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日帰りで楽しむロンドン郊外の街 (4) 中世の面影を残す英国国教会の中心地
カンタベリーはロンドン(ヴィクトリア駅)から電車で1時間半ほどのところに位置し、ロンドンのヴィクトリア・コーチ駅から発着しているコーチでも約2時間の距離で行くことができます。
カンタベリーは川と城壁にぐるりと囲まれた、中世都市の面影を色濃く残す街。英文学に詳しい方は英国が生んだ偉大な文学者、ジェフリー・チョーサー代表作の『カンタベリー物語』でよくご存知かもしれませんね。私にとっても、イギリスに来て最初に電車に乗って訪れた街ということで、大変思い出深い街の1つです。
キリスト教布教のためにローマから派遣された、聖アウグスティヌスがイングランドの布教の拠点としたのが、ここカンタベリー。601年に聖アウグスティヌスがカンタベリー大聖堂の初代カンタベリー大司教となって以来、カンタベリーは英国国教会の中心地として知られるようになりました。カンタベリーは、大聖堂のいわゆる「門前町」として発展してきた街なのです。
カンタベリー東駅(Canterbury East Station)からキャッスル・ストリート(Castle St.)、マーガレッツ・ストリート(Margaret’s St.)と歩くと、クライストチャーチ・ゲート(Christchurch Gate)越しにカンタベリー大聖堂(Canterbury Cathedral)が見えてきます。カンタベリー大聖堂は、英国国教会の総本山であると同時に、大司教トーマス・ベケット(イングランド国王との不和が原因で暗殺された歴代カンタベリー大司教)が殉教の場所としたことから、聖地としてイギリス全土から多くの巡礼者を迎えてきました。またヘンリー8世によってイギリス国教会が組織されてから、その総本山とされてきた大聖堂は「天国の門」と形容され、1988年に世界遺産にも登録されています。
青空に映える、荘厳なカンタベリー大聖堂
カンタベリーへの巡礼者の様子は、冒頭で述べたチョーサーの『カンタベリー物語』に描かれています。身分も職業も違う巡礼者たちが、ロンドンからカンタベリーへの巡礼に向かう道中でそれぞれ面白い話を披露するというお話です。カンタベリー巡礼は巡礼の目的以外に「各地に宿を建て、美酒をもたらし、旅行の楽しみを生み出した」とも言われます。
カンタベリー大聖堂の周辺
カンタベリー大聖堂の規模と絢爛豪華さには目を奪われるものがあります。大聖堂の中央にあるのは、15世紀に建てられたイングランド最古のレンガ造りの建造物、ベル・タワーです。カンタベリー大聖堂にはベケットを祀る廟や、彼の生涯と死後の奇跡を描いた壮麗なステンドグラスも見逃せません。また大聖堂の地下室には、ベケットのほか、フランスとの百年戦争でイングランドの英雄と称えられた、ウェセックス伯爵エドワード王子も眠っています。
カンタベリー大聖堂を堪能したら、のんびりと街を散策してみましょう。カンタベリーの街はこぢんまりとしているわりに、博物館や美術館などの見所が意外と多いです。まずは、カンタベリー大聖堂から城壁を抜けて、聖アウグスティヌス修道院跡(St.Augustine’s Abbey)へ。聖アウグスティヌスが大聖堂とともに作った修道院の跡です。今は、正門だけが形を残すばかりで廃墟となっていますが、当時の裕福だったベネディクト派修道士たちの暮らしぶりが窺えます。
カンタベリーの街をとり囲む歴史ある城壁
聖アウグスティヌス修道院跡からは、街のメイン・ストリートである、ハイ・ストリート(High Street)に沿って、その周辺の見所を探索してください。ケント州の中心都市でもあるカンタベリーは、ショッピング・センター、個性的なショップ、レストラン、カフェも多くあります。また、街中では、テューダー様式(黒い木組みと白い壁が特徴)の家がよく見られ、古い歴史を再確認することでしょう。
ローマ人の当時の生活の様子が垣間見られる、ローマ博物館
ハイ・ストリート沿い周辺には、『カンタベリー物語』の舞台を人形で再現した博物館のカンタベリー物語館(The Canterbury Tales)、エリザベス1世の時代にフランダース地方からの移住者が織物工場として使っていた織物師の家(The Old Weaver’s House)、カンタベリーの歴史を辿ることのできるカンタベリー・ヘリテージ博物館(Canterbury’s Heritage Museum of The City)などがあります。そのほかにもローマ博物館(Roman Museum)、王立博物館&美術館(Royal Museum & Art Gallery)など見所が目白押し。とても1日で全ては見切れないので、気になるものをいくつかチョイスして回るのがいいでしょう。
ハイ・ストリートの様子。街のあちこちでテューダー様式の建物が見られる
カンタベリーの街。趣のある建築物が多い
なかでも私のオススメは、「リトルベニス」と呼ばれる水路とウエストゲート博物館周辺。カンタベリーのリトルベニスは、ウエストゲートのすぐ側を流れています。ロンドンのリトルベニスとは比べ物にならないくらいの長閑さと美しさに感激することでしょう。観光に疲れたらここで景色を眺めて小休止もおすすめです。
カンタベリーのリトルベニス。麗らかな春の様子
リトルベニス。ここにもテューダー様式の家々が立ち並ぶ
ウエストゲートは、ハイ・ストリートのちょうど突き当たりにあり、当時城壁とともに造られた8つのゲートのうち、唯一形を残しているゲート。15世紀以降は牢獄として使われていたという生々しい歴史もありますが、現在は博物館として武器などを展示しています。
カンタベリーのあるケント州は、肥沃な大地を誇り、昔から「イングランドの庭」と呼ばれる美しいカントリーサイドが楽しめます。カンタベリーから海に面するドーバーまでは20分程度とすぐ行くことができます。なので、ロンドンからドーバーまで向かい、ドーバー海峡を見たあとにカンタベリーの街へ寄り、ロンドンへ再び戻るというような欲張りな旅も可能ですよ! さて、次は、湖水地方と並んで一度は訪れてみたい、美しい村が点在するコッツウォルズ地方へ足を伸ばします。