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【下】信頼回復へ模索始まる
STAP細胞の論文不正問題は、日本の科学界の信頼を大きく傷つけた。信頼を回復するための模索が始まっている。
文部科学省は研究不正防止の指針を強化し、4月から適用する。指針は2006年、東京大や大阪大で論文不正などが相次いだため策定された。大学や研究機関に、不正の告発窓口の開設や、不正を調査する組織の整備などを求め、不正が確定した場合の研究費返還も明記した。
だが、その後も不正は後を絶たなかった。そのため、研究者個人に委ねられていた不正防止の取り組みを、組織が責任を持って進めることを明確にした。実験データの保存も組織に徹底させる。
ただ、京都大iPS細胞研究所の八代嘉美准教授は「ルールがあれば良いのではない。まずは研究者自らが意識を高めて、不正を防ぐ環境を作っていくことが大事だ」という。
同研究所では、研究者の実験ノートを、所属する研究室とは別の部門の職員が、2か月に1回ほどチェックしている。研究者が全員参加する研究報告会は毎週開かれ、データを共有しているという。八代氏は「特別なことではないが、こうした取り組みを例外なく行うことで不正の発生が抑えられる」と話す。
STAP問題の舞台となった理化学研究所でも、多くの研究者が参加して研究内容を議論する検討会が開かれていた。だが、STAP細胞の研究内容は、著者ら一部の研究者だけの秘密にされる例外措置がとられていた。著者間でもデータの確認がおろそかになっていた。
行政と科学界を含む社会全体で解決すべき課題もある。短期間で良い成果を出さないと研究費も地位も得られない構造的な問題だ。
特に生命科学分野では研究費の獲得競争が激しい。総務省によると、生命科学分野で大学が使う研究費は、04年度の7500億円から、13年度には1兆600億円に増えている。ただし、政府は、早期の実用化が見込めるiPS細胞(人工多能性幹細胞)などの分野に予算を重点配分してきたため、ある研究者は「重点分野以外にしわ寄せが出て、研究費の獲得が厳しくなっている」という。山崎茂明・愛知淑徳大教授(科学コミュニケーション論)は「今のままでは不正の誘惑に負ける研究者が出る。この構造を変えなければ解決しない」と訴える。
こうした実態を受けて、文科省の有識者会議は1月、期限付きの不安定な雇用環境にある若手研究者に、安定したポストを増やすことなどを提言した。
研究不正に詳しい榎木英介・近畿大講師は「研究者の意識改革、指針の厳格化、雇用の改善はいずれも欠かせない。地道に取り組んでいくしかない」と強調した。(森井雄一)
(2015年3月1日の読売新聞朝刊に掲載)