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Jリーグクラブの厳しい懐事情 黒字は少数、激しい収入格差…命運握るGM?

Jリーグクラブの厳しい懐事情 黒字は少数、激しい収入格差…命運握るGM?

 

 3月7日から新シーズンが始まる日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)。日本代表チームの不振や代表監督交代などサッカーの話題には事欠かない状態だが、各チームはキャンプや練習試合などをこなし、開幕前の戦力強化に余念がない。

 山梨県甲府市を本拠地とするヴァンフォーレ甲府(以下、VF甲府)もその1つだ。2008年10月から同クラブのゼネラルマネジャー(GM)を務めるのが、かつて大宮アルディージャで、監督、強化・育成部長を務めた佐久間悟氏だ。現在、ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ専務取締役を兼務する佐久間氏にGMの役割や戦力整備について聞いた。

●GMの役割

「日本サッカー界におけるGMの定義はいまだに明文化されていません。そのためクラブによって、トップチームの整備を中心とするケースや、経営に関わるケースなど、役割はさまざまです。私の場合は、経営陣の一角としてチーム整備やアカデミー(育成)の責任を任され、近年は行政や地域と連携してVF甲府や山梨県のブランドづくりにも携わっています」

 こう話す佐久間氏は、クラブ年間予算の約半分の事業執行権を持つ、チーム強化の最高責任者だ。チームづくりの仕事は常に発生する。昨年VF甲府は、Jリーグ1部(J1)で13位となり自力残留を果たした。06年にJ1初昇格を果たして以来、J1とJ2を行き来し続けてきたが、今季は初めて3年連続J1の舞台で戦う。

 だが、昨季終了後に城福浩監督が辞任を表明し、慌ただしいオフシーズンとなった。佐久間氏は急遽、後任監督の選定に動いた。日本人、外国人候補者の中から合意に達したのは、横浜F・マリノス前監督の樋口靖洋氏だった。

「戦力的に厳しいVF甲府がJ1残留を果たせたのは城福さんの力が大きいが『年齢を考えると次の道に進みたい』と決意は固く、辞任を受け入れました。新監督の選考基準としては、社会性、経験、実績、リーダーシップ、話題性、経費の6項目から総合的に判断しました。樋口さんは情熱的で人格者でもあります。14年元日の天皇杯では、マリノスに優勝ももたらしました。VF甲府のようなクラブでも、選手をその気にさせる優勝への憧れは重要です」

 実は樋口氏は、かつて佐久間氏が大宮アルディージャ監督退任後の07年に、後任監督として招聘した人物だ。樋口氏にとってJ1監督としての第一歩が大宮だった。もちろん、そんな情緒的な理由で選任したわけではない。地方クラブのVF甲府には現実的なチーム強化の視点が欠かせないからだ。樋口氏には、城福氏が強化した守備力(昨季の総失点数はリーグ2位タイ)を継続し、さらにマリノス監督時代に実践したボール奪取力を期待する。 VF甲府が本拠地を構える甲府市の人口は19万3437人(15年2月1日現在)、山梨県全体でも84万人弱にすぎない。大企業も少なく、常にスポンサー獲得に苦闘してきた歴史がある。かつてクラブ財政は破綻寸前で、筆頭株主だった山梨日日新聞グループの広告会社で常務を務めていた海野一幸氏が01年に社長に就任。同氏の画期的な取り組みで財政再建を果たし、経営を軌道に乗せた過去を持つ。

 そして、クラブ経営が安定した08年秋に「プロサッカーのチーム運営がわかり、クラブ経営もできるプロフェッショナル」(海野氏)として招聘されたのが佐久間氏だった。

●減収見通しの中、どう戦力を整えた?

 J1で戦う各クラブには「収入格差」がある。14年7月に発表されたJリーグの開示資料によると、13年度の営業収入は、1位が浦和レッズの57億8600万円、2位は横浜F・マリノスの43億1500万円、3位が名古屋グランパスの42億2600万円だ。これに対して、VF甲府は18クラブ中16位で14億8100万円だった。

 J1とJ2では注目度も違い、広告料の単価も異なる。同年度の平均営業収入はJ1クラブが30億7800万円、J2クラブが同10億9000万円と、こちらは約3倍の格差である。J1に残留したVF甲府だが、今季の営業収入は昨季よりも減収見通しだ。

「主な理由は、大口スポンサー企業が1社降りられたことと、観客動員数が多い国立競技場での試合がないことです。本拠地である山梨中銀スタジアム(通称「小瀬」)の観客動員数も微減となっています」(佐久間氏)

 特定の親会社や有力大企業をスポンサーに持たないVF甲府は、多彩な販促活動で集めた予算内でチーム戦力を整えてきた。例えば小口広告の名物にウチワがある。観戦チケット2枚つきの1口6万2000円で300本作成し、表面に選手の写真が、裏面に会社や店の広告が入る。これには協力してくれるスポンサーも多いという。

 経営に関しては海野氏の手腕が大きいが、Jリーグクラブの決算が公開された05年以降、9年続けて黒字なのはVF甲府と川崎フロンターレの2クラブだけだ。チーム戦力の強化費用も「カネがなければ知恵を出せ」で切り盛りする。

 そんな状況でJリーグを戦い、「結果責任と説明責任」を問われるのがGMの宿命だ。「今季の最低限目標はJ1残留。昨季は1試合平均0.9点だった得点力を1.3点に上げて、成績を中位にしたい」と語る佐久間氏。外国人選手の年棒総額は昨季より35%減にして若返りを進めた。やむを得ず移籍となった日本人選手もいる。その狙いをこう説明する。「外国人はマルキーニョスパラナ(37歳)とジウシーニョ(30歳)が契約満了で退団。クリスティアーノ(28歳)が柏レイソルに期限付き移籍し、ブラジルのECヴィトーリアからエンリケ(22歳)、SEパルメイラスからジバウ(20歳)を、J2の徳島ヴォルティスからアドリアーノ(33歳)を獲得しました。若い2人は伸び代も期待できます。活躍次第では、かつて獲得したバレーやダヴィのように強豪チームに引き抜かれるかもしれません。3人入れ替えたのはリスクですが、樋口監督と相談の上、J1を知るアドリアーノを獲得したのです」

 また、守備の主力だった佐々木翔選手もサンフレッチェ広島に移籍した。

「戦力的には痛いが、契約期間が残っていたので移籍金(推定4500万円)も入ってきます。ビジネス論理だけで動きたくはないが、ロマンを掲げながらソロバンも弾く現実的な選択をしました」(同)

●地域との共生を深掘り

 VF甲府は「『一体』-プロヴィンチアの挑戦-」を今季のチームスローガンに掲げる。以前から掲げ続ける「プロヴィンチア」は、一般的には耳慣れない言葉だがイタリア語で大都会や大資本のクラブに対抗する「地方クラブ」のこと。15年シーズンで強調する「一体」には、チームの一体感やサポーターが作りだす本拠地スタジアムの一体感を込めた。

 昨季の1試合平均観客入場者数は1万2171人。国立競技場開催分も含むが、本拠地の「小瀬」の収容人数は1万7000人(試合開催時)なので、地元サポーターの支持は高いといえる。「祖父母からお孫さんまで、三世代観戦が他のスタジアムに比べて多い」(佐久間氏)という。

 ただし、前述した観客数の微減は「高齢世代が足を運ぶ総数が減ってきたこと」だという。魅力的なサッカーで、どう幅広い世代を集客するかが今季の課題でもある。

 監督としてもGMとしても「理想」を掲げながら、「現実」を見据えて舵取りをするのが佐久間氏の手法だ。大宮退団を表明した08年秋、同氏にはJ1やJ2のチームがGMとして、そしてJリーグ事務局からは育成世代の責任者として多数のオファーがあった。その中でVF甲府を選び挑戦を続けてきたのは、本人のこだわりからだ。

「日本版のアスレティック・ビルバオを目指しているのです」と佐久間氏は説明する。アスレティック・ビルバオとは、リーガ・エスパニョーラ(スペイン1部リーグ)の古豪で、選手は本拠地のあるバスク出身者で構成されている。VF甲府はスポーツ強豪校である山梨学院大学と提携、10年に全国高校サッカー選手権優勝を果たした同大学付属高校とも協力関係を築き、地元有望選手の発掘や育成にも注力する。サッカーを軸に地域を再活性させれば、「挑戦」の先に掲げる究極の目標「プロヴィンチアの象徴」が見えてくる。

 経営資源である「ヒト、モノ、カネ」が限られた中で工夫して結果を出す姿勢は、多くの管理職の仕事に共通するだろう。ただし、現役時代の佐久間氏はスター選手ではなかった。次回は、本人の経歴も紹介しながらGMに求められる資質を分析していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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