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世界遺産写真家に聞く–撮影旅行の極意(テクニック編) (1) 現場では「奥行き」感を意識せよ
小泉澄夫さん
これまでに世界中100カ所以上の世界遺産を撮影している世界遺産写真家の小泉澄夫さん。撮影旅行では通常、世界遺産1カ所につき2日をあて、1回の旅行で数カ所を一度に巡るという。いかに効率よく、良い写真を数多く撮影するか。そこには、長年の経験から生まれたプロの世界遺産撮影テクニックがぎっしりと詰まっている。今回は、現地に赴いての撮影テクニック編。撮影旅行という制約の中で、いかに良い写真を数多く撮影するか。そのノウハウを教えていただいた。
逆光にこだわるな、写真は順光で撮れ
「写真はなるべく順光で撮るといい」、と小泉さんは薦める。「写真は逆光である」と教えることが多いせいか、逆光で撮った写真が良い写真だと誤解している人が多いというのだ。「たしかに写真は光をとらえる芸術です。でも、それは逆光で光線を撮影することではなく、しっかり光が当たって光と影に描かれた被写体を撮影することだと思います」と、小泉さんは続けた。光に応援してもらうには、順光で撮ることが一番いいのだという。
「それに、逆光での撮影には、危険が伴うことも忘れてはいけません」と、小泉さんは指摘する。一眼レフカメラのファインダーの場合、逆光で太陽の光を直接目に受けてしまい、収斂した強い光で目を悪くすることが多いというのだ。逆光の写真を好んで撮るプロのカメラマンには、逆光で目を悪くした人が多いという。最悪の場合、失明という事態も起こりうる。「できれば、逆光の撮影はしないこと。どうしても撮りたい場合は、ファインダーを覗く時間をできるだけ短くするか、ディスプレイを使ってください」とアドバイスされた。
いずれにしても、撮影の基本は順光であることを覚えておこう。太陽が昇り、しっかりと光が当たった世界遺産を撮影する。これが世界遺産を写真に収める基本のキだ。奇をてらうことなく、世界遺産の姿をきっちりと写真に写しとる。それがプロではなく、アマチュアカメラマンにとっては何よりも大切なことだ。
奥行き感を出すのが良い写真のツボ
世界遺産にはスケールの大きなものが多い。構図の決め方ひとつで、写真の印象が大きく変わる。では、どうすれば、スケール感のある良い写真になるのか。「そのポイントは『奥行き感』を出すことです」と、小泉さんはいう。優れた写真家は、必ず奥行きのある写真を撮る。奥行きが出るよう被写体を配したり、遠近法を使って奥行きを出すのだ。「写真の先輩である絵画の世界でも、画家たちはいかに奥行きを出すか悩み、取り組んできましたよね。名画といわれる美術作品は、画面上にいかに奥行き感を出すかを学ぶ絶好の教材です。奥行き感の勉強には名作絵画を見るといいと思いますよ」と、小泉さんは薦める。
デジタルカメラでは、被写体はどちらかといえば平面的に写る。どうすればデジカメで奥行き感を出せるのか。小泉さんが、そのテクニックを教えてくれた。「秘訣は、正面からではなく、左右どちらからか撮ることです。行く手が遠近法ですぼまり、人間の視角に自然にイメージとして立体感が生まれます」。なあんだ、そんなことかと思うほど簡単なことだが、実はなかなかこれができていない写真が多い。これだけで、写真の見栄えが驚くほど変わるそうだ。
【失敗例】イタリアのサン・ジミニャーノ歴史地区 ドゥオーモ広場。文化遺産も平面にみえて写っている
【成功例】イタリアのアルベロベッロ。奥行きが表現できている
奥行き感を体得するには、世界遺産の写真集や絵はがきを見て参考にするといいそうだ。「皆さん、あまりやりたがらないんですが、一度プロのマネをして同じような構図で写真を撮ってみてください。撮ってみたら、これは奥行き感がでている、これは出ていないと、よく見ることが大切です」と、小泉さん。まずは、こうしたプロの約束事を学んで写真を覚え、慣れてきたらある程度、自分の”感性”で自由に撮ってみる。「何事も基本が大切です」と、小泉さんは教えてくれた。