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シリア・アサド政権も「イスラム国」も非人道性では同じ? 国際政治学者・六辻彰二
イラクやシリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)による非人道的な蛮行への警戒が高まるのと反比例して、シリアのアサド政権の影は薄くなったかにみえます。しかし、アサド政権もやはり、人権や人道の観点から多くの問題を指摘されています。アサド政権のこれまでを振り返り、ISとの関係を考えます。
アサド政権の圧政とシリア内戦
[写真]2012年6月、バッシャール・アサド大統領が議会演説で弾圧継続を言明(SANA/ロイター/アフロ)
シリアのバッシャール・アサド大統領は、父親のハーフェズ・アサド元大統領から、2000年にその座を継承しました。1970年にクーデタで実権を握ったハーフェズは、軍、情報機関、与党バアス党の幹部をシーア派の一派アラウィー派で固め、反体制派を抑圧する強権体制を確立。1979年から米国政府によって「テロ支援国家」に指定されています。
現在のアサド大統領は、就任直後にインターネットの自由化や汚職撲滅などの改革に着手しましたが、父の代からの古参幹部の抵抗もあり、大きな成果はあげられませんでした。さらに2003年のイラク戦争で米国との関係がさらに悪化し、国内統制を強める必要に迫られるなか、強権支配がぶり返したのです。2006年には国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが「数千人の政治犯が収容されている」と報告しています。
[図表]シリア「アサド政権」関連年表
そんな中、2010年末にチュニジアで始まった政治変動「アラブの春」はシリアにも波及し、2011年3月には首都ダマスカスで10万人規模のデモが発生。これに治安部隊が発砲して400名以上が死亡。これを皮切りに、各地でデモ隊と治安部隊の衝突が相次ぐなか、シリアは内戦に陥ったのです。
その後、アサド政権は2011年5月に「全ての政治犯の釈放」を発表。しかし、英紙ガーディアンは2014年1月、1万1000人の政治犯が「組織的に」殺害されたと報じ、反体制派への抑圧が続いていると伝えました。内戦の長期化にともない、欧米諸国は人権、人道の観点から批判を強めました。特に2012年8月に内戦で化学兵器が用いられると、国連の調査では使用者が特定されなかったものの、欧米諸国は独自調査で「アサド政権によるもの」と断定。危機の打開策として「アサド退陣」を求めるようになりました。
「イスラム国」台頭後のアサド政権
内戦が激化したシリアでは、欧米諸国が支持する世俗的反体制派の連合体「自由シリア軍」(FSA)と、アル・カイダ系の「アル・ヌスラ戦線」がアサド政権へ攻勢を強めました。そこに隣国イラクから流入したのが「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)でした。ISILは2013年末にシリア東部を、2014年6月にイラク北西部を制圧し、IS建国を宣言。これに対して、2014年9月から有志連合によるシリア領内での空爆が開始。それまで欧米諸国と敵対してきたアサド政権は、これを事実上黙認し、自らも空爆を含む攻撃を行っています。
しかし、その一方で、アサド政権は全面的にISと対立しているともいえません。ISの拠点の多くは有志連合が空爆していることもあり、少なくとも結果的に、アサド政権による空爆の対象はFSAなどが中心です。さらに、シリア政府は東部の油田で産出される石油をISから購入しており、この地域で使用されている携帯電話サービスはシリア企業によって現在も運用されています。
その上、ロンドンを拠点とするシリア人権監視団によると、アサド政権は燃料を詰めた樽を爆発させる「樽爆弾」(殺傷能力が高すぎるので国連で禁止されている)を空爆で使用しており、それによって2月初めの5日間で、92人のISを含むイスラム過激派とともに185人の民間人も殺害されるなど、人道的に多くの問題が指摘されています。
アサド政権と欧米諸国の関係は
それでもIS台頭をきっかけに、欧米諸国にはアサド政権との関係を見直す動きが出ています。2月15日、ド・ミストラ国連シリア特使は「アサド政権を危機の解決策の一環とすべき」と発言。さらに2月25日、フランスの与野党議員4人がシリアを訪問し、アサド大統領と面談しました。
ISの制圧が空爆だけでは難しい一方、欧米諸国は国内の厭戦ムードもあって、地上部隊の派遣に消極的。そのため、現地との協力が欠かせません。2月19日に米国とトルコはIS対策として、3月からトルコ国内の基地でFSA戦闘員の訓練を開始すると発表。しかし、アサド政権は自身が同意していない部隊の流入を「違法」と主張しています。こういった背景のもと、欧米諸国からも、アサド政権をIS包囲網に組み込むべきという声があがっているのです。
各国の警戒がISに集中するほど、アサド政権にとっては「シリアの正統な政府」としての立場を強調する上で有利になります。その観点からみれば、アサド政権がFSAなどIS以外の勢力の掃討に力を入れていることは、不思議ではありません。ただし、米国が訓練したFSAをアサド政権が攻撃した場合、どのように反応するかについて、米国政府は明らかにしていません。ISを取り巻く国際政治は、さらに複雑さを増しているといえるでしょう。
本記事は「THE PAGE」から提供を受けております。
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