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「初球ストライク」に日米差 広島黒田の39球見た評論家指摘
「あっという間に追い込まれた。術中にハマった」
ヤクルトの中村はこう言って唇を噛んだ。
【写真】日米で大差…“メジャーの汚いベンチ”に球場関係者が呆然
8日のヤクルト戦で、広島の黒田博樹(40)がオープン戦初登板。五回途中までパーフェクトに抑えた。特筆すべきは球数だ。打者13人に対してたったの39球。初回は5球、時間にしてわずか1分で打者3人を仕留めた。
「39球のうちボール球はたった9球。ストライク率は実に77%。ストライク先行で自らリズムをつくっていた」(ライバル球団のスコアラー)
登板後、「どんどんストライクゾーンで勝負して打者にプレッシャーをかけていければいいと思った」と振り返った黒田に、緒方監督は「鳥肌が立つほど素晴らしい。米国でどれだけの経験を積んできたのかと思い知らされた」と大絶賛だった。
ストライク先行の考え方は、メジャーでは当たり前。ソフトバンクの松坂がインディアンスに在籍していた頃、キャンプのクラブハウスには各投手の「ストライク率」の成績が張り出され、フランコーナ監督の「積極的に攻めよう。どんどんストライクを投げよう」とメッセージが添えられていた。
「黒田に、ピッチングとはこうあるべきという理想型を見た」
こう話すのは、評論家の高橋善正氏。高橋氏は71年、東映(現日本ハム)で完全試合を達成。球数はわずか89球だった。
「投手の基本はストライクを投げること。初球からストライクを投げ、常に投手有利のカウントをつくって、どうやってボール球を振らせるかを考えたりするわけだが、今の日本の投手にはそのストライクを投げることにも汲々とする投手が少なくないですからね」
では、制球力が落ちた理由な何なのか。
「野村克也さん、森祇晶さんの台頭により、バッテリーは『捕手主導』になった。彼らが監督になってますますその傾向が強まった。打者の様子を見るために初球はボールから入るケースが少なくないが、これだと制球力がない投手は苦しんで四球になりやすい。投手もそれで打たれたら捕手のサインが悪いと考え、制球を磨こうという意識がそがれているようにも見える。また、投手がスピードを追い求める傾向が強いことも原因のひとつ。トレーニング技術が発達し、日ハムの大谷ら、160キロを投げる投手が出てきたことで、最近は速いボールを投げる投手がすごいとの価値観が強い。力勝負といえば聞こえはいいが、いくらスピードが速くてもストライクゾーンを外れれば勝てない。速い球を投げようとすれば、力が入ってコントロールがブレやすくなるのは当然だ」
■指導者にも問題が
評論家の権藤博氏も本紙のコラムで、NPBで議論されている試合のスピードアップを実現する方策として、「一にも二にもテンポを上げることだと思う。走者なしの場面で下位打線を迎えても、初球からボールを投げて様子を見るという投手すら多い」と、日本の投手がいかにムダなボール球を投げているかを指摘。
続けて、「指導者にも原因がある。簡単にストライクを放るな、間合いを取れ、追い込んだら1球外せなどと、テンポが悪くなることばかり強制する。初球を痛打されると、怒鳴りあげるコーチもいる。それがますます投手を萎縮させる」と記していた。制球力という技術の問題、あってもストライクを投げることを恐れるメンタルの弱さ、間違ったことを教える指導者の問題……。
いくら試合時間短縮を叫んだとしても、日本の投手の制球力、精神力が磨かれない限り、スピーディーな試合など見られない。黒田のこの日の姿は、日本野球のもろさを映し出してもいるのだ。