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理研や東大など、CNTを従来の1000倍高分散化させた液晶材料の開発に成功
理化学研究所(理研)、東京大学、筑波大学、東京工業大学(東工大)の4者は、「カーボンナノチューブ(CNT)」を従来の1000倍ほど高分散化させて、配向性や電気伝導性の制御を可能とした液晶材料の開発に成功したと発表した。
成果は、東大大学院 工学系研究科の相田卓三教授(理研基幹研究所機能性ソフトマテリアル研究グループディレクター兼務)、同博士後期課程の李廷湖氏、筑波大 数理物質系の山本洋平准教授、東工大 資源化学研究所の福島孝典教授(理研基幹研究所エネルギー変換研究チームリーダー兼務)、理研 放射光科学総合研究センターの加藤健一専任研究員、高田昌樹主任研究員らの研究グループらによるもの。研究の詳細な内容は、独国科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。
CNTは、その優れた機械特性や電気特性から、構造材料や電子材料としての応用が期待されている。しかし従来の合成法では、CNT同士が凝集し、塊状の粉末としてしか得ることができなかった。この状態では、CNTの特性を十分に引き出すことができないため、これまでに多くの研究者が、CNTを1本1本のレベルまで高分散化する方法を模索してきた。
その中で、2003年に発表されたイオン液体によるCNTの分散化は有用とされ、この方法で伸縮性導電材料やアクチュエータなどのソフトな電子材料の実用化に向けた研究が現在活発に行われている。
研究グループは今回、イオン液体に代えて、プラス電荷を有する「イミダゾリウム」を有するイオン液晶を用いてCNTの高分散化に挑んだ。用いたイオン液晶の分子は、ベンゼン環4つからなる「トリフェニレン」の周辺に6つのイミダゾリウムを付与した「トリフェニレン誘導体」だ(画像1)。トリフェニレン誘導体は、柱(カラム)状に分子が集積した液晶(画像2)を形成しやすいことから、液晶によるCNTの配向制御も期待できる。
画像1(左)はイオン液晶分子(トリフェニレン誘導体、BF4塩)の分子構造で、画像2は柱(カラム)状に分子が集積したカラムナー液晶の構造模式図
まずトリフェニレン誘導体を液体状態(150℃)まで加熱した後、単層CNTを加えて乳棒で混ぜ合わせると、CNT/イオン液晶複合材料が作製される仕組みだ。150℃で30分程度混ぜ合わせると、黒いペースト状の混合物が生成された(画像3)。CNTの混合比を5~10重量%程度まで増やしても混合物は流動性を保ち、室温でも液晶を形成していることが確認されたのである。
画像3。イオン液晶とCNTの混合の様子と得られたペースト状混合物(右上)
次に、得られた混合物について、熱分析、理研の所有する大型放射光施設「SPring-8」の物質科学ビームライン「BL44B2」を利用した放射光X線回折、光学及び電子顕微鏡観察(画像4~7)を行い、CNTの分散性や液晶構造について詳細な調査が行われた。
その結果、CNTの塊や凝集物はほとんど観測されず、イオン液晶中にCNTが高分散していることが予想された(画像4・5)。これまでに報告されている液晶のCNT分散能は0.01重量%よりも少なく、今回CNTの混合比は5~10重量%であることから、従来の液晶と比べて1000倍のCNTを分散化していることになる。
一方、プラス電荷を持たないトリフェニレン誘導体とCNTを混合すると、液晶とCNTが相分離してしまい、CNTがほとんど分散しなかった(画像6)。また、イオン液体とCNTの混合においてもCNTの塊を観測したことから(画像7)、1分子中6つのプラス電荷を有する部位を持つイオン液晶の方が、よりCNTを高分散化していることが判明したのである。
光学及び透過型電子顕微鏡の写真。画像4(a)と5(b)は、CNT/イオン液晶複合体。CNTの塊やバンドル(束)はほとんど観測されず、イオン液晶中にCNTが高分散している
光学及び透過型電子顕微鏡の写真。画像6(c)は、プラス電荷を持たない非イオン液晶/CNT複合体。液晶とCNTが相分離してしまい、CNTがほとんど分散しない。画像7(d)は、イオン液体/CNT複合体。小さいながらも、CNTの塊を観測した
また、偏光顕微鏡を用いて液晶カラムとCNTの配向性を確認しながら、剪断力や熱処理による配向制御を試みた。さらに、効率的な電気伝導性に不可欠な要素である、CNTの配向制御による電気伝導の「異方性」について検討した(画像8)。
画像8。配向制御によるイオン液晶/CNT複合体の25℃での電気伝導度のCNT混合比依存性(左)と、CNT及び液晶カラムの配向方向(右)。左のグラフ中のSWNTは、single-walled carbon nanotube=単層CNTの略。電気伝導度は、CNTがランダム配向時(状態3)に比べて、面内方向に配向している時(状態1)の方が2桁ほど小さくなる。右の図の状態1は、横方向への剪断処理直後で、状態2は5分熱処理後、状態3は1時間熱処理後
異方性について検討した結果、以下に示す現象が見出された。研究グループは、これらを「興味深いこと」としている。
1つ目は、「CNTと混合すると、液晶カラムが基板に対し垂直に配向していること」だ。イオン液晶だけの場合、液晶カラムの配向はランダムだが(画像9・a)、CNTの割合を増やすにつれ偏光顕微鏡像が暗視野に変化し(画像9・b、c、d)、試料全体で液晶カラムが垂直配向していることが発見された。
画像9。CNTのイオン液晶への添加に伴う偏光顕微鏡像の変化。CNTの添加に伴い、液晶カラムがランダム配向から垂直配向へと変化している。(a)イオン液晶だけ、(b)1重量%のCNTを添加、(c)3重量%のCNTを添加、(d)5重量%のCNTを添加
2つ目は、「液晶カラムとCNTの配向をそれぞれ制御可能なこと」だ。CNTと混合して垂直配向した液晶カラムは、剪断力を加えると応力方向に配向し、同時にCNTも同じ方向に配向することがわかった。これは、従来の液晶やイオン液体とCNTの混合物ではできなかったことだ。従って、CNTのイオン液晶に対する極めて高い分散性と、液晶分子との強い相互作用が、CNTの配向に重要な役割を果たしていると考えられるという。
また、剪断力により基板の面内方向に配向した複合体を150℃で5分間熱処理すると、CNTは面内配向を保った状態で液晶カラムのみ垂直配向に戻すことができ、さらに150℃で1時間の熱処理をすると、CNTはほぼはじめの状態(ランダム配向)に戻った。
3つ目は、「CNTの配向制御により、電気伝導特性を制御できること」。CNTがランダムに配向している状態から、基板の面内方向に配向している状態へと変化させると、電気伝導度が最大で2桁以上も変化することが見出された(画像8)。この変化は、可逆的に繰り返して再現することが可能である。また、液晶とCNTの配向状態は、室温では半年以上維持できることも明らかになった。
研究グループは、今回のCNT/液晶複合材料は、フレキシブルでかつ効率のよい電荷輸送を実現できることから、ソフトエレクトロニクスへの応用が期待できるという。特に、液晶による配向性の制御と自己修復性を兼ね備えている利点は大きく、今後、アクチュエータ、光フィルタなど、新しい導電・光学材料としての応用が期待できるとしている。