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出張中に行ける勝手気ままな私的世界遺産の旅 (24) アメリカ・ヨセミテ国立公園で自然の驚異を思い知る(後編)

出張中に行ける勝手気ままな私的世界遺産の旅 (24) アメリカ・ヨセミテ国立公園で自然の驚異を思い知る(後編) 

 「吹雪のヨセミテ日帰り強行ツアー」から約1年半後の8月、ふたたびサンフランシスコに行くことになった。サンフランシスコ行きが決定したのは、出発の1カ月ほど前。早速スケジュールを調整し、今度は泊まりがけでヨセミテに行こうと思ったのだが、ヨセミテの宿、すでに満室で予約がとれない。かろうじて空いていたのは、一泊600ドルぐらいのスイートか、国立公園から車で1時間以上かかる公園外のモーテルのみ。僕はヨセミテ内で泊まりたかったので公園外は却下、だからといって一泊600ドルは、しがないサラリーマンにとって予算オーバーである。かくして、今回も前回同様、バスで10時間、現地滞在2時間という”100ドル弾丸ツアー”でヨセミテに向かうことにした。

 前回同様、朝7時頃にサンフランシスコの宿泊先を出発したバスは、延々と続くカリフォルニアの田舎を突っ走る。だが、前回とは明らかに異なっていることがある。なんといっても、この日の天気は快晴! 車窓を見ているだけでも、ウキウキするような天気なのである。これはスタートから幸先がいい。

 絵に描いたような青い空が続く中、カリフォルニア郊外をバスで走り続ける。カリフォルニアの青い空を実感できる。ん~、ものすごく暑いけど、ものすごーく気分が良い

 バスを2時間ほど走らせたところで、トイレ休憩。これ、前回も同じである。うんうん、さすがに2回目ともなると旅程はわかっているし、この青い空を見れば、何も不安は感じない。さて、トイレを済ませて、土産物店でサンドイッチとコーヒーを買って、いざヨセミテに向けて出発! ……のはずなのだが、どうも様子がおかしい。で、ガイドさんいわく「運転手さんが暑さのせいで、気分が悪くなってしまったので、もうしばらく休憩します」。えっ……。

 サンフランシスコは沖を流れる海流のおかげで、夏でも涼しく、年中秋みたいな気候の土地だ。だが、もともと超乾燥地帯なので、少し内陸に入ると、夏の気温は一気に35度ぐらいまで上がる。それでいて湿度はものすごく低い。どうやら運転手さん、熱中症になってしまったそうだ(僕は二日酔いではないかと疑っているのだが……真相は不明)。

 もともとこの辺りは超乾燥地帯。サンフランシスコやこの辺りの畑にある豊富な水は、何百キロも離れた山脈からパイプラインで引いている。だから、遠くの山を見ると、まったく植物が生えていない

 土産店の軒先で、ボーっと運転手さんの体調回復を待つ。ヨセミテが遠い。果たして今回もヨセミテの景色を拝むことはできないのか。暑さもあって、もういい加減、嫌になってきた

 結局、運転手さんの体調は回復せず、急きょサンフランシスコから代替の運転手さんが来ることに。待つこと2時間半ぐらい、ようやく代わりの運転手さんが到着! ヨセミテに向かって出発した。

 いろいろあったけど、さらに車を走らせること2時間ほど、予定よりかなり遅くなったけれど、ヨセミテバレーに到着。前回は何も見えなかったヨセミテバレー。一度来たとはいえ、まったくそんなデジャヴな気分などではなく(ま、当然ですね、前回は何も見えなかった)、初めて見る景色にかなり興奮気味。針葉樹が立ち並ぶ森を抜け、急斜面の山道を登ったところが(前回は凍結でこの坂を上れなかった)、第一の観光ポイント「トンネルビュー」である。

 ヨセミテバレーを一望できる「トンネルビュー」。左が1000メートルを越える一枚岩「エルキャピタン」。右に小さく見える滝が「ブライダルベール・フォール」、そして中央あたりに小さく見えるのが「ハーフドーム」

 この雄大な景色を何度夢見たことか。なお、ヨセミテ国立公園は、東京都の約1.5倍という広大な公園。その中で、観光の中心となるのがヨセミテバレーである

 ヨセミテバレーは、白い花崗岩の地形が氷河に削り取られてできた1000メートル以上の深さの谷である。見どころは、青い空と侵食でできた岩、そして、雪解け水が流れ落ちる滝と豊かな自然である。また、こうした特有の地形のせいで、植物、動物とも固有種が多く、100種類以上の珍しい植物、200種類以上の動物を見ることもできる。こうした目的に合わせて、数日、あるいは数週間滞在するのが、本来のヨセミテの楽しみ方らしい。

 と、見どころ満載のヨセミテであるが、そんなことをいっても、今回の僕は日帰りツアーなのである。トンネルビューの景色をゆっくり眺める暇もなく、移動移動である。何しろ滞在時間は2時間しかない。しかも、途中のアクシデントのおかげで、時間はかなりおしている。

 トンネルビューから坂を下って、ヨセミテバレー内を移動。バスを路肩に止めて5分ほどブライダルベール・フォールを鑑賞。2時間しかないので、かなり焦ってはいるが、とにかく左を見ても右を見ても絶景

 ブライダルベール・フォールは、夏は水が涸れていることが多いようだが、この年はかろうじて流れていた。なお、水量の多い滝が見たければ、5月頃に訪れるのがいいそうだ

 雪解け水が流れるマーセド川にかかるセンチネル・ブリッジ。マーセド川の向こうには球体を半分に割ったようなハーフドームが見える

 これがハーフドーム。写真だと近く感じるかもしれないが、実はここから数キロ離れている。本当にヨセミテの景色は広大だ。時間があればハーフドームに登って、上から見る景色もいいらしい

 さて、ずいぶんと予定から遅れてしまったのだが、今回も昼食はヨセミテロッジでとることに。だが、たった2時間の滞在時間を昼食で潰すのはもったいない。何しろこの後、また5時間ほどバスに乗るのだから、食事はその時にとればいい。というわけで、集合時間を確認したらツアーの皆様とは離れて、僕は一人でロッジの回りを散策してみた。

 ヨセミテロッジから歩いていけるヨセミテ・フォール。前回と同じところから撮ってみた。当たり前だが、冬と夏ではまったく表情が異なる

 雪解けで水が涸れてしまう8月だけに、滝を落ちる水は少ない。滝の勢いなら、前回の真冬のほうが良かったが、震えながら見ていた前回と違って、僕の気分はすこぶるいい

 さらにロッジの回りをうろうろ。水遊びしている人たちがいた。そういえば、前回は雪で危険なので、こんなところまで来ることもできなかった

 ところで、この日のヨセミテバレーの気温は40度近くになっている。にもかかわらず、湿度は極めて低い。ものすごく気持ち良い天気なのだが、湿度が低過ぎて、汗をかいてもすぐに乾燥してしまう。なので、熱中症対策、脱水対策は必須だ。水をガンガン補給するのはもちろんだが、それだけでは足りない。マーセド川の水は非常に澄んでいるので、マーセド川の水でタオルを濡らし、絞らずに濡れたままで首筋に巻き付ける。当然、服まで濡れてしまうが、10分後には乾いている。とにかく、夏のヨセミテは、暑さ対策を万全にしておこう。それにしても、半年前とのギャップがすごい。

 あっという間にランチタイムが終了。ふたたび観光ポイントをバスで回りながら、サンフランシスコへ向かい、帰路に着く。あ~、やはり泊まりがけで来るんだったな~なんて思いながらも、とにかく限られた時間を存分に楽しむことにする。

 正面に見える岩が、1000メートルを越える高さの一枚岩エルキャピタン。マーセド川の澄んだ水、美しい緑の木々、真っ青な空、白い岩、ヨセミテの広大な景色は、ただ眺めているだけでも感動する

 別の角度から見たエルキャピタン。エルキャピタンは、ロッククライミングしている人も多いそうだ。ちなみに、登り切るには2、3日かかるという

 望遠レンズでさらにぐぐっとエルキャピタンに寄ってみる。ガイドさんは、たくさんロッククライミングしている人がいるというのだが、人の姿なんて見えない

 上の画像を拡大してよく見てみると、ヘンな点が写っている。なんとこれ、ロッククライミングしている人だそうだ。エルキャピタンがとんでもない大きさだということがわかる

 と、こんな感じで、たった2時間の夏のヨセミテ日帰りツアーはあっという間に終わった。氷点下の冬の寒さ、40度を超える夏の暑さ、この特有の気候がヨセミテの素晴らしい景観を生み出したのだろう。僕は、真冬と真夏に訪れたわけだが、春は雪解け水でできた滝や川の流れが素晴らしく、秋は紅葉が見事ということだ。また、冬だって、晴れた日には、日差しに雪が輝く景色は、ものすごく美しいらしい。

 一度行けば二度、二度行くと三度と、何度でも行ってみたくなるのがヨセミテ。今度は、アメリカ人のように数日、あるいは数週間のバカンスがとれる身分になって、じっくりヨセミテを訪れてみたい。

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上原健二
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