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北朝鮮と接近するロシアの思惑と落とし穴 危なっかしい正恩氏の外交デビュー

 北朝鮮と接近するロシアの思惑と落とし穴 危なっかしい正恩氏の外交デビュー

 

 [写真]2013年4月の北朝鮮軍創建81周年式典に出席した金正恩氏(ビデオ画像)(KRT via Reuters TV/ロイター/アフロ)

  ここ最近、北朝鮮とロシアの接近が目立っています。金正恩氏が5月にロシアで開かれる「対ドイツ戦勝70周年記念式典」に出席するという話も出ています。もし正恩氏がロシアを訪問すれば、初の外交デビューとなるという意味で注目されています。一方、北朝鮮に対する国際社会の包囲網が厳しくなる中で、なぜロシアは北朝鮮に手を差し伸べるようなことをするのでしょうか。ここには、ロシアが国際社会で置かれている現実があります。

先行きに暗雲たちこめるロシア

  かつてロシアを頂点とする旧ソビエト連邦(ソ連)は、アメリカ、中国と並んで世界の大国の一つとして国際政治の主役の一人でしたが、旧ソ連が崩壊してからは、国連ではソ連が持っていた常任理事国の代表権を引き継いでいることから、国際政治において多大な影響力をもっていると見られがちですが、必ずしもそうではありません。
 
  凋落(ちょうらく)著しいロシアという枠組みからの脱却を狙って、かつての連邦国は次々と分離独立を目指しました。ロシアは、その枠組みを維持しようと軍事介入を強行しました。代表的な軍事介入として「チェチェン紛争」があります。こうしたロシアの強硬な「覇権主義」は、国際社会の反発を招いてきました。
 
  経済面で見ると、ソ連解体直後は社会主義経済から市場主義経済にうまく移行できず混乱を招きました。しかし、世界第2位の原油生産国というアドバンテージを活かして、2014年のGDPランキングでは世界8位です。
 
  ところが、ここ最近は原油価格が暴落し、ロシアの通貨であるルーブルも下落しており、経済的に暗雲が立ちこめています。また、国際政治面では「ウクライナ問題」で国際社会の反発を招いています。ウクライナ情勢をめぐっては、2014年から欧米がロシアを非難し、国連でも緊張状態が続いています。

北朝鮮は“有効なカード”

  ウクライナ問題に限らず、ロシアを率いるプーチン大統領は、米国の覇権に対して強烈な対抗心を燃やしているようです。ソ連解体以後は、その枠組みを維持することもできず、「米国のライバル」は、今は昔。欧州にまで影響を及ぼした覇権時代は過去の栄光となりました。同じく、かつて社会主義国家だった中国は国内的な問題を抱えながらも、アメリカの対立国家として存在感を強めています。
 
  こうした中、ロシアを率いるプーチン大統領が、ソ連時代の大国としての覇権を復活させ、アメリカや中国と肩を並べるという「野望」をもってもおかしくありません。
 
  そして、アメリカや中国と対立するための有効なカードとして浮上してきたのが、金正恩氏率いる北朝鮮というわけです。
 
  わずか2400万にも満たない小国である北朝鮮が、核とミサイルでアメリカと中国の頭を悩ましている。双方の利害がダイレクトにぶつかることから、下手な軍事介入も出来ないという微妙な地域に位置する北朝鮮。ロシアとしては、この北朝鮮を利用しない手はないといったところでしょうか。北朝鮮は核問題でアメリカや中国の言うことを聞きません。ロシアが北朝鮮に影響力を持ち、核・ミサイル放棄の道筋を作ることが出来れば国際的な評価は一気に高まります。

目立つ北朝鮮の「離中近露」

  2013年の核実験や張成沢の処刑をきっかけに中朝関係は悪化する一方で、北朝鮮の「離中近露(中国から離れてロシアに接近)」が、目立ちます。北朝鮮国内では、今年5月からロシアから電気が供給や小麦5万トンが支援されるという情報が流れ、ロシアと国境を接している羅先のビジネスマンは朝露関係の改善に大きな期待をかけています。
 
  こうした流れを見ると5月のロシアの式典に金正恩氏が出席する可能性は非常に高いようにみえます。
 
  ロシアと北朝鮮がロシア側からすれば、「引きこもり」に近い正恩氏を外交の場に引きずりだすことができれば、先述のように、東アジア国際政治で一定の評価を得ることができます。先に述べたウクライナ問題やルーブル下落で、凋落著しい自国の権威を挽回するチャンスでもあります。
 
  また、北朝鮮にとっては、ロシアから新たな支援を得られるという点では魅力的です。北朝鮮の公式メディアである労働新聞は、このところしきりにウクライナ問題におけるロシアの姿勢を擁護する主張が掲載されています。

正恩氏は本当に訪ロするのか?

  一見、蜜月関係を築きつつあるロシアと北朝鮮ですが、危険な落とし穴があることも見逃せません。まず、金正恩氏が本当にロシアを訪問するのかという疑問があります。
 
  報道各社は既成事実のように報じていますが、ロシア側からも「金正恩氏が参加する」とは明確に述べられていません。北朝鮮外交では、金永南氏が「外交上の国家元首」として外国を訪問したり要人と会談することも多く、今回も「北朝鮮の首脳部」として金永南氏、または別の人物が訪露する可能性もあります。
 
  また、外交経験がまったくない金正恩氏が、いきなり各国の国家元首と同席するのは非常に危なっかしいものがあります。全ての式典がそうですが、参加者の序列や立ち位置などは、主賓との関係の強さを物語ります。金正恩氏が、どこに座り、写真ではどこに立つのか……。端に追いやられるようでしたら、北朝鮮としても出席する意味がありません。

  また金正恩氏が北朝鮮国内のように、タバコを吸ってポケットに手を突っ込んで尊大に振る舞うわけにはいきません。各国の国家元首と失礼がないように振る舞えるのか。逆に金正恩氏に対して各国の国家元首は、どのように接するのか。振る舞い如何によっては、金正恩氏の評価が一気に下がり、北朝鮮が国内的に自慢する「偉大なる指導者の偉光」のメッキが剥がれることになります。
 
  また、ロシアを訪問すれば冷え込んだ中朝関係の亀裂は決定的になります。いくらロシアが大国とはいえ、すぐに中朝経済の代わりになるわけでもなく、今現在も中国に頼っている北朝鮮経済は、打撃を受けることになります。
 
  そして、ロシアが正式に「金正恩氏」個人を招待したにもかかわらず、特別な理由なしに訪露をキャンセルすれば外交的欠礼になり、両国の関係は一気に冷え込みかねません。
 
  式典が開かれる5月まで時間は残されていますが、金正恩氏がどのような決断を下すのかに注目されます。
 
 (高英起/デイリーNKジャパン編集長)

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