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「はじめは女の子目当てだった」

「はじめは女の子目当てだった」  

 1月16日、都立中央図書館で、コラムニストの泉麻人さんによる講演会が開催された。「『東京』散歩学~東京の魅力を探る~」と題された今回の講演会には、定員をはるかに上回るおよそ740人の応募があり、当初100名を予定していた定員は150名に増員。抽選で選ばれた参加者は若い世代から熟年層までと幅広く、スライドを使いながらユニークな視点で東京の風景を語る泉さんの話に聞き入っていた。

都立中央図書館を訪ねたのは女の子目当て?

 「高校生のとき、東京女学館のかわいい女の子が来るというので、この図書館を訪ねたことがありますね」。都立中央図書館の思い出(?)を、そう語り始めた泉さん。都立中央図書館が開館したのは1973(昭和48)年、泉さんは高校2年生だったという。

 2005年には、気象予報士の資格を取得した泉さん。活動の幅をさらに広げている

 泉さんは、1956(昭和31)年東京生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、東京ニュース通信社に入社し、週刊『TVガイド』などの編集者を経て、フリーコラムニストになった。『東京23区物語』『東京検定』など数多くの書籍を著し、独特な切り口で東京を語ってきた泉さんは、「街歩き」の先駆者的存在。新聞、雑誌での執筆だけでなく、テレビなどでのコメンテーターとしても活躍してきた。ある世代にとっては、『テレビ探偵団』の「わたしだけが知っている」が強烈に記憶されているはず。

 都立中央図書館のある広尾近辺は、昭和40年代初め、いとこが近くに住んでいたため訪ねたことがあったという泉さん。ミンミンゼミの鳴き声と、道路の横を走る田舎のローカル電車を思わせる都電が印象に残っていると思い出を語った。

少年時代は「バスマニア」だった??

 下落合(現、中落合)出身の泉さん。子どもの頃から地図が好きで、近所を走っていたバス路線にも興味を持っていた。バスに乗ると停留所を書き出すことに熱中したという。自転車に乗れるようになると、バス路線の「研究」にも出かけた。

 スライドに映し出されるのは、何気ないけれど、よく見ると味わい深かったり、おもしろかったりするものばかり

 地方や海外などへ旅行したときなども、「名所だけではなく、ホテルのまわりをこまめに歩くとおもしろいですね」と泉さん。「そのエリアが自分のものになった感じがして、名所よりも旅の印象に残ることもあります」

 「そのうち自分なりのバス路線をつくっていくわけです。自転車をバスに見立てて。で、山崎さんの家があったら『山崎台』とか、原っぱの近くは『野原町』などと停留所を考えて、遊びに行くときとかは停留所にちょっと止まって(運転手風に)『山崎台~』って言ってみたり……。もちろん、ひとりのときだけの楽しみですけど」

 その後、小学校の高学年には、中学受験のため進学教室に通うようになった。教室は茗荷谷の拓殖大学で開かれていたので、地下鉄に乗って教室に行き、趣味の切手集めのために中央郵便局や逓信総合博物館、そして交通博物館、神保町を巡るのが定番のコースとなったという。古本屋が好きで、半ズボン姿で神田を歩いていたというから、少しマセた小学生だったようだ。

「ちゃんぽん」が人気の飲み物だった店

 スライドを使った講演は、その神田界隈から始まった。有名な「ミルクホール」のレトロな建物が映し出される。牛乳を販売する「ミルクホール」は、明治40年代頃から流行し、あちらこちらに点在していた。牛乳はいわば当時のトレンド。その後、女給をウリにする店も登場する。

 「ちゃんぽん」が人気だったという桃乳舎。建物もじっくり眺めたくなる趣がある

 喫茶店探訪シリーズも手がけたことのある泉さんは、日本橋小網町にある「桃乳舎」を紹介した。人形町のはずれで牛乳を販売してきた店で、「昭和30年代からは『ちゃんぽん』が人気だったそうです。これは何かと言うと、ミルクコーヒーなんですね」。

 北千住にある「ムービー」という喫茶店は、映画のタイトルを店名にしていたがクレームがついて今の店名になったというウワサがあった。ところが実際は、映画館の中の喫茶店で働いていた店主が、そのイメージでつけた名前だと判明した。喫茶店ひとつを取り上げても、いろいろな歴史話やエピソードが出てくるものだ。

ドラマの舞台を歩いてみる

 街歩きでは、映画やドラマの舞台を歩いてみるのもおもしろいと泉さん。佃島を例に挙げたが、隅田川を挟んだ対岸の湊は『吹けよ春風』(1953年)に登場する場所として印象に残っていると話した。これは谷口千吉と黒澤明が脚本、谷口千吉が監督の作品。主人公の三船敏郎がタクシーの運転手で、当時の東京が描かれている。「いわば日本版『タクシードライバー』ですかね」。

 北千住を訪ねたときは必ずチェックするという駅前通りの大橋眼科。城館のような洋風建築が印象的だ

 それから佃島が舞台なのが、テレビドラマの『パパと呼ばないで』(1972~73)。「(主人公の)石立鉄男の『だめじゃないか、チー坊』というモノマネで有名なドラマですね」。ちなみに「チー坊」が杉田かおるということを知らない人、このモノマネがまったくわからない若い方は、ぜひ検索を。最近はDVDのレンタルもされている。

 「ドラマの舞台を推理して歩くのも楽しいものです」。泉さんはそんな街歩きも提案した。

マニアックな「銀座、ビルの狭間歩き」

 泉さん独特の散歩法として挙げられたのは、銀座のビルの間を歩く、というもの。「広い表通りを歩くのももちろん好きですが、ビルの間には小さなお稲荷さんがあって、それを訪ねてみるのもいいですね。『ビル狭間歩き』というマニアックな楽しみ方です」。

 銀座とは思えないシネパトスの佇まい。「銀座のブラックホール的な場所」と泉さん

 佃島にある駄菓子屋に集まる子どもたち。今も、懐かしい昭和の風景がそのまま残っている

 スライドには狭い路地の入り口に「豊岩稲荷」の碑が。本当にこの奥にお稲荷さんがあるのか、と疑ってしまうほどの場所だ。銀座の知らなかった一面が、こんなところにさりげなくあったことに会場からも笑い声や驚いたような声が聞こえてくる。

 銀座7丁目にある豊岩稲荷の碑。銀座の路地巡りは、知る人ぞ知る究極の街歩きだ

 その後も青梅や八王子などの多摩地方、そして都立中央図書館近辺の港区など、街歩きの話は尽きることがないまま時間となった。泉さんの話は何時間でも聞いていたいと思えたが、それは参加者も同じことだっただろう。泉さんの目を通した東京の魅力は、数多くの泉さんの著書で続きを楽しむことにした。

 青梅はレトロな看板を町中に掲げていることでも知られている。赤塚不二夫会館も大人気のスポット

 八王子の甲州街道沿いにも古い建物が点在している。週末などにゆっくり散策してみてはいかが

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