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<十月十日の進化論>市井昌秀監督に聞く 主演・尾野真千子は「カマキリが苦手」

<十月十日の進化論>市井昌秀監督に聞く 主演・尾野真千子は「カマキリが苦手」

 

 女優の尾野真千子さん主演の「ドラマW  十月十日(とつきとおか)の進化論」が28日午後10時にWOWOWプライムで放送される。第7回WOWOWシナリオ大賞を受賞した栄弥生さんの作品をドラマ化。尾野さん演じる不器用で偏屈な昆虫分類学博士が、ひょんなことから昔の恋人と一夜を共にし、妊娠したことで周囲の人々と心を通わせていく物語だ。音楽はバンド「サニーデイ・サービス」の曽我部恵一さんが担当した。映画「箱入り息子の恋」(2013年)などで知られる市井昌秀監督がテレビドラマに初挑戦した。市井監督に、尾野さんとの撮影中のエピソードや見どころなどを聞いた。

【写真特集】「またドラマを撮ってみたい」という市井監督

 ◇脚本の次点で尾野真千子が浮かんだ

 「十月十日の進化論」は昨年3月に発表された第7回WOWOWシナリオ大賞受賞作。市井監督は映像化を託され、シナリオの改訂作業から関わってきた。元の脚本の次点で主人公の鈴は尾野さんをイメージして書かれていたという。市井監督は「それを聞く前に脚本を読んだ時点で僕は尾野さんが僕は浮かびました。これはかなり等身大でやっていただけるんじゃないかと。尾野さんになったら演出方法も変わりますし、そのほかのキャスティングも変わってくるので、(尾野さんが主演に決まったことは)非常に大きかったですね。あとは僕がしっかり撮り切れれば大丈夫だとという気持ちはありました」と最初の手応えを表現する。

 ◇カマキリが持てなくて泣いた

 尾野さんが演じるのは相当偏屈な昆虫分類学の博士だ。尾野さんは「奈良の山奥で育ったので虫には全然苦手意識がない」と豪語していたが、「唯一カマキリが持てなくて芝居以外で泣いたんです」と市井監督は明かす。「苦手だとそのときに初めて分かったみたいなんです。当然撮影では持っていただきたいので、虫が苦手な僕も持ったんです(笑い)。こういうふうに持ってくれって。尾野さんは泣いてはいたんですけど、寄りも撮るって言って何度か頑張ってもらいました」と撮影エピソードを語った。

 ◇自由度の高い現場

 撮影は「現場で起こることを大事にしましょうと、あまり固めずに、(芝居の)相手であったり、その場に置かれた道具であったり、空気感というものをすくいとって、受け取ってやっていきましょうという話をしました。シーンの意図さえ分かっていれば基本的に何をしてもいいと伝えてありました」とキャストに自由に動いてもらった。

 すると、「尾野さん自身が僕以上に現実に近い部分を求める役者さんだということに気づいたんです。今回、尾野さんと(主人公の)鈴は本当に等身大というか、尾野さんを撮っているかのように撮っていたので、尾野さんのスタンスは尊重しつつ、鈴というキャラクターから出てくるものとしてもうちょっと強く打ち出してもいいのではないかというような話はしました」と市井監督と尾野さんのスタンスは近いものがあり、撮影はスムーズに進んだ。

 ◇母親役のりりィには強めのキャラを要求

 鈴の母親役のりりィさんには少し強めのキャラクターを要求した。「普段りりィさんはものすごく柔らかくて、おっとりしている方なんですけど、初めてお会いしたときに、『少し酷なくらいキツい母親をやっていただきたい』と話しました。そういった部分が、りりィさんにもあるはずだと思ったので、ご自身で引き出してもらったという感じですね」と語る。

 父親役のでんでんさんは自由度の高い撮影にうってつけの配役だった。市井監督は「僕は今回、あまりカット割りを決めずに現場で整理していきました。また、役者さんからどんどんアイデアを出してくださいというようなことを言ったんですけど、でんでんさんはかなりアイデアを持ってきていただいて。でも、よくよく考えたらでんでんさんのアイデアはほとんど編集上でカットしちゃったんですよ(笑い)」と笑顔で語る。

 ◇動きのある明るいアニメーションに

 主人公が生き物の進化の過程を想像するシーンは気鋭の映像作家・加藤隆さんのアニメーションを挿入した。市井監督は「加藤さんに映像を見させていただいてイメージを伝えつつ、昆虫分類学博士なのである程度精巧に、写実的に描いてほしいなと思っていました。シーンはイメージの中なので、カメラワークも躍動的に動かしてくださいと伝えました。また、加藤さんが普段作ってらっしゃるものは若干色合いが暗いものが多いという印象だったので、実写の部分が全体を通して思っている以上に明るいイメージに仕上がったので、アニメーションも少し色彩豊かに明るめでお願いしますとお伝えしました」と加藤さんに意向を伝えた。

 ◇主人公は最後に気づく

 監督が今作で気を付けた点は「僕じゃない人の脚本なので脚本家さんが伝えたいこと、その核の部分を絶対にぶらさないようにということに気を使いました」ということだった。そうして出来上がった今作に込められたメッセージは「人は一人で生きているんじゃないよという部分と、(そこに)いていいよということです。社交性ゼロで虫好きで特異な鈴という人物は面白いキャラクターなんですけど、“孤立”と“孤独”をはき違えている。最後に自分は一人じゃない、周りには自分を支えてくれる人がいると気づく話だと思っていました。成長話だとは僕はとらえてなくて、“気づく”というところが伝えたい部分でもあり、人それぞれ変わっていて当然なので、そういうスポットの当たらない人もあなたはあなたでいてくださいという感じです」と力を込めて語った。

 市井監督は次作について「シナリオがほぼ脱稿しているものもあるので、映画を1本、今年撮れたらいいなあと思っています。ドラマも話があったら話があるならいかなきゃなと」と明かし、今後一緒に仕事をしてみたい俳優として「満島ひかりさんとかとご一緒してみたいですね」とラブコールを送った。

 <プロフィル>

 いちい・まさひで 1976年4月1日富山県生まれ。2007年製作の「無防備」で第30回ぴあフィルムフェスティバルのグランプリと技術賞、Gyao賞の3賞を獲得。同作は第13回釜山国際映画祭でもグランプリを獲得し、第59回ベルリン国際映画祭 フォーラム部門に正式出品した。おもな作品に33人のクリエーター×乃木坂46・高山一実×市井昌秀「進路指導」(12年、乃木坂46シングル「ぐるぐるカーテン」TypeAに収録)や「あの女はやめとけ」(12年)、「箱入り息子の恋」(13年)などがある。

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