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名大など、中性子の加減速を磁場で制御する技術を開発して実証
名古屋大学(名大)は9月14日、京都大学、九州大学、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所、仏ラウエランジュバン研究所の協力を得て、勾配を持つ磁場と高周波磁場の組み合わせることで中性子を加減速させる方法を開発・実証し、実験に必要な位置での中性子の密度を向上させることができるようになったことを発表した。
成果は、名大 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 素粒子物性研究室の清水裕彦教授を中心とした共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、8月23日付けで米国物理学会誌「Physical Review A」に掲載された。
今日、中性子ビームは物質の構造解析やがん治療などさまざまに利用されている。しかし中性子は電荷を持っていないため電場や磁場による運動の制御が難しく、利用効率が高くなかった。
通常、陽子や電子などの電荷を持つ粒子は、電場を用いて加速させることが可能だ。一方、中性子は電荷を持たないため、電場を使った加速はできない。そこで、中性子の小さな棒磁石としての性質である「磁気モーメント」を用いる。磁気モーメントは磁場の勾配から力を受けるという特性を持つ。
これまでの研究で、「六極磁場」を利用して横向きに力を与えることで、中性子ビームを集束させることに成功している。広がるに任せていた中性子のビームも集光光学系を構成することができ、「中性子小角散乱」などにおいて、その利用効率を2桁程度改善させることが可能だ(画像1)。
画像1。中性子は集束させるのが難しいが、集束させることで効率よく利用可能となる
そしてこの仕組みを進行方向に用いれば、中性子を加減速させることができる。しかし、これまでこの原理を有効に使った加減速の制御は実証されていなかった。
中性子を進行方向に加減速させる際の制御が実証されてこなかったのは、単純に磁場ポテンシャルを通過させるだけでは、磁場への入口で働く力と出口で働く力の積算が帳消しになり、正味の加速にはならないためだ。
そこで中性子の通過の最中に交流磁場によって磁気モーメントを反転させ、中性子からみたポテンシャルが帳消しにならないようにすることで、正味のエネルギー変化を起こさせるという工夫が必要となる。
研究グループは今回、勾配磁場と交流磁場を組み合わせることにより、入ってくる中性子の速度に応じて加減速の大きさを自在に制御できることを実証した(画像2)。また、中性子のエネルギー分布を操り、進行方向に広がっていた中性子を空間的・時間的に集束させることにも成功した次第だ(画像3)。
画像2。今回の技術では、入ってくる中性子の速度に応じて加減速の大きさを自在に制御できることを実証したことが特徴
画像3。実験で、中性子が進行方向に対して集束している(近い速度で固まって飛んでいる)ことから、塊となって検出器に飛び込んだことがわかる
これを用いれば実験に必要な位置での中性子の密度を向上させることができ、利用効率を格段に向上させることができるとしている。例えば、素粒子物理学の重要なテーマである「時間反転対称性の破れ」と関係する中性子の「電気双極子モーメント」(中性子の電荷分布の偏りを示す量)の測定などでは、中性子密度が測定精度の向上のカギとなっていることから、今回の成果が活用できると期待されている。