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雪国まいたけで異例の乗っ取り騒動、陰で銀行が加担 経営陣対創業家の泥沼内紛

雪国まいたけで異例の乗っ取り騒動、陰で銀行が加担 経営陣対創業家の泥沼内紛

 

 東京証券取引所第2部に上場するキノコ製造大手の雪国まいたけ(新潟県南魚沼市)の創業者・大株主と経営陣の対立は最終局面を迎えた。創業者側は新しい取締役を選出するために3月末までに臨時株主総会の開催を求めた。対して経営陣は投資ファンドの協力を得て、創業者の排除を実行した。会社乗っ取り劇のキーマンは銀行だった。

●経営陣と組んだ米投資ファンドがTOBを実施

 米投資ファンドのベインキャピタルは2月24日、雪国まいたけに対する株式公開買い付け(TOB)に踏み切った。TOB期間は4月6日まで、買い付け価格は1株当たり245円で、全株を取得する場合の買い付け総額は約95億円になる。

TOBが成立した場合、ベインが雪国まいたけを完全子会社とし、上場を廃止して経営再建を進めるとみられる。現経営陣の大半は、上場廃止後も残留し、数年後の再上場を目指す考えだ。

 TOBは、創業者の大株主とその一族を一掃するのが狙いだ。雪国まいたけは創業者の大平喜信・元社長ら創業家が議決権のある株式のうち67.33%を所有しており、同社は喜信氏を「支配株主」と公表してきた。普通に考えればTOBが成立する可能性はないが、銀行団が経営陣と米投資ファンドに全面的に協力したことでTOBが可能になった。

 メインバンクの第四銀行など複数の取引銀行が創業家に同社株を担保に融資していたが、業績悪化に伴う株価の下落で担保価値が減少。融資の返済が滞っていたことから、銀行団は2月23日付で担保権を行使して創業者の持ち株を取得、TOBに応じることを決定した。

 雪国まいたけの筆頭株主は喜信氏の資産管理会社、有限会社大平商事で32.25%。2位は喜信氏自身で20.04%。第四銀行は、この大平商事と喜信氏名義の株式を取得して筆頭株主になった。雪国まいたけの取引銀行6行がTOBに応じることでTOBの成立に最低限必要な51.44%を確保しているほか、実質第3位の大株主である大和ハウス工業(持ち株比率4.61%)も買い付けに応じることから、TOBが成立するのは確実だ。

 雪国まいたけの乗っ取り劇で決定的な役割を果たしたのが第四銀行だ。雪国まいたけは経営が破綻しているわけではない。15年3月期の売上高は前年同期比2.3%増の295億円、純利益は同37.3~33.6%減の8.5~9億円の見込み。減益決算ではあるが、債務超過ではない。それなのに、銀行が担保権を行使して株券を取り上げたのだ。 株価が下落して担保割れが生じている上場企業はゴマンとある。だからといって、担保として差し入れられた株式を巻き上げる銀行はない。普通は双方が合意した場合に担保権を行使する。その点からみても、第四銀行がやったことは極めて異例なケースだ。さまざまな裏の事情があるのだろうが、メインバンクとしての姿勢が問われよう。

●不正会計の内部告発で創業者は辞任

 喜信氏は立志伝中の人物だ。新潟県南魚沼郡六日町(現南魚沼市)の貧しい農家に生まれ、中学卒業後、職を転々とした後、実現は難しいといわれたまいたけの人工栽培に成功。1983年、35歳で雪国まいたけを創業した。雪国まいたけはコシヒカリと並んで南魚沼市で生産される農産物の2大ブランドとなった。

 雪国まいたけの経営が大混乱に陥るきっかけとなったのは、2013年6月。解任した取締役が金融庁や東京証券取引所、取引銀行に「会計処理に疑義がある」との内部告発を行ったことが発端だ。弁護士らで構成された社内調査委員会は総額14億円の不正会計処理があったとする報告書をまとめた。

 その責任を取り、創業家社長の喜信氏は同年11月5日に辞任。後任社長には、同年6月に社外取締役として招聘したばかりのイオン元執行役員の星名光男氏が緊急登板した。この会計処理については14年、金融庁から2250万円の課徴金を納めるよう求められた。

 新経営陣は13年11月、東京証券取引所に「創業家兼大株主の影響を受けないようにする」と明記した改善報告書を提出した。これを創業者外しと判断した喜信氏が逆襲に出た。

●放逐されたはずの創業者によるクーデター

 雪国まいたけが14年6月27日に開いた株主総会で、喜信氏によるクーデターが勃発した。会社提案の取締役人事案は、星名社長ら8人の取締役の再任だった。一方、喜信氏の実弟で大株主の大平安夫氏から、取締役選任の修正動議が出された。修正動議は星名社長を含む取締役8人のうち7人を入れ替えるものだった。

 会社提案の8人の取締役については、星名社長が賛成16.95%で否決されたほか、他の候補者も否決された。一方、修正動議は全員が74.51%の賛成で可決され、星名氏らは取締役を退任することになった。会社側提案と修正動議の双方で役員の候補だった栽培技術部長は就任を辞退し、結局、修正動議の6人が取締役に就いた。 会長兼社長には、元本田技研工業専務でNEW DEVICE代表取締役の鈴木克郎氏が就任した。東亜燃料工業(現東燃ゼネラル石油)社長、日本銀行政策委員会審議委員を務めた中原伸之氏、人工雪のベンチャー企業であるスノーヴァ(現GNU)元社長の大塚政尚氏が社外取締役に就いた。

●仕掛けた創業者側が返り討ち

 そして今回、創業者側と新経営陣が対立した。創業者側は14年11月25日、15年3月までに臨時株主総会を開催するよう請求し、取締役4人、監査役1人の追加・選任を求めたのだ。14年6月の株主総会で選任された取締役6人のうち5人が食品業界の出身者でないため、業務運営を熟知する人物が取締役会に参加すべきというのが理由だ。候補者の一人、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)出身で、自動車の内部の外装部品メーカー、イクヨ元社長の平川滋氏に経営監督機能を任せたいとの考えを示している。事実上、鈴木社長の権限を剥奪する人事案である。

 鈴木社長を筆頭とする経営陣は、創業者側の臨時株主総会の請求を、創業者一族を壊滅させる絶好のチャンスと捉えたようだ。経営陣と第四銀行、さらには、すかいらーくなどの企業再生で実績のあるベインが創業者追い落としでスクラムを組んだのだ。決め手になったのは、第四銀行が担保権を行使して、創業者の株式を取り上げたことだった。支配株主を無力化するためには、担保権行使という裏技しかなかったのかもしれない。

「社内の実情はドロドロ」と役員の一人は打ち明ける。「事件化する要素がある」と指摘する関係者もいる。今回のTOBの“黒幕”の存在も取り沙汰されている。自分の会社を乗っ取られた喜信氏が有名な弁護士を顧問にして、もう一度巻き返しに出るとの情報もある。どう転ぶか予断を許さない。
(文=編集部)

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