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自動車の運転に学ぶ「ビジネスリスク管理」の基本
■企業における「アクセル」と「ブレーキ」
ビジネスにおけるリスクは日常的に存在し、避けて通ることはできません。よって、私たちが求められているのは、リスクを理解し管理することで、お客さまやその他のステークホルダーにとって適切な形で常にビジネスを行うことです。
これは特に、信頼に基づく生命保険ビジネスでは重要なことです。信頼は、人と人の関わりから生まれるものですので、保険会社は強固なコンプライアンス文化と概念を持つことが必要です。日本で、私はよくコンプライアンスについて「車とのたとえ」を耳にします。これは、企業活動におけるリスクとコンプライアンスの管理方法のモデルとなっています。
この考え方では、営業活動は車の「アクセル」とされ、その唯一の責務は商品等の販売、売り上げです。コンプライアンス部門は「ブレーキ」とされ、リスクを監視し、間違いや不適切な販売の発生を防ぐことがその責務です。この分業により、理論的には、リスクの管理が可能となり、「車」を安全に目的地まで運転すること、つまりお客さまとの信頼を構築し会社の評判を高めることができるということです。
しかし実際には、この方法で車が運転されることはありません。アクセルやブレーキのみの操作では、車は事故を起こしてしまうか、目的地にはたどり着けないからです。優良なドライバーは両方のペダルを巧みに使い分け、交通ルールを熟知し、道路状況に常に注意を払っています。
ビジネス上のリスク管理にも同じことが当てはまります。メットライフには、日本国内に800万人以上のお客さまがおり、全世界では1億人以上にものぼります。コンプライアンスの規則は、交通規則と同様、当然のことながら広範に渡りますが、あらゆる不測の事態を網羅することができるわけではありせん。私たちは社員にお客さまからの信頼と会社の評判やブランドを守ること、リスクの検知と管理に注意を払い、最悪の事態を避ける行動をとる事を求めています。
■全社員が会社の評判とブランドを担う
世界中の生命保険業界で、現在「適合性の原則」に大きな焦点が当てられています。この「適合性」は、私たちが販売する商品がお客さまのニーズ、経済状況、リスク許容度、知識、経験に見合ったものであるかを確実にすることに関わるものです。
日本では少子高齢化など経済・社会の変化が進み、将来に不安を感じる人が増えています。国庫の財政状況の悪化によって医療や年金といった公的社会保障だけに頼れない状況に陥り、国民一人ひとりが自助努力を求められる時代です。…こうした中で、私たちは信頼される人生の案内役として、お客さまが人生の「もっと」をかなえる応援をしていく使命を担っています。その期待に応えるためにも、私たちはより良いコンプライアンスとリスクマネジメントを必要としています。
メットライフでは、全ての社員が会社の評判とブランドを担っています。つまり、社員はアクセルとブレーキの両方を操作できなければならず、これは営業にも内勤や管理部門にも自らが生み出すリスクを理解し、それらのリスクを管理し、最終的にはお客さまの信頼を守るために自ら判断をすることを求めています。
この考え方を反映して、メットライフのグローバル・コンプライアンス・モデルは、高いレベルでの理解と責任感を持つことを社員に求めるいくつかの「防衛線」に基づいて策定されています。第一の防衛線として営業やオペレーション等の現業の社員は自らの日々の活動が生み出すリスクを管理する責任を持ちます。コンプライアンス部門が主たる第二の防衛線であり、リスク発生の防止とともに監督と諮問機能をもち、社員に交通規則の理解を促し、適切な運転免許を持って業務を遂行することを支援します。
コンプライアンス部門のメンバーも、アクセルの操作について熟知しなければなりません。つまり、双方が強固な協力関係を形成して、ビジネスがどのように行われるかを理解し、お客さまとの契約のための規則と手順や日々の業務のルールをできるだけ簡素な形で作成することに努めるのです。この取り組みを日本の実務の中でフルに稼動させ、機能させるにはまだ相当な努力が必要と考えています。
■信号機の「レッド、グリーン、イエロー」
社員に、「適合性」のようなリスクを理解し当事者としての認識を常に持ってもらうために、私たちは、コンプライアンス・リスク・マネージメント・プログラムを展開しています。これには、私が、現場でのリスク管理の実態により適していると考える、冒頭で紹介したものとは違う、もう一つの「車とのたとえ」を使用します。
このプログラムでは、たとえば営業活動の進行を、レッド、グリーン、イエローの「交通信号」に見立てたリスク・プロファイルによって分類します。多くの販売計画はグリーンつまり「進め」で、これらは、低リスク状態で、商品のお客さまへの適合性は、明らかに疑いのないものです。
一方、例えば高齢のお客さまへの投資的な商品の販売というような一部の販売計画はレッドつまり「止まれ」です。…販売エラーのリスクは高く、販売を停止し、詳細に調査し、お客さまに適した商品を販売していることを確実にするという厳しい社内規則があり、販売が適したものであるという絶対的な確信がある場合のみ、信号はグリーンとなり、販売を進めることは安全であると判断します。
イエローつまり黄色信号は、皆さんも「スピードを上げて走り抜けろ」と常に解釈しているドライバーに遭遇したことがあるでしょう。でも実際は、イエローはドライバーに「止まったほうが安全ならば止まれ」という判断を委ねているのです。運転中、私たちはこうした判断を、交通規則の知識と、スピード、交差点からの距離、道路状況といったものを見極めて、素早く瞬時に下しています。
交通信号がイエローの時と同様に、保険商品の販売では、状況に応じて、社員が常に注意を払い、販売が適切かどうかを判断することが求められます。たとえば、当社では会社として「適合性の原則」を守る観点から資産、収入等の財産の状況のガイドラインを持っています。但し、お客さまが特定の商品を契約し継続できる金銭的な余裕があるかの判断は現場の社員にしか務まりません。もし、疑わしいことがあれば、社員はコンプライアンス部門にアドバイスを求めます。
同様に、保険会社は保険募集においては、お客さまに必ず説明をしなければならないことが法令等により定められています。保険商品は目に見えない無形の商品であるため、お客さまには保険商品の内容を十分に説明し正しく理解していただく事が重要です。この場合も、お客さまが契約しようとしている内容を本当に理解しているか、あるいは、更なる説明が必要か否かの判断はお客様と接している社員にしかわかりません。
車を運転するように、ビジネス上のリスクマネジメントを効果的にするには個々の社員に頼ることになります。社員がこうしたビジネス上のリスクがどういった場合に起こりやすいか、またどのように管理するかを理解できるようにすることは、社員が当社のビジネスの基盤であるお客さまからの信頼を守ることの助力となります。そのためにも、確固たるモデルの中で継続して取り組んでいく必要があると思っています。
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メットライフ生命保険株式会社 代表執行役 会長 社長 最高経営責任者
サシン・N・シャー
1967年生まれ、米国出身。米国スティーブンス・インスティテュート・オブ・テクノロジー卒。99年メットライフ入社。2011年アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニーリージョナル専務執行役員、12年メットライフアリコ代表執行役専務最高執行責任者などを経て、現職。
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メットライフ生命保険会長社長 サシン・N・シャー