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小惑星探査機「はやぶさ」が帰還開始へ、観測データもWEBで無償公開
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は24日、小惑星探査機「はやぶさ」に関する記者会見を開催し、現状について報告した。依然として厳しい状況が続くが、25日より、いよいよ地球帰還に向けた運用を開始するという。また同日、JAXAは「はやぶさ」が取得した科学データの全てをWEB上に公開した。
会見に出席したJAXAの川口淳一郎教授(プロジェクトマネージャ)、國中均教授(宇宙輸送工学研究系)、吉川真助教授(宇宙情報・エネルギー工学研究系、以上左から)
小惑星探査機「はやぶさ」は、2003年5月の打上げ後、2005年9月に目的地である小惑星「イトカワ」に到着。科学観測を行ったほか、サンプル採取のためのタッチダウンも実施した。サンプル採取そのものは失敗した可能性が高いが、科学的・技術的に大きな成果を得ており、その業績は海外からも高く評価されている。
しかし、その途上で度重なるアクシデントに見舞われており、まず2005年7月と10月には、相次いで姿勢制御に用いるリアクションホイールが故障。残ったZ軸ホイールと化学エンジンによる姿勢制御に切り替えていたが、タッチダウン後に今度はこの化学エンジンから燃料が漏洩。ガス噴出によって姿勢を喪失し、一時は地上との交信が途絶する事態とまでなった。
これを受け、JAXAは当初2007年6月としていた帰還予定を断念。3年後の2010年6月を新たな目標として、帰還に向けた準備を続けていた。
これらの内容については、今月4日に宇宙開発委員会に報告されていたが、その後、20日になってイオンエンジンの1台(Bスラスタ)に中和電圧が上昇するトラブルが発生したという。このBスラスタはすでに作動時間が9,600時間に達しており、性能の低下も見られることから、JAXAは当面、安定しているDスラスタのみを使って、帰還運転を行うことを決定した。
当面はDスラスタのみで地球に向かうが、最後までDのみで行くと決定したわけではないようだ。Bの使用や、場合によってはA/Cを使うことも考えるという
左が問題のBスラスタ。性能の低下(緑)や電圧の上昇(赤)が見られた。電圧上昇はエンジンの寿命を短くするという
AとCのスラスタは安定しないため、すでに使用していなかったが、Bも使えないとなると、残りはDスラスタのみとなる。しかも正常に動作するリアクションホイールは残り1基だけで、化学エンジンはもう使えない。プロジェクトマネージャである川口淳一郎教授(月・惑星探査推進ディレクタ)は、「赤信号が灯っている」と予断を許さない状況にあるとの認識を示しつつも、「しかし帰還できないと決まったわけではない」と補足。
川口プロマネによると、地球への帰還にはあと「8,000時間から10,000時間程度、イオンエンジンの運転が必要になる」という。1台だけの運転でも2010年6月の帰還は可能で、燃料も十分あることから、これ以上壊れさえしなければ、何とかたどり着ける計算だ。
しかし、ここで問題となるのはイオンエンジンの寿命。設計上は14,000時間とされており、Dスラスタはあと3,000時間程度で超えてしまうレベルだ。もっとも、寿命については「地上では20,000時間の実証もしている。この時は途中で試験をやめたので、実際はもっと動くかもしれない」(國中均教授・宇宙輸送工学研究系)という。よりクリティカルなのは残り1基しかないリアクションホイールのほうだが、スピン安定にしてホイールを停止させるなど、なるべく温存する方法が考えられているそうだ。
またJAXAは同日、「はやぶさ」が取得した全科学データを、WEBサイトにて公開した。これには、可視分光撮像カメラ(AMICA)の画像約1,600枚、近赤外分光器(NIRS)のスペクトルデータ約12万本、レーザー高度計(LIDAR)のデータ約170万点、蛍光X線スペクトロメータ(XRS)のデータ約15,000本が含まれており、誰でも無償でダウンロードが可能。そのほか、SPICE(位置・姿勢のデータ)やイトカワの3D形状モデルなども用意されている。
WEBページは、国内外の研究者向けということで、英語サイトになっている。スウィングバイ時に撮影した地球の画像や、イトカワ接近時の地表の画像なども見ることができる