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天体衝撃波の電子加速の謎を『京』で解く
宇宙は爆発と衝撃波に満ちている。その天体衝撃波で高エネルギーの電子が効率よく加速され生成される仕組みを、千葉大学大学院理学研究科の松本洋介(まつもと ようすけ)特任助教らがスーパーコンピュータ「京(けい)」(神戸市)のシミュレーションで確かめた。宇宙物理学の謎のひとつ「相対論的エネルギーを持つ電子の存在」に迫る新理論を提示した。東京大学大学院理学系研究科の天野孝伸(あまの たかのぶ)助教、星野真弘(ほしの まさひろ)教授、国立天文台の加藤恒彦(かとう つねひこ)専門研究職員との共同研究で、2月27日付の米科学誌サイエンスに発表した。
図1. (上段左)衝撃波の構造。色は電子密度、線は磁力線を表す。(上段右)一部領域の拡大図。(下段)電子が磁場の塊(灰色線)に衝突しながらエネルギーを獲得する様子(赤線)。(提供:千葉大学)
超新星爆発の名残やブラックホールから飛び出すジェットなどの天体の爆発現象はさまざまな電磁波で明るく輝く。これらの電磁波は、ほぼ光速で動きまわる電子によって放射されている。この相対論的なエネルギーを持つ電子は、天体から超音速で放出されたガスが星間ガスと相互作用して作る衝撃波で生成されると考えられているが、どのようにして作られるかは謎のひとつとして残されている。粒子間の衝突がほとんど起きない高温で希薄なプラズマ中に衝撃波が作られるため、電子が加速される複雑な現象はスーパーコンピュータの力を借りずに理解することは難しい。
図2. 磁気リコネクション(再結合)。線は磁力線で、矢印が磁場の向きを表す。磁力線がつなぎ変わり(上段から下段)、双方向に噴出するジェット(灰色矢印)と磁場の塊が作られる。(提供:千葉大学)
研究グループは、天体衝撃波の波面で、磁気が再結合してループ状の磁力線構造(磁場の塊)が形成される磁気リコネクションが起きて、電子が効率的に加速されることを見いだした。衝撃波面近くの細かな構造を分解した計算は、世界でトップレベルのスーパーコンピュータ「京」の高い能力で初めて実現した。100億個ものプラズマ粒子の運動を解き進め、膨大な計算で、これまで探れなかった衝撃波の構造を探った。
まず、衝撃波面で磁気リコネクションが発生して、ランダムに運動する磁場の塊がたくさん噴出することを突き止めた。この磁場の塊と電子が繰り返し衝突して、高エネルギーの電子が作られることを確かめた。粒子が散乱体と衝突を繰り返しながら、エネルギーを獲得する仕組みは、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミが1949年に提唱して、フェルミ加速として知られている。このフェルミ加速が、衝撃波で磁気リコネクションを介して電子の加速に極めて有効に働く可能性を初めて示した。
研究グループの松本洋介さんは「磁気リコネクションは太陽フレアやオーロラを起こす仕組みとして知られているが、天体衝撃波の宇宙線加速でも、重要な役割を果たしているのに驚いた。磁気リコネクションによる粒子加速はかなり一般的に応用できそうだ。宇宙で電子の加速は広く観測されていたが、理論は謎だった。その理論に最初の手掛かりが得られた。『京』をさらにフル活用して、高エネルギー電子がどのような状況で最も効率よく生成されるか、解明を目指したい」と話している。