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タカタ製エアバッグ死亡事故の謎 原因の「多湿」評価項目は国際安全基準にも規定なし

タカタ製エアバッグ死亡事故の謎 原因の「多湿」評価項目は国際安全基準にも規定なし

 

 前回の3月13日付本連載記事『タカタの死亡事故エアバッグ、なぜ生まれたのか?疑惑やずさんな生産管理が次々露呈』に引き続き、自動車のエアバッグ問題について考えてみたい。

 そもそもエアバッグは、1980年に独メルセデス・ベンツが現在のSクラスに採用したのが実用化の始まりだ。しかし、本格的に普及したのは本田技研工業(ホンダ)が積極的に量産車に採用するようになってからである。エアバッグはシートベルトと自動車のボディだけでは守れないような激しい衝突から、乗員の命を守る安全装備として世界的に標準化が進んだ。衝突後わずか30ミリ秒つまり0.03秒でバッグを開く技術で、その信頼性の確保が重要かつ最も難しい技術課題であった。ホンダは当時大手のシートベルトメーカーであったタカタと共同で、エアバッグの開発に乗り出したのである。

 その構造はシンプルで、ハンドルの中央部に円盤状(助手席は筒状)のインフレーターと呼ばれる金属製ケースが配置されている。インフレーターの中には、プロペラントと呼ばれる火薬がペレット状(粉をプレスして固形化したもの)に加工されて複数組み込まれている。衝突を検知すると火薬が爆発し、ナイロン製のバッグが一気に膨らむ仕組みだ。

 その様子は、各国で行われた自動車の安全性評価、NCAP(新車アセスメントプログラム)が公開している映像で見ることができるが、エアバッグの展開がわずかに遅れただけで、運転席のダミー人形はハンドルに頭部をぶつけることもある。衝突エネルギーも大きいが、エアバッグの爆発力も負けていない。そのくらい大きなパワーがないと、乗員をしっかりと拘束することができないのだ。そのおかげでエアバッグは約3万5000人の命を救ったとの米国のデータがある。

●自動車メーカー各社を悩ませた、化学成分問題

 エアバッグに使われるプロペラントとしてはアジ化ナトリウムが使われていたが、発がん性や廃棄時の土壌汚染が懸念され、日本の厚生省(当時)も1990年代中頃に毒物指定にした。各国のエアバッグメーカーはアジ化ナトリウムの代替品を探したが、そこで登場したのが硝酸アンモニウムと硝酸グアニジンであった。プロペラントとしての爆発力は硝酸アンモニウムが優れているが、不安定で扱いにくい特性をもっていた。タカタ以外のエアバッグメーカー(インフレーターだけを製造するメーカーも含めて)は硝酸アンモニウムを使うことを断念し、安定性が高い硝酸グアニジンを使用した。

 筆者は1997年に書籍『クルマ安全学のすすめ』(NHK出版)を上梓しており、その時にもエアバッグに関してタカタを取材している。当時はアジ化ナトリウムが使えなくなるので、非アジ化ナトリウムという呼び方で代替品を研究していた。

 自動車メーカーにとって、毒性がある化学薬品を使うことは避けなければならなかった。さらに0.01秒単位で爆発をきめ細かく正確に制御することが必要なので、各社の関心事はセンサーなどの精度に集まっていた。当時からエアバッグの課題は「誤爆」(衝突を検知しなくても爆発する)と「不発」(衝突を検知しても爆発しない)が重要課題であった。

●国際安全基準も見落としていた点

 では、今回のタカタ製品における火薬が劣化することで起きる問題は、想像できなかったのか。

 火薬の専門家によれば、硝酸アンモニウムは相転移(結晶構造が変わってしまう現象)が比較的低い温度で生じることがわかっているという。自動車が使う温度環境では頻繁に生じることが懸念されていた火薬であった。タカタはある物質を添加することで相転移を回避できる技術を開発し、当時はタカタの技術は高く評価されていた。

 だが、硝酸アンモニウムは吸湿性が高く保管管理も難しい物質なので、初期の性能は安定させることができても、長期にわたって安定するとは考えにくい。このあたりを自動車メーカーはどう認識していたのだろうか。

 本リポートを書くために、主要自動車メーカーにエアバッグの寿命に関して取材したが、異口同音に「クルマの寿命と同じです」という答えが返ってきた。火薬に関する国際的な基準としては、欧州「ISO 12097-3」、独「BAM」、米「DOT」などエアバッグやインフレーターの国際的安全基準があるが、高温多湿に関するテスト評価は規定されていない。

 原因解明のための調査は米国で外部機関を使って行われているが、日本ではエアバッグの劣化の評価や、寿命に関するガイドラインの策定を考えるべきではないだろうか。日本の企業が起こした問題は日本で解決する責任があると思われる。

 日本中を走っているほとんどの自動車にエアバッグが装備されているので、安心して運転するために、オールジャパンで結束する必要があるはずだ。そして私たち一般ドライバーは、事故を起こさないように安全運転に努め、さらにシートベルトを必ず装着すべきである。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)

※記事タイトルは編集部が制作しました。

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