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最新理論と先端技術で宇宙の謎に挑むALMA電波望遠鏡 (6) 最新技術を詰め込むことで幅広いバンド幅のカバーを実現した受信機

最新理論と先端技術で宇宙の謎に挑むALMA電波望遠鏡 (6) 最新技術を詰め込むことで幅広いバンド幅のカバーを実現した受信機 31GHzから950GHzをカバーする受信機

 受信機のバンドは、次の表のようになっている。

 受信機は日米欧で分担開発を行っており、このうち、日本はバンド4、8、10の受信機の開発を担当し、ACAだけでなく、すべてのアンテナにこれらのバンドの受信機を供給する。

 次の図のように大気で吸収されてしまって地上まで電波がほとんど届かない周波数帯があり、この部分は受信機を置いてもムダであるので、それらの周波数を除いたことによりバンド7~10の周波数は連続せず、隙間が空いている。

 大気の電波通過特性(黒線)とALMAの受信バンド(国立天文台 長谷川氏の資料から抜粋)

超電導素子を使ってミリ波をIFに変換する

 受信機では、熱雑音を減らしてS/N(Signal/Noise)比を高くすることが重要である。このため、周波の低いバンド1と2ではHEMTを使う増幅器を15Kに冷却して使用するという計画であるが、実は、バンド1と2の受信機は、まだ、開発も始まっていないという。

 より重要性が高いバンド3以上の周波数では周波数が高すぎて増幅器が作れないので、受信した電波を、直接、超電導の準粒子トンネル効果を使うSIS(Superconductor-Insulator-Superconductor)ミキサに入力してLO(Local Oscillator)信号と混合して4~12GHzのIF信号を生成する。SIS素子は4Kの極低温で動作させるので熱雑音が小さく、半導体のダイオードより非線形性が強くIFへの変換効率が高い。

 従来、SIS素子は標準的な超伝導体であるニオブ(Nb)で作られていたが、ニオブでは電波の周波数が700GHz以上では電波のフォトンエネルギーが大きすぎてクーパー対が破壊され、超電導でなくなってしまう。このため、今回のバンド10受信機では1.2THzまで動作するNbTiNという新材料のSIS素子を開発したという。

 この超電導素子を動作させるためには4Kに冷却する必要があるので、10台の受信機は、直径1m程度のクライオスタットにまとめて収容されている。クライオスタットは大型の魔法瓶のようなもので、機械式冷凍機で冷却されている。その中は真空になっており、受信機のフロントエンドはアルミや銅で作られた支持構造物やミリ波・サブミリ波導波管などの金属部品の熱伝導で冷やされている。なお、クライオスタットの中が常温に暖まってしまうと、受信機が運転できる温度に冷やすには3日間かかるとのことで、アンテナ移動中もトランスポータから電気を供給して冷凍機を動かし続ける必要があるというわけである。

 日本が担当するバンド10の受信機。この写真では奥行方向に6台並んで写っている (c)国立天文台

 バンド10の受信機の構造図。上から4K動作のSISミキサ部、IF増幅器、110K動作のLOを作る逓倍器、最下層は300K(常温)となっている (c)国立天文台

偏波とサイドバンドを分離して信号を受信

 受信機は最上部にアンテナからの電波を受けるラッパ状のフィードホーンがあり、その電波を直交する2つの偏波に分ける機構がある。低い周波数のバンドでは、導波路で直交する電界を分離するという方法が使われるが、バンド7、9、10ではフィードホーンを2つ使い、それぞれの前にすだれ状の金属の網をおいて一方向の電界だけを通すという方法で偏波を分離している。

 そして、前述のSISトンネルダイオードのミキサがあり、基準信号系から供給された高安定のLOを必要に応じて逓倍したLO信号と混合して、受信電波を4~12GHzのIF信号に落とす。

 ミキサで混合すると、入力電波とLOの差の周波数がIF信号として生成されるのであるが、例えばLO周波数より4GHz高い入力電波もLO周波数より4GHz低い入力電波も、どちらも4GHzのIF信号になってしまう。バンド3以上では周波数が高いので、 LOの上側(Upper Side Band:USB)、あるいは、下側(Lower Side Band:LSB)の信号だけをRF入力側のフィルタを使って取り出すことは難しい。このため、サイドバンド分離ミキサが使われている。

 サイドバンド分離ミキサの原理図

 ミキサで作られるIF信号は、LO周波数floの上側の周波数fupではfup-flo、下側の周波数flowではflo-flowとfloの符号が逆になり、USBとLSBのIF信号の周波数は同じでも位相は180度異なる。これを利用して、図のように、入力のRFと出力のIFの位相を90度回転させるカプラーを使って位相をずらせて信号の分割と重ね合わせを行う。そうすると、一方の出力では2つのミキサからの信号がUSBは逆相でキャンセルされ、LSBだけが出力される。そして、他方の出力には、その逆の関係で、USBのIFだけが出力されるという巧妙な仕掛けになっている。このように両側のサイドバンドの信号を出力する受信機は、一覧表に2SB方式と書かれている。

 一番周波数が高いバンド9、10では、波長が非常に短かく、RF信号の位相を90度ずらせるカプラーの寸法が小さくなり過ぎてしまって作るのが難しくなることに加え、金属導波路の損失が無視できなくなる。このため、受信機としては両方のサイドバンドが重なったDSBのIF信号を出力する。DSBでは、例えばLOが900GHzの場合、904GHzに信号があるのか、896GHzに信号があるのかを区別できないのであるが、ALMA全体では、後述のように相関器でサイドバンドを分離し904GHz(あるいは896GHz)の信号だけを観測する仕掛けがある。

 そして、SISミキサ部の下には4~12GHzのIF信号の増幅器がついている。この増幅器はHEMTを使っており、熱雑音を抑えるため超電導素子と同じ4Kで動作させている。その下にはLO信号の逓倍を行う部分があり、この部分は110Kで動作させている。そして、受信機の最下層は300Kでの動作、と温度の階層を作り、階層間は熱の伝導が少ない材料を使うなどして4K部への熱の流入を最小にしている。

 (次回は9月26日に掲載予定です)

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上原健二
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