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「全ゲノム重複」を経験した生物の遺伝子の消失パターンに偏り

「全ゲノム重複」を経験した生物の遺伝子の消失パターンに偏り  

 東北大学は、アイルランド・トリニティカレッジの協力を得て、過去に「全ゲノム重複」を経験した脊椎動物、酵母、植物の遺伝子消失パターンを調べ、機能的に関連のある遺伝子がゲノム上で近接している場合に遺伝子消失のパターンに偏りが生じることを突き止めたと発表した。

 また、脊椎動物、酵母、植物が属する真核生物の遺伝子の並び方はランダムであると考えられてきたが、今回の研究で得られた結果は遺伝子の並び方にも重要な意味があることを強く示唆しているということも併せて発表されている。

 成果は、東北大大学院 生命科学研究科 生物多様性進化分野の牧野能士助教、アイルランド・トリニティカレッジのイーファ・マックライザット博士らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国科学誌「Genome Research」オンライン版に掲載された。

 真核生物は、希に遺伝情報が書き込まれているゲノムのすべてが重複する大イベント、全ゲノム重複が起こることがある。全ゲノム重複はすべての遺伝子が重複するため、生物進化を考える上で重要なイベントだ。ヒトを含む脊椎動物が現在のように繁栄しているのは、脊椎動物の祖先において2度の全ゲノム重複を経験したことが大きな要因だと考えられている。

 全ゲノム重複によりすべての遺伝子が倍加するが、生じた2つの遺伝子は冗長であるため、多くの場合、1つが消失する形だ。この遺伝子消失の際に、どちらの遺伝子が消失するのかはわかっていなかった。

 細菌などの原核生物では似た機能を持った遺伝子がゲノム上で隣接していることが知られているが(オペロン)、真核生物の遺伝子のゲノム上の並び方はランダムであると考えられてきた。

 一方で、機能的に関連のある遺伝子が隣接する「遺伝子クラスター」が真核生物においても存在することが報告されている。例えば、ヒトゲノム上では共同して働く免疫に関わる遺伝子がゲノム上で近接しているという具合だ(画像1)。

 画像1は、ヒトゲノム上の遺伝子クラスター。横線はヒトの染色体(ゲノム)、四角は免疫応答に関わる遺伝子、曲線は遺伝子間相互作用を示す。相互作用している免疫関連遺伝子ペアはヒトゲノム上で隣接して存在し、遺伝子クラスターを形成している。

 画像1。ヒトゲノム上の遺伝子クラスター(Makino, T and McLysaght, A. Molecular Biology and Evolution.2008)

 また、真核生物に遺伝子クラスターが存在するのならば、全ゲノム重複後に大規模な遺伝子消失が起きた後でも、遺伝子クラスターは維持されるのではないかと考えられた(画像2)。そこで、過去に全ゲノム重複を経験した生物の遺伝子消失パターンを調べることで、遺伝子クラスターが維持されているかが検証されたのである。

 もし全ゲノム重複後の遺伝子消失がランダムに起これば、画像2Aのように遺伝子クラスターが維持された遺伝子消失パターン(赤線)と、遺伝子クラスターが壊された消失パターン(緑線)の数は同程度になるはずだ。

 一方、遺伝子クラスターを維持する方向で遺伝子消失が起きたならば、画像2Bのように赤線が多くなると考えられる。そこで、進化過程において全ゲノム重複および大規模遺伝子消失を経験したヒト、出芽酵母、シロイヌナズナを対象に、赤線数と緑線数の比較を行い、機能的な関連性(遺伝子間相互作用)のある遺伝子ペアがゲノム上で隣接する傾向にあるかが調査された。

 画像2は、全ゲノム重複後の遺伝子消失を表した模式図。横線は染色体(ゲノム)、四角は遺伝子、赤線は同一染色体上で近接した遺伝子間の相互作用(遺伝子クラスター)、緑線は重複で生じた異なる染色体間の遺伝子間相互作用を示す。

 まず祖先の遺伝子(白四角)が、全ゲノム重複を経て2つの遺伝子コピーを持つようになる(青四角)。全ゲノム重複が生じると、1つの相互作用は4つに増加(赤線2、緑線2)。画像中では、4つの相互作用が全ゲノム重複により16に増加した(赤線8、緑線8)。

 全ゲノム重複後は、多くの場合、重複した遺伝子の内1つの遺伝子が消失して1つの遺伝子に戻り(黒四角)、その際、図のように消失した遺伝子が持っていた相互作用も消失。

 (A)は遺伝子消失がランダムに生じた場合で、その場合は消失する相互作用もランダムとなり赤線と緑線の数は同程度となる(赤線2、緑線2)。(B)は遺伝子クラスターを維持しようという自然選択が働いた場合で、(A)と同数の遺伝子が消失しても残った赤線は緑線よりも多くなる(赤線4、緑線0)。

 画像2。全ゲノム重複後の遺伝子消失

 ヒト、出芽酵母、シロイヌナズナの全ゲノム重複後の遺伝子消失のパターンが調べられた結果、いずれのケースでも遺伝子クラスターを維持するような偏った遺伝子消失が観察された。

 このことは、全ゲノム重複後の遺伝子消失がランダムではなく方向性を持って生じていることを示している。この結果は、同時に真核生物全体において遺伝子クラスターが存在することを強く示唆するものだという。

 脊椎動物の初期進化で起きた2度の全ゲノム重複とは別に、魚類は3回目の全ゲノム重複を経験している。そこでゲノム配列が既知であるメダカ、ゼブラフィッシュ、トゲウオ、淡水フグを用いて、3度目の全ゲノム重複後の遺伝子消失パターンが調べられた。

 その結果、魚類の3度目の全ゲノム重複後においてもヒトなどと同様に遺伝子クラスターを壊さないように遺伝子消失が生じていることがわかった。

 研究グループは今回の結果について、全ゲノム重複後の偏った遺伝子消失パターンを発見したことから、ゲノム構造及び遺伝子間相互作用ネットワークの進化を理解するための新しい知見を示した重要な研究となったとコメントしている。

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