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IMSなど、燃料電池の白金触媒の分布・化学状態を4次元可視化に成功

IMSなど、燃料電池の白金触媒の分布・化学状態を4次元可視化に成功 

 分子科学研究所(IMS)と高輝度光科学研究センター(JASRI)は、燃料電池膜・電極接合体(MEA)内部の白金触媒の分布やその化学状態を4次元的(空間軸:3次元+エネルギー軸:1次元)に可視化することに成功したと発表した。

 同成果は、IMS 唯美津木准教授、才田隆広博士研究員、JASRIの星野真人研究員、上杉健太朗研究員、宇留賀朋哉副主席研究員らによるもの。詳細は、「Angew. Chem. Int. Ed.」のオンライン版に9月11日付けで掲載された。

 固体高分子形燃料電池は、次世代のエネルギー源の1つとして、自動車をはじめとする様々な分野に実用化が期待されており、電極触媒から制御システムまで多様な角度からの研究開発が進められている。水素を燃料とした燃料電池では、アノード(陰極)側で白金などの金属微粒子を触媒として用い、燃料である水素をプロトン(H+イオン)に変換し、この時放出される電子(e-)は外部回路を流れる。生成したプロトンは高分子電解質膜を通過してカソード(陽極)表面に到達後、カソード側で合金を含む白金系触媒を介して酸素と反応し水を生成する。

 燃料電池では、アノード側の触媒層、電解質膜、カソード側の触媒層を重ねた膜・電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が基本部材として使われる。一般に、カソード側の反応はアノード側の反応に比べて遅く、また酸素と反応するカソード側の触媒劣化が顕著であることから、燃料電池の幅広い実用化には、カソード触媒の性能および耐久性の向上が必須と言われている。特に、触媒として用いられている高価な白金の使用量を低減させ、その耐久性を向上させることは、燃料電池車の実用化および広範な普及の鍵となっている。

 これらの問題に取り組むためには、カソード触媒層における白金触媒の劣化挙動を直接捉え、MEA内における白金触媒の溶出・析出および凝集箇所を3次元的に可視化し特定することが有効な手段の1つと考えられている。しかし、カソード触媒層、高分子電解質膜、アノード触媒層の三層構造であるMEAにおいて、MEAを破壊する事なく劣化挙動および白金触媒粒子の分布や化学状態を直接測定することは、これまで困難だった。

 図1 水素を燃料とした燃料電池の模式図。アノード触媒層、高分子電解質膜、カソード触媒層が接合されたものを膜・電極接合体(MEA)と呼ぶ。アノード、カソードの両方の電極の反応に触媒が使われている

 研究グループでは、試料の構造を3次元空間的に解析可能なX線ラミノグラフィー法に、特定の元素の化学状態を捉えることのできるXAFS(X線吸収微細構造)法を組み合わせた新しい測定手法であるX線ラミノグラフィーXAFS法を開発。大型放射光施設SPring-8を利用して、燃料電池MEAのX線ラミノグラフィーXAFS測定に取り組み、カソード触媒層内の白金触媒の分布および化学状態の3次元空間的な可視化に成功した。

 図2 X線ラミノグラフィーXAFS測定から得られた燃料電池MEAカソード触媒層の白金触媒の3次元分布の様子。上側の図は白金触媒の量を3次元的にプロットした図。下側の図は上側の図をxy, yz, zx平面方向に投影した図。各面での劣化の様子がわかる。左側は触媒劣化操作前のMEA、右側は200回の電圧操作を繰り返し劣化させたMEA。劣化処理したMEAでは、カソード触媒層全域において白金が凝集している箇所が見られる

 JASRIの研究グループは、各種のX線イメージングが可能なSPring-8のビームラインBL47XUにおいて、測定エネルギーを変化させながらX線ラミノグラフィー法を行うことが可能な新しいシステムを開発し、X線ラミノグラフィーXAFS測定を実現した。この手法を用いて、IMSの研究グループは、カソード極に白金の平均粒子径が約3nmの炭素担持白金触媒を塗布したMEAについて、触媒劣化操作前のMEAおよび200回の電圧操作を繰り返して劣化させたMEAの2種類を作製し、X線ラミノグラフィーXAFS測定を行った。得られた一連のX線ラミノグラフィー像から、MEAのカソード触媒層内部における白金触媒の分布と化学状態を3次元的に可視化することに成功した。

 図3 上側の図は、MEAの深さ方向(膜接合方向)の各位置に対応するX線ラミノグラフィーXANESスペクトル。下側の図は電解質膜から113.2μm離れた面での白金触媒の存在量の2次元イメージ。(B)の劣化後のMEAでは、白金触媒の分布にムラがあり、右下図中の(b-1)のように部分的に白金が大きく凝集している箇所が存在する。対応したXANESスペクトルの解析から、MEAの各位置での白金触媒の酸化状態もわかる

 触媒劣化操作前のカソード触媒層では、図2(A)のように比較的均質に白金触媒が分散しているのに対し、電圧操作の繰り返しによるMEA劣化後は、図2(B)のようにカソード触媒層内部における白金触媒の分布が不均質になり、深さ方向に大きな割れ目が形成されていることが確認された。また、白金触媒の凝集箇所も観察された。さらに、X線ラミノグラフィー像の再構成によって得られたXANESスペクトルを解析することで、カソード触媒層内部の白金の酸化状態についても可視化することができた。

 電子顕微鏡像の測定では、白金触媒粒子の分布は各触媒粒子の酸化状態を判断することができない。X線ラミノグラフィーXAFS法は、3次元構造解析と分光を同時に行うことが可能な画期的な方法であり、これまで困難であった燃料電池MEA内部の白金触媒の分布および、その化学状態を、試料を破壊することなく3次元空間的に描写することができる。これにより、MEA内部の電極触媒の劣化挙動について、より詳細な解析が可能になり、燃料電池MEAの劣化抑制のための基盤情報の取得につながると考えられる。

 燃料電池自動車の普及・実用化や家庭用燃料電池「エネファーム」の性能向上に向けて、新しい燃料電池触媒やシステムの開発が進められているが、燃料電池が抱える様々な問題のメカニズムや原因については依然として不明な点が多く、革新的な燃料電池触媒やMEAの開発につながる基盤情報の蓄積が求められている。今回、新しく開発したX線ラミノグラフィーXAFS法を使えば、MEAを破壊することなく、内部の電極触媒の分布や化学状態の3次元構造情報を得ることができる。これらの知見は、燃料電池使用時のMEA内部の電極触媒の劣化メカニズムの解明につながることが期待され、より耐久性の優れたMEA開発のための基盤情報になることが期待されるとコメントしている。

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