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鳩山元首相クリミア訪問への批判を考える5つの論点
鳩山元首相が3月10日から12日まで、昨年ロシアに併合されたクリミアを訪問し、各方面から批判されました。菅官房長官は、「日本政府は訪問を再考するよう働きかけたが鳩山元首相は聞き入れず、日本政府の方針と反する形で訪問した。軽率な行為であり、極めて遺憾である。厳しく批判する」と記者会見で述べました。
日本政府方針に反する訪問
[写真]日本政府の方針違反する形でクリミアを訪問した鳩山由紀夫元首相(ロイター/アフロ)
「日本政府の方針と反する形で訪問した」という意味は、(1)日本政府はロシアによるクリミア併合を認めない方針である、(2)鳩山元副首相がロシアのビザでクリミアを訪問したことは、クリミアがロシアの一部であることを認めたと解される恐れがあり、日本政府の方針に反している――という2つのことを含んでいます。
ビザとは入国許可のことで、あらかじめ政府間の取り決めでビザが不要になっている場合以外は、これがないと外国へ入国できません。クリミアへ入るならば、本来はウクライナのビザで入るのですが、クリミアはウクライナから事実上離脱しているのでウクライナのビザを認めず、入境を拒否するでしょう。したがって、実際には、日本人がクリミアへ入るにはロシアのビザを使うしか方法はありませんが、クリミアをロシア領として認めない日本政府は、そのような行動を旅券法違反として処分する可能性があります。
鳩山元首相はクリミアでの記者会見で、「日本政府が旅券を没収し、あるいは無効にするならば、日本へは帰らずそのままクリミアに移住しようか」と発言しました。さらに、「ロシアがクリミアを併合する根拠となった住民投票で住民の意思は自由に表明された」「クリミアの住民はロシアに併合された後幸せに生活している」「ロシアに対し日本を含め各国が課している制裁は理由がなく、解除すべきである」などとも発言したと報じられています。
海外報道はどう受け止めた?
各国の報道機関は(と言っても一部ですが)、菅官房長官の発言を中心に報道していますが、鳩山元首相のこのような言動を常軌を逸しているとみなしているものもあるようです。一方、欧米の新聞の中には、「きつい批判(harsh criticism AP通信)」「 冷たいお叱り(fresh rebuke ウォールストリートジャーナル)」「厳しく批判(sharply criticized ロイター通信)」などという表現を使っているものがあります。彼らは菅官房長官の発言は思いのほか厳しいと感じている可能性があります。そのような受け止め方になるのは、政府の方針に反する個人の行動でも許容する度合いが欧米では比較的高いためだと思われます。
なお、中国のメディアはもっぱら日本の通信社および新聞による報道を引用していました。ロシアによるクリミアの併合は中国として認めたくない、かといって日本や欧米を支持したくないので、そのような報道になったものと思われます。
クリミア併合を認めたことに?
鳩山元首相によるクリミア訪問は、我が国でははなはだしく常軌を逸脱していると取られ、批判されましたが、重要なポイントを改めて整理してみましょう。
第1に、鳩山元首相は、ロシアの行動は本当に許されないものであったか、各国がロシアに制裁を課したのは妥当であったかを検証するためにクリミアを訪問しました。このような問題意識を持つこと自体はとくに非難されるべきことでありません。
第2に、しかし、検証するための方法は問題となるでしょう。ロシアのビザでクリミアに入国すれば、検証する前にロシアのクリミア併合を認めてしまうことになる恐れがあります。日本政府の指摘はもっともです。
第3に、個人で訪問しても実態は簡単にはわかりません。ロシアやクリミア側の説明を聞いただけでロシアの行動に問題はなかったと判断すべきではありません。何事についても、紛争当事者双方の言い分を聞く必要があります。
第4に、日本政府が行かないように要請しているのを無視することの是非も問われるでしょう。安倍内閣の決定を鳩山元首相が認めないのは自由ですが、だからと言って日本国、日本政府の立場を損なうことは問題です。日本の元首相としては、政治的に相いれない政権の下でも一定程度の自制は求められるはずです。
第5に、元首相の立場をさておき、一国民として考えても、外国では日本国の、かつ、日本と友好関係にある諸国の保護を受けており、それに応じて自らも問題を起こさないよう責任を負っているのではないでしょうか。
一般論ですが、外国では日本国内以上によく分からないことがあり、個人の行動も予想に反する結果となる恐れがあるので慎重さが求められます。鳩山元首相のクリミア訪問は、ロシアが評価した以外、各国に対して大して影響を及ぼしていないようですが、それはともかく、日本人として海外の行動には一定の自制が求められると思います。
(美根慶樹/平和外交研究所)
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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