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<保護観察制度>負担大、保護司なり手なく 川崎の2人も
川崎市川崎区の多摩川河川敷で同区の中学1年、上村(うえむら)遼太さん(13)が殺害された事件で、殺人と傷害致死の非行内容で家裁送致された17~18歳の3人のうち2人は、別の事案に関与したとして保護観察中だった。少年らには近くに住む保護司が面接をしていたとみられるが、事件は防げなかった。非行や事件に関わった少年らを社会生活の中で更生させる「保護観察制度」。川崎の事件はその現実や課題を改めて浮かび上がらせている。
【殺人で18歳、17歳2人は傷害致死】少年事件の主な手続きの図解も
「辞めたいと思ったことは何度もある」
そう話すのは、川崎市内の50代の男性保護司だ。数年前、順調な更生だと信じていた担当の少年が保護観察の満期直前に再犯し、少年院に送られたときのことだ。「なぜ防げなかったのか」。自分を責め眠れない日もあったが、守秘義務から家族にも相談できなかった。
現在も少年や成人を受け持ち、面接で聞き取った生活や出来事を報告書にまとめて月に1度、地域の保護観察所の保護観察官あてに送付する。観察官が現場に出向くことはまれで、対応は基本的に保護司任せだ。「24時間監視できるわけではないし、受け持ちの人数も多い。無事に満期を迎えるまではいつも不安だ」という。
保護司は非常勤の国家公務員だが、交通費など実費以外は無給のボランティアで、なり手不足は深刻だ。法務省によると2000年以降では04年の4万9389人をピークに減少傾向で、15年は4万7872人と過去15年間で約1500人減った。保護司法が定める定員5万2500人との差は広がるばかりで、平均年齢も04年の63.3歳に対し、15年は64.7歳まで上昇した。
一方、常勤の国家公務員の保護観察官は1000人程度。毎年4万人を超える新たな保護観察対象者が出ており、観察官を31年務めた日本福祉大の木村隆夫教授は「保護司にこれほど大きな負担を背負わせるのは酷。観察官の拡充と保護司への支援をすべきだ」と訴える。
木村教授は、非行少年について「更生と非行の境界を(両脇から)綱で引かれながら歩いている」と表現。「罰則やルールを強化しても止められない。保護司や観察官が連携し、面接を重ねて信頼関係を築き、『心の鎖』でつなぎとめることが大事だ」と指摘する。
少年対象の更生保護施設として、保護観察中の少年らの立ち直りを支援している福岡県のNPO「田川ふれ愛義塾(TFG)」。工藤良理事長(37)は元暴走族総長で、中2から20歳まで保護観察を受けていた。「保護司や観察官は何度も本気で叱ってくれた。『この人たちを裏切ったらだめだ』との気持ちが芽生えた」という。
また、TFGでは25人の高校生を受け入れているが、全国103の更生保護施設のうち同様の少年専用施設は他に2施設だけだ。工藤理事長は「訳ありの大人が集まる共用施設に少年を放り込むのは更生上のリスクが高い。行き場のない少年らを迎え入れる受け皿がもっと必要」と話す。【斎川瞳】
【ことば】保護観察
非行少年や刑務所の仮釈放者、少年院の仮退院者、保護観察付きの執行猶予判決確定者らが法務省の地方機関である保護観察所(全国50カ所)の指導監督の下で社会生活を送りながら更生を図る制度。更生保護法に基づき保護観察官や法相から委託された保護司が定期的に面接し、必要な指導を行う。
◇「時間がない」断る理由最多
法務省保護局が2012年6月、全国の地区保護司会の会長(886人)を対象に行ったアンケート調査(速報値)によれば、回答があった762人のうち、保護司を依頼して断られた経験がある割合は83%。理由(三つまで選択可)は「忙しく、時間的余裕がない」が最多だった。
経験年数6年以内の保護司(回答者589人)への別調査では4割以上が「辞めたいと思ったことがある」と答えた。