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離乳期の脳には固形餌摂取や味覚刺激の影響が大きい

離乳期の脳には固形餌摂取や味覚刺激の影響が大きい  

 森永製菓と東京大学は8月30日、食事の摂取が脳にどのような影響を与えるかについて検証した結果、研究対象とした離乳期マウスの大脳皮質の「味覚野」・「体性感覚野」において、固形餌摂取や味覚刺激が、神経伝達に重要なタンパク質の量に顕著な変化を与えることを明らかにしたと発表した。

 成果は、森永製菓 ヘルスケア事業部の川上晋平氏、同・稲垣宏之氏、同・西村栄作氏、同・伊藤建比古氏、東大大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻の應本真特任助教(当時)、同・修士課程の伊藤俊輔氏、同・湯浅令子氏(当時)、同・三坂巧准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、8月30日付けで「Neuroscience」に掲載された。

 食事を摂取した際に生ずる甘い・苦いといった味覚情報や、硬い・やわらかいといった食感に関する情報は、口腔内において受け取られた後に、大脳皮質の味覚野・体性感覚野に伝えられ、味や食感が認識される。

 このような食関連情報が処理される脳の領域については、大脳皮質の味覚野・体性感覚野に伝達されて処理されることなど、ある程度明らかにされているものの、食に関する情報が脳にどのような影響をもたらすかについて、これまでほとんど解析されてこなかった。

 味覚以外の感覚、例えば視覚や聴覚においては、幼少期の特定の時期に刺激を受けることで脳の関連領域が発達し、特別な能力を獲得するに至ることが示唆されている。

 視覚系においては、眼が開いた直後における光の入力により大脳皮質視覚野の神経伝達経路が大きく変化することが知られているし、また聴覚においては、絶対音感や語学能力など、ヒトの生活に直接関わるような能力の獲得に、幼少期の感覚刺激が必須なものとして認識されているところだ。

 一方、味覚に関連する現象については、幼少期の味覚刺激がどのように脳に影響を与え、またそれが脳の発達にどう影響するのか、という疑問に関する科学的エビデンスは、ほとんど実証されていないのが現状である。

 今回の研究においてはそのような背景のもと、哺乳類において生後の食環境が劇的に変化する離乳期に着目し、離乳期マウスの食経験が脳に及ぼす効果についての検証が実施された。

 まず、離乳前後の時期において、大脳皮質味覚野・体性感覚野において発現量が大きく変動しているタンパク質を、「ウエスタンブロッティング法」および「免疫組織染色法」を用いて探索。そして神経マーカーとして汎用されているいくつかのタンパク質について検討が行われた結果、「Synaptosomal associated protein(SNAP)25」という神経伝達物質の放出に関与するタンパク質が、離乳後に顕著に蓄積されていることが見出された。

 このSNAP25の発現上昇が、離乳期に固形餌を食べたことによって生じた結果であると推測し、固形餌を与えたマウスと、母乳のみで育てたマウスでの脳内SNAP25量を比較したところ、固形餌を与えたマウスにおいてSNAP25タンパク質が顕著に蓄積していることが明らかになった次第だ(画像1・2)。

 離乳期(生後21日)マウスにおける固形餌摂取の効果。画像1(左)は固形餌なし、画像2は固形餌あり。固形餌摂取により、大脳皮質味覚領域にSNAP25タンパク質が多量に蓄積することが、組織染色により明らかになった。(略語)Ac:anterior commissure、Cc:corpus callosum、IC:insular cotex、M1:primary motor cortex

 さらに、固形餌ではなく単純な味の刺激によってもSNAP25タンパク質が変動するかどうかについても検証するため、人工甘味料の1つである「サッカリン」および唐辛子に含まれる辛味物質である「カプサイシン」をそれぞれ摂取させた時の脳内SNAP25変動についても解析した。

 その結果、サッカリンやカプサイシンを与えた場合も、味覚野・体性感覚野においてSNAP25が蓄積する様子が観察され、その蓄積部位は味の種類によってわずかに異なることも示されたのである。

 以上の結果から、離乳期の食経験により、大脳皮質味覚領域において神経伝達に重要なタンパク質の量が大きく変化することが明らかとなった。この結果は、離乳期の食経験によって、味覚領域の神経回路が発達し、味覚の感受性が変化する可能性をも同時に示唆しているという(画像2)。

 画像3。今回の研究成果のまとめ。離乳期マウスでは、固形餌摂取や味刺激といった食経験により、大脳皮質味覚領域におけるSNAP25タンパク質の量が大きく変化する。これにより、味覚に関連する脳領域の活性化がもたらされ、味覚感受性に大きな影響を及ぼす可能性が示された

 乳幼児期における食経験が、どのようにして大脳の味覚関連領域に影響を及ぼし、それが大人になってからの食行動や味覚感度に影響するかどうかといった知見は、われわれが乳幼児期において、いつ、どのようなものを食べ始めるべきかという現実的な問題とも直結する。また、日本においては、食育という教育学的な方面でも注目が高まっており、このような食に関する新たな研究の潮流は、脳の発達における味覚刺激の重要性を検証する上で、大きな手がかりとなることが期待されると、研究グループはコメントしている。

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