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理研ら、X線自由電子レーザーのパルス幅をアト秒まで評価可能な手法を開発

理研ら、X線自由電子レーザーのパルス幅をアト秒まで評価可能な手法を開発 

 理化学研究所(理研)と高輝度光科学研究センター(JASRI)は9月20日、「X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)」のパルス幅(X線の発光時間)を評価する手法の開発を行い、理研のXFEL施設「SACLA(さくら)」において実証実験に成功したと共同で発表した。

 成果は、理研 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ ビームライン開発チームの犬伏雄一特別研究員、同・矢橋牧名グループディレクターらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、近日中に米国科学雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載される予定だ。

 通常のレーザーが発振する波長範囲は赤外線から可視光に限られるが、より短波長であるX線領域のレーザーを発振する手法として「SASE方式(自己増幅自発放射方式)」が考案され、自由電子レーザーの開発が進められてきた形だ。近年、米国の「Linac Coherent Light Source(LCLS)」や日本の「SPring-8 Angstrom Compact free electron Laser(SACLA)」といったXFEL施設が完成し、カメラのフラッシュのように極短時間だけ物質を照らすXFELパルスが利用できるようになった。

 このXFELの特長として、(1)高い輝度(SPring-8が放つX線の10億倍の明るさ)、(2)波が完全にそろっている(良質な空間コヒーレンス)、(3)数10fs(1fs秒は1000兆分の1秒)以下という超短パルス性が挙げられ、生物試料の構造解析、原子物理やX線非線形光学、化学反応や吸着反応などの超高速現象観測といった研究への貢献が期待されているところだ。

 特に、超高速現象を精緻に観察するには、時間分解能が高くなることからパルス幅が短いことがカギとなる。可視光や赤外線領域のフェムト秒パルス幅評価では、「非線形光学効果」を利用した手法が広く用いられているが、X線領域での非線形光学効果の研究はXFELの誕生によって始まったばかりであり、X線パルス幅計測に用いるには至っておらず、新たなパルス幅評価手法が求められていた。2012年3月から供用運転を開始したSACLAが発振するパルス幅も、加速した電子の特性から数fsから数10fsであると推測されていたが、実測には至っていなかった状況だ。

 現在のSASE方式で発振するXFELでは、エネルギーごとの強度分布(エネルギースペクトル)は微細なスパイク形状の集まりになる。エネルギースペクトルのスパイク幅とパルス幅は密接な関係があり、スパイク幅を精密に計測することによりパルス幅の知見を得ることが可能だ。そこで研究チームは、このエネルギースペクトルの実測と独自開発のXFELシミュレーション「SIMPLEX」を組み合わせ、パルス幅を導き出す手法を考案した。

 1fs~100fsレベルのパルス幅を評価するには、エネルギースペクトルの分解能は10meV程度、観測範囲は数eV程度を必要とする。また、SASE方式のXFELでは、パルスごとにスペクトルの波形が変化するため、1つひとつのパルスを評価しなければならない。

 そのため研究チームは、エネルギースペクトルの観測範囲を広げるための「楕円ミラー」と、高い分解能を得ることができる「シリコン分光結晶」、そして独自に開発された高感度のX線CCDカメラを組み合わせた「スペクトロメーター」を構築し(画像1)、SACLAのビームラインにおいて、10keV(波長1.24Å)のXFELを用いた計測を行った。

 画像1は楕円ミラー、シリコン分光結晶、X線CCDカメラを組み合わせたスペクトロメーターの模式図だ。広範囲なエネルギースペクトルの観測範囲を得るには、ビームの広がりの角度を表す「発散角」が大きなX線ビームが必要である。XFELは非常に指向性がよい(発散角が小さい)ので、楕円ミラーで反射させて発散角を大きくして対応した。

 このビームをシリコン分光結晶へ入射させると、「ブラッグの条件」(X線のエネルギーに依存した角度でX線が回折される)を満たすように、X線のエネルギーによって違う角度で回折される。この反射ビームをX線CCDカメラで検出した。このスペクトロメーターでは、観測範囲4eV、分解能14meVという、パルス幅の評価に十分な性能を得ることに成功している。

 画像1。楕円ミラー、シリコン分光結晶、X線CCDカメラを組み合わせたスペクトロメーター

 3種類の異なる運転条件で評価したところ、エネルギースペクトルの平均スパイク幅はそれぞれ110meV(画像2a)、290meV(画像2b)、600meV(画像2c)と計測することに成功した。この時のスペクトルの観測範囲は4eV、分解能は14meVであり、パルス幅の評価に十分な性能を満たしていたのである。

 これら計測値と一致するような条件を「SIMPLEX」でシミュレーションすることにも成功し(画像2d~f)、その時のパルス幅を導き出した結果、各条件でのパルス幅はそれぞれ31fs、8.9fs、4.5fsとわかった(画像3)。

 画像2が、SACLAが発振したXFELの典型的なエネルギースペクトルとシミュレーション結果だ。XFELのスパイク幅が最も小さい(パルス幅が最も長い)条件では、スペクトルの細かいスパイク構造は完全に分解できており、平均スパイク幅が110meVとなった(a)。

 SACLAの運転条件を調整してスパイク幅を大きく(パルス幅を短く)すると、波形も変化し、平均スパイク幅290meV(b)と600meV(c)を得た。各条件の実験結果にシミュレーション結果を一致させることにも成功した(d~f)。

 画像2。SACLAが発振したXFELの典型的なエネルギースペクトルとシミュレーション結果

 画像3。さまざまなパルス幅でSACLAが発振したXFELの時間波形の様子。各条件におけるパルス幅を統計処理して導き出した結果、それぞれ31fs、8.9fs、4.5fsと求められた

 研究グループによれば、今回開発された手法を用いると、XFELのパルス幅を精度よく、パルスごとに評価できるため、化学反応などの超高速過程の解明のようなXFELの短パルス性を生かした科学技術分野へ貢献することが期待できるという。

 また、加速した電子バンチの時間幅とXFELパルス幅の関係を知ることが可能となり、より短パルスのXFEL発振のための条件検討に重要な情報を得ることにも成功したとしている。

 今後の研究開発によりXFELのパルス幅は将来さらに短くなり、アト秒(1アト秒は100京分の1秒)領域に到達すると予想されるとする。ちなみに今回開発された手法は、アト秒領域のパルス幅評価にも適用が可能だという。例えば、10アト秒程度のパルス幅に対しても、スペクトロメーターの分光結晶を適切に選択することで対応することができるため、将来の短パルスXFELのパルス幅評価に有力なツールとして期待できるというわけである。

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