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大阪府の現代美術作品を集めた「眼と心とかたち」展

 大阪府の現代美術作品を集めた「眼と心とかたち」展

 

 [写真]アルミ板で構成された森口宏一の作品を解説する中塚宏行主任研究員

  大阪府が収集した現代美術作品を展示する「眼と心とかたち―『学芸員N』が出会った大阪府20世紀美術コレクション」が、大阪市西区の府立江之子島文化芸術創造センターで開催されている。感想を無理やり言葉にしなくてもいい。作品の前で、めい想するのもいい。難解に感じる現代美術を、たまにはマイペースで楽しみたい。

パリジェンヌが絶賛した「現代のジャパネスク」

 [写真]松谷武判の作品「軌道-1-B」(1990年)

  1974年から2007年にかけて府が収集した「大阪府20世紀美術コレクション」は、関西ゆかりの作家の作品や、大阪トリエンナーレの受賞作品を中心に、総数約7800点におよぶ。「眼と心とかたち」展では、代表的作品54点を展示。関西戦後作家と大阪トリエンナーレ・コレクションをメーンに、現代美術作家森口宏一の立体的作品群と、写真家岩宮武二、リチャード・ミズラックの写真作品群を集めたふたつの特集展示による三部構成だ。
 
  現代美術と聞くだけで、「難解」「苦手」と敬遠しがちな読者もいるのではないだろうか。しかし、意外と身近なところで現代美術にふれているケースが少なくない。会場で「あれ?   どこかで見たような」と既視感を感じる作品と遭遇した。
 
  ひとつは写真週刊誌「FOCUS」の表紙を毎号飾っていた三尾公三の作品だ。エアブラシ画法で浮かび上がる幻想的な女性像が、写真ジャーナリズムの地平を切り開く「FOCUS」とマッチしていたのを思い出す。
 
  もうひとつは司馬遼太郎が「週刊朝日」で長期連載していた「街道をゆく」の挿絵原画「東大寺落慶供養」で、作家は須田剋太。モノクロ掲載ながら、須田は原画を鮮やかな色彩でダイナミックに描いていた。「FOCUS」に「週刊朝日」。幅広い読者を持つ代表的商業雑誌で、現代美術作家たちが活躍していたわけだ。ほどよく肩の力が抜けたところで、展覧会を企画した中塚宏行・府都市魅力創造局文化課主任研究員の助言を受けながら、やや骨のある作品にチャレンジしてみよう。
 
  まずは松谷武判(まつたに・たけさだ)の作品「軌道-1-B」(1990年)。吉原治良が創設した具体美術協会の第2世代の作家で、フランスに渡って新境地を開拓した。白と黒が基調の見上げるほど大きなオブジェ的作品だ。「日本文化を好むフランス人に対し、伝統的なジャパネスクとは違うかたちで日本的なものを伝えようとした際、こうした表現になったのではないか。和紙や鉛筆を使い、墨絵の世界に通じるものがある」(中塚主任研究員)
 
  鉛筆を丹念に塗り込んだ黒は独特の光沢を放つ。

食パンの包装紙やアルミ板が芸術作品に

 [写真]「作品(食パン包装袋)」の一部。包装紙がびっしり張られているのがわかる

  続いて、具体美術協会創設メンバーのひとり、上前智祐(うえまえ・ちゆう)の「作品(食パン包装袋)」(1976年ごろ)。こちらも大きな作品だが、のぞきこむと、食パンの包装紙をひたすら張り重ねたものだ。
 
  「アメリカで活躍したアンディ・ウォーホルが、キャンベルスープのスープ缶を描いた作品群を発表しているが、上前は食パンの包装紙に着目した。ジャンクアート、ポップアートのすぐれた作品です」(中塚主任研究員)
 
  特別展示森口宏一の直線と円で構成された作品が制作されたのは1964年。東海道新幹線が開通し、東京五輪が開かれた年だ、当時新たな建材として注目されているアルミ板を駆使して作品が制作された。
 
  「現代美術では物質の持つ質感や存在感そのものを追求した時代があった。森口はアルミの他にも、ステンレスやポリエステルなど多様な工業材を用いました」
 
  ふと技術革新という言葉を思い浮かべる。森口は関西大学で統計学を学んだ後、現代美術へ進んだ。今風にいえば、学際的アーチストだった。森口以外の作品にも、三角定規、フォーク、ドンゴロスなどの素材が巧妙に利用されている。会場で隠れた素材探しも一興だろう。
 
  大阪トリエンナーレ・コレクションの外国人作家の作品からは、メッセージ性がひしひしと伝わってくる。

好きなことに打ち込めば困難を乗り越えられる

 [写真]上前智祐の「作品(食パン包装袋)」(1976年ごろ)

  中塚主任研究員は「四角いキャンパスには無制限の自由がある。画家は自身の思いを自由に描いていく。絵画的表現を言語的表現に転換するのはむずかしいが、どう解釈するかは観客の自由だ」と話す。「感想を無理に言葉にしようとせず、気になる作品の前で、めい想してみる。こうしたらもっとおもしろくなるかもしれないと想像するのも自由です」と、マイペースでの鑑賞をすすめる。
 
  現代美術の手法や発想を、日々の暮らしのヒントにする方法はないだろうか。
 
  中塚主任研究員は「経済的に恵まれない画家たちもいたが、果敢にチャレンジすることで生きたあかしを残すことができた」と分析。「人はだれでも好きなことに打ち込めば、困難を乗り越えることができる」と、ジャンルを超えて若い世代の背中を押す。芸術も仕事も人生も、分からないからこそ、おもしろい。
 開館時間は午前11時~午後7時、月曜休館、会期は4月4日まで、入場無料。詳しくは府立江之子島文化芸術創造センターの公式サイトで。
 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)
 
 地図URL:http://map.yahoo.co.jp/maps?lat=34.6812689&lon=135.483742&z=18

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