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理研、リンパ濾胞内のT細胞の「THF細胞」による抗体産生の仕組みを解明

理研、リンパ濾胞内のT細胞の「THF細胞」による抗体産生の仕組みを解明 

 理化学研究所(理研)は、2次リンパ組織(抗体産生や細胞性免疫反応に関与する末梢性リンパ組織で、リンパ節、脾臓、パイエル板、扁桃などがある)のリンパ濾胞(ろほう)内に存在する「T細胞」の1種である「TFH細胞」が、サイトカイン「インターロイキン-4(IL-4)」遺伝子上に存在する非転写制御領域「CNS-2(conserved noncording sequence-2)」によって、IL-4の産生を制御していることを明らかにし、抗体産生に関わるT細胞の新たな機能を発見したと発表した(画像)。

 TFH細胞の抗体産生メカニズム。CXCR5:細胞遊走を決める細胞表面分子。細胞遊走因子(ケモカイン)に対する受容体の1つ。CD40L、CD40:CD40LはCD40のリガンド(基質)であり、両者が結合し合うことで、T細胞とB細胞の関係を強める働きがある。この関係が成り立つことが、抗体を作る上で必要である

 成果は、理研免疫・アレルギー科学総合研究センターシグナル・ネットワークオープン研究ラボの久保允人客員主幹研究員(東京理科大学生命科学研究所分子病態学研究部門教授兼務)、東京理科大学生命科学研究所分子病態学研究部門の原田陽介助教らによる共同研究グループによるもので、詳細な研究内容は米科学誌「Immunity」(2月24日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版に日本時間2月24日に掲載された。

 ヒトの体には生まれながらにして免疫システムが備わっており、外部から侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を攻撃して異物から体を守っている。特に抗体は、病原体に感染したときにそれらに結合して効率よく異物を排除する、強力な生体防御反応の1つだ。

 そしてワクチンは、この抗体の機能を利用した最も効率の良い免疫療法だ。インフルエンザなど新たなウイルスによる感染症の脅威に備えるには、さまざまな異物の種類に応じて的確に認識できる抗体をワクチンとして開発することが重要な課題となる。

 免疫システムにおいて司令塔的な存在であるリンパ球のT細胞(胸腺(Thymus)で形成されるのでそのように呼ばれる)は、機能に応じて「ナイーブT細胞」(抗原に出会ったことのない未分化なT細胞のこと)から「ヘルパーT細胞」や「キラーT細胞」などさまざまな種類に分化するのが特徴だ。

 T細胞は、各抗原に応じて異なる受容体(T細胞抗原受容体)を発現させて抗原を認識する。さまざまな情報伝達物質の「サイトカイン」を産生し、同じくリンパ球の1種である「B細胞」などと連携して抗体を産生するヘルパーT細胞や、直接抗原細胞を破壊するキラーT細胞へ分化して免疫応答を進める。なお、B細胞はほかの免疫細胞やサイトカインの働きにより活性化し、それぞれの抗原を個別に認識して各抗原に適した抗体を産生する機能を持つ。

 またサイトカインとは、免疫応答に関する細胞同士の情報伝達にかかわるさまざまな生理活性を持つ可溶性タンパク質の総称だ。さまざまな免疫細胞から分泌され、標的細胞の増殖、分化、細胞死などの誘導を担う。サイトカインは免疫応答に対して促進と抑制の両作用を持ち、過度の炎症反応が起こらないよう巧妙に免疫反応を調節している。そのため、サイトカインは、アレルギー炎症の原因究明のカギであり、その鎮静化を制御する本質とも考えられているのが現況だ。

 T細胞に話を戻すと、その内の「2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)」は、サイトカインの一種であるIL-4を産生し、「B細胞」の抗体産生を活性する。特に、喘息などの気道反応やアトピー性皮膚炎などの皮膚炎症アレルギー反応の中心的な役割を果たし、アレルギー患者の血液中に高濃度で存在する「IgE抗体」は、主にTh2細胞から産生されるIL-4によって制御されることが確認済みだ。またIL-4は、Th2細胞自身を増加させる働きも持ち、アレルギー反応を起こしやすい方向へ免疫のバランスをシフトさせる特徴がある。

 一方で、B細胞は外的因子に応じて「IgG1抗体」など、さまざまな抗体を産生することができ、リンパ節などの2次リンパ組織にあるリンパ濾胞の中心部にできる球状構造をした「胚中心」と呼ばれる特別な場所で産生される(胚中心では抗体も活発に作られる)。リンパ濾胞とは、B細胞と濾胞樹状細胞から成る細胞が集合していて、免疫応答が起こるリンパ組織内で抗体が作られると考えられている領域のことだ。

 リンパ濾胞だけに局在するTFH細胞(リンパ濾胞型ヘルパーT細胞)は、最近の研究からIL-4を産生し抗体産生の制御に関する重要な因子であることがわかってきたが、Th2細胞とTFH細胞の関係は不明のままだった。

 そこで共同研究グループは、TFH細胞とサイトカイン産生の関係を調べるためにTFH細胞のサイトカイン産生の動態を可視化できる実験手法を構築し、TFH細胞がどのように作られ、どのように抗体産生に関与しているかを解明することに挑んだのである。

 共同研究グループは、T細胞の抗体産生とアレルギー反応の両方に関わるIL-4に着目し、その産生の制御に関与するさまざまな非転写制御領域(ゲノム上でタンパク質に翻訳されない領域で、エンハンサなど遺伝子の発現を制御に関与する機能を持つ)を欠失させた遺伝子改変マウスを作製し、それぞれの特性について調査が行われた。

 その結果、IL-4遺伝子上に存在するCNS-2を欠失させたマウスでは、B細胞によるIgEとIgG1抗体の産生が大きく低下したが、Th2細胞によってIgE抗体が引き起こすアレルギー反応には影響がなかったのである。このことからCNS-2は、抗体産生に関与するIL-4の産生を制御する非転写制御領域であり、アレルギー反応に関与するIL-4はまったく異なる制御メカニズムであることがわかったというわけだ。

 CNS-2はエンハンサー領域であることから、遺伝子発現を増幅させる作用がある。そこで生体内でのCNS-2の動態を把握することを目的に、蛍光タンパク質「GFP」を用いて、CNS-2が活性化した細胞が光るように工夫したマウスを作成し、T細胞の観察が行われた。

 その結果、リンパ濾胞に局在するT細胞だけが発光しており、そのT細胞の遺伝子発現パターンを観察するとTFH細胞と非常に似ていることが判明。つまり、CNS-2はTFH細胞だけに機能する非転写制御領域であることが明らかになったのである。

 さらにこのマウスを用いてTFH細胞の動態を詳細に調べたところ、生体内ではリンパ濾胞内にあるナイーブT細胞が最初に抗原と出会ってから3~5日後にTFH細胞へ分化して、抗体産生に関する機能を獲得することも確認された。

 以上の結果から、リンパ濾胞内に存在するTFH細胞は、CNS-2によってIL-4産生が制御されていることがわかり、そしてその制御メカニズムは、アレルギー反応に関わるTh2細胞のIL-4産生のメカニズムとは異なることも明らかとなった。

 これまで、アレルギー反応に関わるIgE抗体は、Th2細胞より産生されるIL-4によって制御されると考えられていたが、今回の発見はTFH細胞が産生するIL-4によりIgEもほかの抗体と同様に制御されることが示された形だ。また、TFH細胞は、リンパ濾胞内でナイーブT細胞が抗原刺激を受けることによって分化することも判明した。

 現代社会においてインフルエンザなどの感染症への対策は大きな課題だ。2009年、世界中で感染拡大した新型インフルエンザウイルスの出現は、現代社会における感染症の脅威に警鐘を鳴らすことになった。新型インフルエンザは2011年に収束したが、今後も新型インフルエンザが大流行する可能性があるといわれており、健康被害だけに留まらず社会的パニックを招く危険性が考えられる状況である。

 そうした予期できないパンデミックに備えるためには、効率の良いワクチンの開発が必要だ。今回の成果は、抗体産生の詳細なメカニズムを明らかにすることにつながり、今後、新しい視点からのワクチン開発の実現や抗体産生のより明確な理解につながると期待できると、研究グループではコメントしている。

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