上空約1,900kmを通過した。ここまでロゼッタは、地球の公転軌道に寄り添うように飛んでいたが、このスイングバイによって速度を稼ぎ、火星の公転軌道を越えるほどの高い高度に達する軌道に乗った。
そして2007年2月25日には、火星スイングバイを実施した。最接近は協定世界時1時54分で、火星の上空約250kmを通過した。さらに2007年11月13日には、2回目となる地球スイングバイを実施した。最接近は協定世界時20時57分で、上空約5,301kmを通過した。これによってロゼッタはさらに速度を稼ぎ、木星の公転軌道にまで到達するほど高度を上げた。
2005年3月4日の地球スイングバイの際に撮影された地球と月 (C)ESA
2007年2月25日の火星スイングバイの際に撮影された火星の全景 (C)ESA
2008年9月5日には、道中にあった小惑星シュテインスの傍らを通過し、観測が行われた。最接近は世界協定時18時58分。シュテインスから約800kmの場所を通過し、観測が行われた。
そして2009年11月13日、3回目にして最後の地球スイングバイを実施した。最接近は協定世界時7時45分で、地表から約2,500km上空を通過した。さらに速度を増したロゼッタは、ほぼチュリョモフ・ゲラシメンコ彗星に近い軌道に乗った。また2010年7月10日には、道中にあった小惑星ルテティアをフライバイし、観測が行われている。
ロゼッタが撮影した小惑星シュテインス (C)ESA
ロゼッタが撮影した小惑星ルテティア (C)ESA
そして2011年6月8日から、電源や熱制御、搭載コンピュータ、通信の受信機を除く、ほとんどの搭載機器の電源が落とされ、冬眠に入った。この日以降、ロゼッタは太陽から最大で8億km、木星よりも遠いところまで離れてしまう。ロゼッタは太陽電池で動くため、これほどまで離れると動かせなくなるためだ。
ロゼッタの目覚め
2014年1月20日19時ちょうど(日本時間、以下同)に、ロゼッタは目覚めた。その後、姿勢制御に使う機器を再起動させ、機体の姿勢を立て直し、アンテナを地球へ向けて信号を発信した。そして起床から約8時間後の11月21日3時18分、米国とオーストラリアのアンテナは、約8億km彼方のロゼッタからの信号を捉えた。
この時点でロゼッタは、チュリョモフ・ゲラシメンコ彗星と900万kmまで接近していた。その後も近付いていき、徐々に鮮明になっていく彗星の様子を地球に送り続けた。
そしてロゼッタは2014年8月6日18時ちょうど、スラスターを6分26秒にわたって噴射した。噴射完了後、ロゼッタはその旨を知らせる信号を発信する。その信号は約22分掛け、約4億500万km離れた地球に届けられた。
「We’re at the comet! (彗星に着いたぞ!)」。ロゼッタからの信号が届いた瞬間、運用チームの一人はそう叫び、インターネットの生中継を通じて、その喜びを全世界に伝えた。打ち上げから約10年、64億kmにもわたる航海を経て、ついに目的地に到着したのだった。
2014年6月4日にロゼッタから撮影されたチュリョモフ・ゲラシメンコ彗星。まだまだ遠い。 (C)ESA
ロゼッタが到着の直前に撮影したチュリョモフ・ゲラシメンコ彗星 (C)ESA
着陸地はアギルキア
ロゼッタはさっそく観測機器を駆使し、彗星の周囲を回りながら探査を開始した。同時に、フィラエの着陸地点も選定することになっていた。
ロゼッタのカメラで得られたデータから、いくつかの候補地が挙げられた。そして運用チームによる検討の結果、J地点と呼ばれる場所に決定された。
のちにここは公募によって「アギルキア」と命名された。アギルキアは、ナイル川に浮かぶ島の名前で、かつてフィラエ島がアスワン・ハイ・ダムの建設によって水没することが決まった際に、島にあった古代エジプト王朝のイシス神殿遺跡を移設する先となった場所だ。まさにこれ以上ないほど最適な命名だ。
そしてフィラエと、その関係者にとってもっとも長い一日となった、2014年11月12日がやってきた。
フィラエの着陸地点を示した図 (C)ESA
フィラエの着陸地点 (C)ESA
(次回は11月28日の掲載予定です)
参考
・http://www.esa.int/Our_Activities/Operations/Moonrise_above_the_Pacific/
・http://sci.esa.int/rosetta/47446-asteroid-21-lutetia-at-closest-approach/
・http://www.esa.int/Our_Activities/Operations/
Rosetta_comet_probe_enters_hibernation_in_deep_space
・http://sci.esa.int/rosetta/53620-rosetta-esas-sleeping-beauty-wakes-up-from-deep-space-hibernation/
・http://sci.esa.int/rosetta/54469-rosetta-arrives-at-comet-destination/
探査機フィラエ、彗星に立つ